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3話 不思議な少女

「アレ?もう目が覚めたんだね」

 俺がオクトが眠るベッド脇に転移をすると、すでにオクトは頭を上げていた。

 もう少し眠っている姿を眺めていたかったという残念な気持ちと、これで話ができるという期待が胸に沸く。

「旦那様?!」

 俺が転移で入ってきたからか、ペルーラがギョッとしたような顔をした。……いや、俺が転移魔法を使う事はペルーラも知らないわけではないはずだ。

 だとすると、もしかしたら俺にはあまり聞かれたくない話をオクトとしていたのかもしれない。


「あ、そうだ。ロベルトがペルーラを庭の方で探していたよ」

「ロベルトがですか?」

 とりあえず、オクトと話すのを邪魔されないように、俺はさらっと嘘をついた。そもそもロベルトに今日は一度も会っていない。

 それでも、ロベルトとしてはペルーラと会えたら喜ぶだろう。最近ロベルトがペルーラに恋をしていると他の使用人から聞いていた。特に恋愛禁止を謳ってはいないし、仕事さえしてくれればその辺りはどちらでもいい。

 とにかくロベルトなら、ペルーラに会えば足を止める為に何かしら用件をひねり出すはずだ。

 ただペルーラは今のところロベルトの事をなんとも思っていないようで、面倒そうな顔をする。年齢からすればそろそろ獣人としては結婚適齢期に差し掛かっているはずだが、今は仕事が一番であまり興味がないようだ。獣人は恋に生きるモノも多いので、ペルーラのようなタイプはとても珍しい。

「……分かりました。すぐ戻ってきますから、オクトお嬢様は絶対安静ですからね。動いちゃ駄目ですよ!いいですね!!」

 むしろロベルトよりも、オクトの方が好感度が高いみたいだな。

 確かに先生は安静にした方がいいとは言っていたが、絶対安静で動いては駄目とは言っていない。ペルーラの言葉はオクトの体を心配しているというより、まだまだ話したい事があるから帰らないでと言っているようなものだ。

 オクトもその言葉の意味を理解しているようで、苦笑いをしている。

「ペルーラはよほど君の事を気にいったようだな」

 これほど慕っているのは以前助けられたことがあるからなのか。

 ペルーラが部屋から出ていったので話しかけると、オクトは緊張しているからか硬い表情をした。ペルーラが居た時はもう少し柔らかい表情をしていたように思うが……。


「あの……助けていただいたみたいで――」

 俺だけになった途端、礼を言ってさっさと帰ろうとする空気を感じ、胸の中に不快感が沸き起こる。

 もう少し何か俺に話す事はないのだろうか。ドルン国で会って以来の久々の再会だというのに。それともオクトは俺とそんなに話をしたくないのだろうか。

 ただ、もしかしたら彼女は体が辛くて早々に帰って休みたいだけかもしれない。そう思い、俺はこの独りよがりな苛立ちを彼女にぶつけて怖がらせない為に、とりあえず笑顔を向けておいた。しかし俺の笑顔を見たオクトの顔色がさらに悪くなる。そんな顔が見たいわけではないのに、どうしたらいいのだろう。

 とにかくまずは緊張を解いて貰うために話題を振ってみる事にした。

「ものぐさな賢者」


 何を話そうと考え、先ほど先生から聞いたばかりの彼女自身の話をしてみる。

「アロッロ伯爵の領地である魔の森の麓には、幼い姿をした変わり者の賢者がいる。賢者は混ぜモノで、薬を生業にしているが、彼女が使う魔法はとても素晴らしく独特な発想をしている」

 褒めているのか貶しているのか、実際に声に出してみると微妙な話だ。

 でも実際、彼女は普通ではなさそうなので、【変】でくくられてしまっても仕方がない。天才は得てしてそういう評価を受けるものだ。

 そういえば、精霊魔法を使うとも先生は言っていたっけ。

 俺は彼女の細い腕をつかみ袖をめくる。そこには昔読んだ書物に書かれた通り、腕に絡みつくような蔦の痣があった。精霊は自己主張が強く、契約者には痣を残すと聞く。こんな痣が偶然できるとも思えないので、やはり何らかの契約をしているのだろう。

「そして自分でも多種多様な魔法が使えるのに、7種もの精霊と契約した変わり者……本人で間違いないかな?」

 精霊魔法は魔力の消費が激しい。確かに多種多様な魔法が使えるなら、契約をしている彼女はかなりの変わり者だ。

 まあ、魔力の大きな混ぜモノだからできる事なのかもしれないけれど。


 俺がじっと見てオクトの答えを待っていると、彼女は少しためらった後、こくりと頷いた。

「そして、君は数年前に俺を助けてくれた混ぜモノの子だね」

 俺の問いに、オクトは戸惑った顔をする。

 多分忘れてはいないと思う。何故なら彼女は倒れる直前、確かに俺の愛称を呼んだのだから。でもここで嘘をつかれたら――俺の事など知らないと言ったら。

 俺の中に生まれた不快感が、黒い濁ったような感情へと変容していく。

 オクトに拒絶をされたくない。そんなのは認められない。

「まさか、忘れたって事はないよね」

「はい、私です。忘れてません」

 今度ははっきりと俺の問いかけに答えた。

 その事に俺はホッとする。良かった。もしもここで嘘をつかれたら、俺は俺の痛みを彼女に分からせるために酷いことをしてしまったかもしれない。

 どうにも、オクトのことに関して俺は普通ではいられないようだ。やはり俺がなくした記憶と彼女は関係があるのではないだろうか。

「そっか。良かったよ。もしも忘れたと言ったら、どうやって思いだしてもらおうかと思ったんだ」


 思い出させるというか、口を割らせるかだけど。

 でもきっと普通に話してはくれないだろう。できたら素直に話してもらいたいんだけどなぁ。そう思いながらオクトを見ていると、いつの間にか間をつめていたようだ。

 オクトの背中が壁にぶつかっているのを見てそれに気づく。……かなり臆病な子なんだな。

 特に何かしたわけではないけれど、オクトは文句を言うことなく、俺から逃げるように後ずさっていたらしい。

 怯えさせたいわけでもないんだよな。

 どちらかというと興味が尽きない相手なので色々話をしたいだけなのだ。とりあえず、子供には笑いかければいいんだっけか。笑顔、笑顔と。

「ようやく会えてうれしいな。小さな賢者様?」

 俺がそう言うと、オクトは盛大に顔を引きつらせた。

 ……だから、何でそう言う顔をするのだろう。 






◇◆◇◆◇◆◇






 結局あの後、オクトは体調がすぐれない事を理由に帰ってしまった。

 家まで送ると言ったのだが、オクトは大丈夫と言って譲らず、腕輪の魔道具を使って転移魔法をを起動させて自力で帰った。確かに道具を使えば、魔の森という厄介な場所でも問題なく転移ができるはずなので、彼女の言い分は正しい。

 それでも少しでも彼女と一緒に居たかったと思う俺はおかしいのだろうか。


 そして彼女との再会後に、【ものぐさな賢者】の噂についてリストに聞いたのだが、予想以上に簡単に教えてくれた。

 今一番話題に上がっている賢者で、リストがこの間買ってきたアイスクリームやシャーベットを考えたのも彼女だそうだ。驚いたのは、エンドもその事を知っていたようで、昔菓子作りを彼女に教わった事があるらしい。

 オクトもなんでそんな無駄な時間を費やしたのだろう。コイツに料理を教えるほど無謀な事はないと思う。コイツの料理音痴は、ある意味天才的だ。たまに隣の部屋から爆発音が聞こえるが、俺は今までにそんな音を立てて料理をして、美味しいものを作り出すヒトを見たことがない。

 ただ2人ともオクトについて隠しているわけではないようで、俺が聞けばあっさりと答える。

 ペルーラもそうだ。

 オクトに助けてもらったという彼女に、どういう病気だったのかや、どうやって治したのかを聞くと普通に答えた。

 まだヘキサには確認していないが、何となく今まで聞いたヒトと変わらない反応な気がする。


 オクトについて隠されていると思っていたのが間違いだったのかと思うほどに、聞けば誰もが普通に答えた。やはりただ単に、俺が周りへの興味を失っていたから、オクトについて知らなかっただけだろうか。

 良く分からない。

 良く分からないが、話を聞いてもオクトについて興味が尽きない。特に話を聞いて、オクトだけでなく、オクトの魔術についてもとても興味が湧いた。是非話してみたい。

 そして一緒に研究をしてみたい。

 その為にはもう一度、会うしかない。

「再び偶然会うなんて事はあり得ないしな」

 偶然を待っていたら何年後になるか分からない。だから今度は俺から会いに行こう。

 オクトが身に着けている追跡魔法はまだちゃんと使えるようで、彼女が今魔の森の麓にいるのは間違いなさそうだ。

 俺は共同研究をしたい相手がいる旨と、今日はその子に会いに行く事を手紙に綴り、上司へ魔法で飛ばす。これで準備は整った。

 俺は準備を手早く済ませると、早速頭の中に魔法陣を思い描く。

 

 さあ、彼女に会いに行こう。

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