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18話 魔王な存在

「そう呼ばれるのは久々ですねぇ」

 俺が魔王と呼ぶと、カズは苦笑した。

「ここ半世紀は召集もしてないからな」

「ええ。魔王はただのお飾り。国も土地も持たないのですし、わざわざ何度も召集する必要はないでしょう。来年か再来年ぐらいには、1度は集めるつもりですけどね。それにしても本当に厄介な種族ですよねぇ。私は大迷惑です」

 カズは心底嫌そうな顔をした。カズに忠誠を誓っている魔族がいたら、ぶっ倒れるのではないかと思う。迷惑だなんて言われたら、自殺するか、はたまた暴走しかねない。

 勿論、ここに居ないと分かって言っているのだろうけれど。

「魔王なんて、何にもいい事ないですし。どうです? 折角ですし魔王をやってみませんか? 魔王になれば、魔族の呪いも和らぎますよ」

「嫌だ。何が悲しくて、魔族に仕えられるなんて、心臓に悪いものを背負わないといけないんだ。それに俺はこのままで構わないさ」

 というか、何もいい事ないと言っておいて譲ろうとするな。

 

 魔族の魔王というのはかなり特殊だ。国も土地もない。あるのは、魔族という民だけ。

 魔王は多くの魔族に好意ないし執着を向けられ、それを受け止めなければならない。魔族というのは否定さえされなければ勝手にしているので、簡単そうにも見える。しかし一言何かお願いを口にしてしまえば最後、それがどれだけ歪な願いでも仕える魔族が叶えようとする。

 そんな盲目的な魔力馬鹿な魔族は、ある意味戦闘兵器。魔王になれば、世界を滅ぼせそうなソレをずっと懐に入れて置かなければならないのだ。その力を使ってはいけない、でも適度に召集をし、彼らの好意を否定せず受け止めなければいけない。はっきり言って厄介極まりない役職だ。

 ただし、利点がないわけでもない。

 魔王になれば、魔族の呪いともいえる、【異様な執着】は薄れる。それに絶対魔族達を使ってはいけないわけでもない。どうしても譲れない願いがあるなら、その力を使うのは魔王の自由だ。

 もちろんその願いが起こしたすべての事象の責任は、魔王がとらなければいけないが。

「何です。もう誰かに骨抜きにされてしまいましたか。誰です? 貴方が一方的に仕えている相手は」

「一方的と決めつけるな。それに仕えているわけじゃない。守っているだけだ」

「魔族の場合それを仕えているというんですよ。……やっている事は大して変わりませんので。もしかして、先ほどクロと一緒にいた、混ぜモノの子ですか?」

「悪いか」

 文句を付けられる筋合いはない。俺の一番が誰であろうと、魔王には関係のない話だ。


「別に悪くはないですよ。とりあえずクロに、幼馴染だからといって同情をして、魔族から助けようとする愚かな行為は止めておきなさいと伝えておくだけです」

「だからどうして、助けるという話になるんだ」

 失礼極まりない。何で俺の好意がすべて問題ありというような言い方をするんだ。

「まあ、彼女が助けを求めていないならば、それが一番いいんですけど。魔族の執着と相性の悪い人は結構いますからねぇ……おっと。クロが戻ってきたようです。後は後ほど」

「俺の挨拶はすんだと思うんだけど?」

 後ほどなんて必要ない。むしろこれっきりでも構わない。

「そうですか? 人生何があるか分かりませんよ。魔族の力を貸して欲しいと思う事だって――」

「ない」

 相当面倒らしいな、魔王の仕事は。

 押し付けようとする、カズに俺はきっぱりと答える。俺は別に自分自身にかけられた魔族の呪いをこのまま背負って死ぬつもりだ。それに俺の力でオクトを守る事は出来る。

「まあ、気が向いたら言って下さい。私は任期が終了していますから、いつでも交代可能ですし」

「カズ、連れてきたぞ」

「おやおや。クロにしては、仕事が早いですね」

 走ってやって来たクロに、カズはニコリと笑う。今、話していた事なんて何もなかったかのように。

 もしかしたら、クロはカズの正体を知らないのだろうか。

「魔族の事を思うなら、魔王の事は、この国では内緒にしておいて下さい。この国に魔法はいらないので」

 カズは俺の方を見ず、ぼそりとそう伝えた。





◇◆◇◆◇◆◇◆






 オクトは、厄介事を見つける天才なのだろうか。そんな事を思いながら、携帯電話というものをいじるオクトを見る。


 クロの育て親に会いに来て、早速オクトは質問攻めにあった。その後、携帯電話を確認していたのだが、それを見てからどうにもオクトの様子がおかしい。

 さらにオクトは携帯電話に対して『懐かしい』と発言した。

 普通に考えて、異界の携帯電話に対して、懐かしいなんて発言は出てこない。……やっぱり、何かオクトにはまだ他にも秘密があるのではないだろうか。

 そもそも、オクトの母親というのはどういう人物なのだろう。今まで、オクトの事しか見ていなかったので、そこまで興味を持ったことがなかったが、改めて考えると不思議だ。何故オクトの母親はそこまで、異界の事に詳しいのだろう。

 そもそも、どうして混ぜモノを産むことができたんだ?

 普通は、混ぜモノは生まれない。理論的に考えれば、母体が異質なモノに耐えられないはずなのだ。でも、実際に生まれてくる。それに混ぜモノの子は魔力が安定せず上手く育たないと聞く。だから混ぜモノというのは数が極端に少ないのだと。


「オクト」

「何?」

 俺はふとある事に思いいたり、オクトの顔を両手ではさむように触った。

 そして右目の下あたりにある隈のような2本の棒状の痣をなぞるように左手を動かす。刺青ではないので、凹凸はない。また汚れでもないので、俺が触ったとしても消える事はない。

 混ぜモノである証は、顔に痣がある事といわれる。100年前に確認されている混ぜモノにももちろんあったと記述が残っていた。でも混ぜモノの種類は多種多様。色んな組み合わせが考えられる。なのに、何故全ての混ぜモノに痣があるのだろう。

「アスタ、何?」

「いや、何でもない。ただオクトの顔に触ってみたくなって」

「はあ」

 オクトは不思議そうに首を傾げた。

「って、ストーップ。そこっ!! この家の中で、おかしな空気を醸し出すな!!」

「おかしな空気?」

「何が?」

 クロが騒ぐが意味が分からない。ただ顔を触って、痣を確認していただけなのに、何かおかしいだろうか?

「なあ、カミュ。あれは問題ないのか?」

「問題ないんじゃないかな? たぶんただの魔術的好奇心の方が強そうだし」

 だから、何が問題なんだ。ライがカミュエル王子に聞いているが、どの辺りに問題があるのかさっぱり分からない。顔の痣を確認したかったら、普通に触ったりもするだろうが。

 俺は解せない気持ちだったが、とりあえず今分かった事を整理する。


 顔にあるのは確かに痣だ。ただしオクトの腕に巻き付いている、精霊との契約の証と変わらないものだと思う。精霊は上位になればなるほど、目に見える場所に痣をつけようとする。となれば、もしかしたら上位の精霊との契約の証ではないだろうか。

 ただ赤子に精霊との契約ができるはずもないので、精霊との契約を交わすのは母親だ。 そして対価は一体なんだ? そしてオクトはどの高位精霊と契約を交わした? 普通に考えれば、精霊の種類はオクトが持っている属性のどれかだとは思うが……。


 オクトの魔力は、風、水、闇、時の4属性という、かなり珍しい多種多様タイプだ。勿論オクトの血は、精霊、獣人、エルフ、人の4種類。4属性を持っていたとしても、おかしな話ではない。

 ただし【時】の魔力というのは、レア中のレアだ。俺も館長と、オクトの友人であった少年しか見た事がない。

 そもそも、時の魔力なんて、どうして存在するのだろう。この世界にはもう、時の神はいない事になっている。だとしたら時属性の人は生まれないのではないだろうか。

「……情報が足りないな」

 足りない所為で、思考が迷走する。

 見えかけているのに、見えない感じがしてイライラした。

 属性というものは親と同じパターンが多い。ならば、オクトの親に時の属性を持ったモノがいた可能性だってある。でもだったら、この世界に時属性を持つヒトがもっといてもいいのではないだろうか。

 これから会いに行くのは、時の精霊で――。

「アスタ、何か困った事があるの?」

 オクトに声をかけられ、現実に俺は意識を引き戻す。俺を見つめる青い瞳は不安そうだ。……オクトに心配をさせるべきではないので、考えるのは後に回すか。

 

「いや、大丈夫だ」

 俺は、俺の事を心配してくれる、愛おしい存在の頭に手を置いた。

 どうしても、彼女を守りたいと思いながら。

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