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17話 魔族な話

「守られてばかりじゃなくて、私もアスタを守るから」


 ……オクトの事を大切に守ろうとした矢先に、オクト自身にそう宣言された俺は、深くため息をついた。

 何か悩み事があったようだが、それは吹っ切れたらしく、現在は普通だ。悩み事がなくなったのはいい事としても、俺としてはあまり頑張らないで欲しいところなのだけど。

 精霊魔法を使うとどうしてもオクトの体に負担がかかる。自立心旺盛なのはいいが、出来たら大人しく待っていて欲しいところだ。

「どうしたらいいんだろうな」

 オクトのしたいようにさせてあげたい。でもオクトがボロボロになっていく姿は見たくないというのが正直なところだ。もちろんオクトの能力なら、そこいらの海賊なんて簡単に蹴散らせるだろう。俺の娘だったのだから当然だ。

 ただあまり自立心が強くなりすぎると、いつの間にか神様になっていましたとかありそうで恐ろしい。このオクトの自立します発言は、カミュエル王子が何か裏で手を引いているようだが、一体何を考えているんだか。


 とりあえず俺は船から降りると、オクトの姿を探した。

 オクトは、『私もアスタを守る』と言ったのだ。つまり俺がオクトを守る事に対しては認めてくれているという事。だったら、とにかく近くにいて、オクトが無茶をしないよう見守るしかない。

 船から少し離れた場所でオクトの姿を見つけた俺は、オクトを捕まえる為に後ろから抱き付いた。

「オクトっ!」

「アスタ、苦しい」

 それほど強く抱きしめているつもりはなかったが、逃がさないように力が入りすぎていたらしい。バシバシとオクトが腕を叩く。それほど強い抵抗ではなかったが、俺はオクトを壊さないように力を緩めた。

「それで、今後の予定だけど。私的には時の精霊のトキワさんに会えるならどういう形でもいいけど。……えっと、クロ?」

「あ、……ああ。えっと。予定、予定だったな。できたら俺の育ての親の爺さんに先に会ってもらいたいんだけど。それでもいいか」

 オクトが話した事で、俺は目の前にクロがいる事に気が付いた。

 ……というか。

「何でお前の育ての親に、オクトが会わないといけないんだ?」

「アスタ、我儘言わない」

 オクトが可愛い顔をしてめっと言ってきて、俺は何とも言えない気持ちになる。オクトの言う事を聞いてばかりでは駄目だと思うのに逆らえない。

 なので大人しく、オクトとクロの会話を聞いた。

 本当にオクトの不利になるようなら口出しをしようと考えながら。


「クロ、ごめん。アスタはその……ちょっと、子供っぽい所があるから」

「いや、オクトが謝らなくてもいいというか、むしろ何で他人のオクトが謝るんだというか……」

 クロは複雑そうな顔で俺を見てきた。

 でも俺の考えはもうコイツに伝えた通りだ。この状況にしているのは、オクトの判断に他ならない。クロもそれが分かったのだろう。小さくため息をついて、頭を切り替えたようだ。

「まあいいや。爺さんに会って欲しいのは、ケイタイデンワが動くようになったから連れてこいってしつこく手紙を送ってくるからなんだよ」 

「えっ。動いたの?」

「ああ。ただ、遠くの相手とは、どうやって話をすればいいのか分からないんだってさ。だから使い方が分かるなら教えてやって欲しいんだけど」

 俺の知らない単語だ。

 いや。確か昔オクトが異界屋でそんな単語を使っていた気もする。

「クロ」

 どんなのだったかなと考えていると、別の人物がクロを呼んだ。

 男にしては高目だが、女にしては低い声に、俺は誰だと見渡して見つけた――げっ。


「げっ。カズ――」

 俺の心の声と、クロの声が被った瞬間、クロはカズと呼ばれる魔族の男に、思いっきり杖で殴られた。魔法を使うための杖のようだが、今は棍棒と化している。ある意味勿体ない使い方というか、逆に有効活用しているというか……。

「私は帰ってくる時はかならず連絡を入れなさいと教えましたよね」

「いってぇ。……着いたら連絡するつもりだったんだよ」

「着いたらじゃ意味がないでしょうに。貴方の育ての親からの連絡がなければ、私もここに来ることができなかったんですよ」

「……来るから連絡しなかったんだよ」

 クロの奴、まさかよりによって、コイツの知り合いかよ。俺は顔をしかめた。

 黒の大地にいるとは聞いていたが、まさかこんな早々に会う事になるとは思わなかった。会うと分かっていたら、できるだけ回避したというのに。


「へぇ。クロはマゾだったんですね。知りませんでした」

「ぎゃおっ!!カズ……てめぇ」

 足を強打されて、クロがしゃがみこむ。

「ああ。マゾなんて性癖を持ち合わせた方が自分たちの暮らしを決めていると知ったら、民衆は大いに嘆くでしょうね。そして私も泣きたい気持ちでいっぱいです。でも安心して下さい。私が貴方を正しい方向に――」

「導かれて溜まるかっ!畜生。カズがドSなだけだろうが。俺はサンドバックじゃねぇ!」

 クロはこの分だと、カズの正体を知らずにいるようだ。もしくは、カズが上手くクロに隠しているのかもしれない。

「えっと……クロ?」

「すみません。申し遅れました。私はクロに魔術師として仕えている、カザルズと申します。貴方が、クロの幼馴染のオクト嬢ですね」

「はぁ。……えっ?仕える?」

 カズは俺が睨みつけているにも関わらず、オクトに話しかけた。まあ、カズが俺の睨みごときでどうにかなるとは思えない。

「何ですか。折角幼馴染の女の子と、運命の再会ができたとか言っていたのに、まだ伝えてなかったんですか。本当に、ヘタレですね」

「五月蠅いっ!大体、あんなの無効だ。俺は認めてないっての」

「貴方が認めなくても国が認めています。実はクロはこの国の王子様なんですよ」

 そう言ってニコリとカズは笑う。

 ……マジで?クロが王子というのも驚いたが、そんなクロにカズが仕えているというのも驚きだ。いや、だから仕えているのか?


「違うから。ったく。勝手に言うなよ。……実はホンニ帝国の王様の子供は姫様しかいないから、以前くじ引きで王子を選んだんだよ」

「はい?」

「もちろんくじ引きだけじゃありませんよ。知力の優れたモノ、体力の優れたモノと一緒に時の運の優れたモノを集めて、そこでさらに争っていただき決めたわけですから」

「それは斬新だね。選ばれた若者は貴族なのかい?」

 というか、最初からクロを選ぶ予定だったんだろ。

 そんな馬鹿な次期王の決め方があったらたまらない。

「知力と体力の優れたモノはそうですね。王族と近い家系のモノから選ばれました。ただ時の運のみは、この国の国民全ての中から選びました。くじ引きで」

 くじを強調しているが、カズはクロが選ばれるように何か仕掛けをしたに違いない。きっとクロもまた王族と近い家系のモノなのだろう。

 ギャーギャーとクロが文句を言うが、カズはもう決まった事だとシレッとした様子だ。

 コイツも不幸だよなと、自分の事を棚上げでクロに少し同情する。魔族に目をつけられたら最後だと、俺が一番良く知っていた。たぶんクロは本人が望まなくても、この国の王に最終的にされるだろう。魔族であるカズが逃がす気がしない。

 それにカズは、魔族の中でもかなり特殊だ。

「何でもいいですが、さっさと王都に行きますよ。それから、王都に行きたいヒトを集めて下さい。私が転移魔法で全員お送りしますので」

「えっ、マジで?送ってくれるの?」

「何のために私が来たと思うのです。姫様達が首を長くして待っているからに決まっているでしょう。ここから馬車で行けば最低でも5日はかかりますからね。この国で転移魔法が使えるのは私だけですので」


 どうやら、この国は魔法があまり発展していないようだ。人族中心の国だとも聞いている。

 ……だからカズは魔法がそれほど重要視されていないこの国に住むことを選んだのかもしれない。

「おお。流石、カズ。頼りになる!」

「調子のいい事で。何でもいいですから、早くして下さいね。少なくとも明日には城へ一度来ていただきますから」

「オクト、カミュ達を呼んでこようぜ」

「あ、うん」

 オクトが頷いたのを見て、俺はオクトから離れた。

 オクトが突然離れた俺に不思議そうな顔をする。

「俺はここで待ってるよ」

「分かった」

 オクトはこくりと頷くと、クロと一緒に走っていった。2人がいなくなった所で、俺は改めてカズを見る。

 面倒そうだし、できれば会いたくはなかった。でも会ってしまったのだから仕方がない。なので挨拶をする。


「初めまして。俺はアスタリスク・アロッロという。父はセイ、母はウェネルティだ」

「ああ。御父上と御母上には会った事がありますよ。貴方は初めてですね」

「一応、貴方がいなくても何とかなっているので――」

 そう言って俺は肩をすくめる。

 俺は結局ソレに頼らずにここまで来た。そして、これからも頼る気はない。オクトが俺の最期と決めたから。

「――現魔王様」

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