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13話 不思議な決まり事

 【夜12時。魔の森の賢者の屋敷の扉の前】


 そんなメモが上司から渡された仕事の資料の間から出てきた。それを見た瞬間、面倒だなという思いが湧く。

 このメモの出先は、カミュエル王子で間違いないだろう。だとしたらこの間、ライから伝言を受けた【内密の話】の件で間違いない。でも時間指定を伝えるのすらライを経ずとか、とてつもなく嫌な予感がする。はっきり言って、メモを破り見なかったことにしてしまいたい。

 ……でもオクトに関する事なんだろうなぁと思うとそれができない。

 

 色んな面倒さに心揺れながらも、結局俺は12時少し前に家の外へ出た。

 オクトは比較的遅くまで起きている事が多い。しかし最近は特に忙しいようで、疲れているらしく、本を読んだまま寝ていたりする。その為俺は夜中にオクトをベッドまで運ぶことが多かった。

 今日も、精霊について書かれた本を読みながら寝てしまったオクトをベッドまで運んだところだったりする。精霊魔法まで取得しておいて、今更何を調べているのか分からないが、疲れている時ぐらい本を読むのを止めればいいのにと思ってしまう。

 俺はオクトを持ち上げると、いつもその軽さに不安になる。オクト位の身長の子供を運んだことがないので、なんとも言えないが、でもやっぱりオクトは痩せすぎだ。食べていないわけではない。でも太らないのは、それだけエネルギーを使っているという事。しかしオクトが運動をしている様子はあまりない。となるとオクトがエネルギーを使っている部分は別となる。

「やっぱ、精霊との契約が原因か?」

 俺が記憶を失う前と後で大きく変わったのは、それだ。

 オクトの腕に絡みつくかのようについた痣は、俺が記憶を失う前にはなかったものだ。どうして精霊と契約をしたのかは分からないし、どうして解除をしないのかも分からない。

 はっきりとそれが理由だと言えれば強制的に解除させるのだが、オクトはあまり精霊については話さないので、中々核心に行きつかない。オクト自身精霊についての本を読み漁っていると言う事は、まだ精霊についてオクトも分からない事が多いのかもしれないけれど。


「ん?」

 オクトの事を考えながらドアにもたれかかっていると、突然ドアから数歩離れた先が光りだす。何だと思いつつ近づけは、魔法陣の形に地面が光っているのが確認できた。

「遠くから光魔法で映し出しているのか?」

 この光り輝く魔法陣は形を見る限り転移魔法用のものだ。

 位置指定は、ついとなる魔法陣となっているようだが……これがカミュエル王子の仕業だとすると、どこまで厳重なんだろう。嫌な予感しかしないが、俺は誘いに乗りその魔法陣の上に立った。

「俺が魔力を流せばいいのか?」

 【空】の属性に魔力を変換し、俺は光る魔法陣に合わせて魔力を流した。

 すると目の前が揺れ、瞬きをする間に視界が変わる。そして変わった先には、相変わらず食えない笑みを浮かべたカミュエル王子がいた。

「その薄気味悪いにやけた顔でずっと待機をしていたのか」

「いいえ。アスタリスク魔術師に来ていただけた事が喜ばしくて今笑ったんです。わざわざ来ていただきありがとうございます」

「それで、何の用だ。それと、そのわざとらしい敬語は止めろ」

 俺とカミュエル王子の関係でいえば、俺の方が敬語でしゃべるのが普通だ。あえて俺と距離をとっているのは分かるが、正直気持ち悪い。

 

「アスタリスク魔術師には記憶がないですけれど、一応貴方は僕にとって魔術の師匠ですから。それなりに敬意を払っているんですよ」

「あ、そう」

「まあ、嫌なら止めるけど。こちらに席を用意したから移動してもらえるかい?」

 俺としては、王子が敬語だろうとそうでなかろうと構わないのでどちらでもいいと言うのが正直なところだ。気持ち悪くはあるけれど。なので俺は特にそれには言及せず、カミュエル王子に続いて魔法陣から移動した。

「ここがどこなのかは聞かないで欲しいかな。ある人物に無理を言って貸して頂いた場所だから。そしてここでの話は、その貸し出して下さった方以外は絶対聞けないから安心してくれていいよ」

「カミュエル王子が俺に伝えたい話は、その貸し出して下さった方には聞かれていいのか?」

「その方から教えてもらった話でもあるからね。それに、アスタリスク魔術師には聞いておいて欲しいから。……きっと、オクトさんを最後に止められるのは貴方だと思う」

「止める?」

 やはりオクトの話かという思いと、止めるという言葉が何を指示しているのか分からず訝しむ。オクトは、何かとんでもない事をしようとしているのだろうか……。ただオクトはあまり自分の為に動いたりしない。だとすると、誰か他人の為に動くという事で――。ふと、カミュエル王子の話とは別件で精霊魔法もオクト自身の為ではないのではないかと思った。何となくだが、オクトが自分から積極的に他者との契約をするようには思えない為に。


「どうぞ。座って。もしかしたら長い話になるかもしれないから」

 カミュに勧められて、俺は椅子に座った。

 長い話になるとはどういう意味なのか。カミュから提示される情報は、今のところとても少なくて、想像するには難しかった。ただし、オクトが関わっているならば俺は聞いておくべきだろう。特に、要領のいいカミュエル王子がそう判断するならば。

「どこから話せばいいのか難しいところだけれど、まずは現状のオクトさんについて話させてもらうよ」

「オクトについて?」

 体調などについてだろうか? しかしその話と内密にする件が繋がらない。 

「そう。今のオクトさんは、アールベロ国の国民じゃない。元々オクトさんは、旅芸人の一座の中で生まれて、どこの国籍にも大地にも所属してはいないんだ」

「それで?」

 カミュエル王子の話は体調の話とはまた違うものだった。

 確かにオクトを旅芸人の一座から引き取ったのは俺で、俺と親子関係が元々なかった事になれば元に戻る。そして旅芸人は、唯一何の国籍もしがらみも持たないでいる事ができる者達だ。一応どこかの国が後ろ盾になっている事が多いが、国を持たないもの達の集まりであり、訳ありのものが多いと聞く。

「この世界には取り決めがあって、この世界のどの王族も、【旅芸人】に関与してはいけないとなっているんだ。異国の情報を貰う代わりに、自国に来た時は歓迎する事で関係を持つことはできるけれど、決して彼らに命令をしてはいけないんだ」

「は? 何だそれ。誰がそんな事決めてるんだ」

 この世界のどの王族もとは、また大きな枠組みだ。しかも王が命令できないなんて初めて聞いた。

「神様だよ。龍神がそれを決めていて、王族はそれに従わなければならない義務を持つんだ。【旅芸人】は不可侵。他の大地との交流はしてはいけないなどの取り決めをね。もっとも、過去の王族が上手く交渉して、アールベロ国の魔法学校のような例外を作り出している国もあるけれど」

 龍神というのは聞いた事があった。

 神話の中だけできく空想の存在のようだが、実際にこの世界にはいて、王族しか会うことができないと言われる。逆に言えば神に会うことができなければ、それは王族ではないとも聞く。新しくできた集まりが国かどうかを決めるのは、結局のところ神だそうだ。


「だから今のオクトさんは、僕の兄でも手が出せない、国籍のない旅芸人なんだ。オクトさんがアールベロ国に所属したいと思わない限り、このままの方がオクトさんの為だと思う。どうしてもこの国の王族は、【混ぜモノ】を利用したいと考えてしまうから」

 なるほど。

 確かにこれは聞かれたら、コイツ自身マズイ内容だろう。

「さしずめカミュエル王子は、オクトを自国に勧誘する役割という所か」

「まあ、正直に言えばそれかな。だからオクトさんの近くにずっといる。でも僕はそれだけは望まない」

 カミュエル王子をはじめとした王族は、平気で嘘をつく。だからカミュエル王子が言っている事をそのまま鵜呑みにしていいとは限らない。

 しかし何となく今の言葉だけは信じていい気がした。

「だから俺がオクトとどう付き合っていくのか気になったわけか」

「もしも養子など考えられているなら、やめて欲しいなと思ってね。オクトさんの近くに居るのは構わないけれど、戸籍に関してはそっとしておいて欲しいんだ。オクトさん為にも」

 なるほど。

 俺がいない間に、これがカミュエル王子なりに考えたオクトを守る方法というわけだ。

 確かに一般人の俺は知らなかったが、王族がそんな神様との取り決めに縛られるのならば、オクトはこのままの方が良いだろう。

「ただ、その状態だとオクトは結婚もできなくなるんじゃないか?」

「オクトさんが望んだ時は仕方がないと思っているよ。でもそれまでは、王族とは関わらずに生きていてほしいんだ」

 やけに愁傷な事で。

 カミュエルなら思いっきりオクトを利用しそうな気がしたが何か心境の変化でもあったのだろうか。


「それで、伝えたいのはそれだけか?」

「まさか。これだけの事ならここまで面倒な仕掛けをしないよ。それとは別件かな。少し混ぜモノについても話しておきたいと思ってね」

「混ぜモノについて?」

 混ぜモノについてなんて情報が少なすぎて誰も知らない話ではないだろうか。オクトを引き取ったばかりの時に色々調べたが、それ以上の事をカミュエル王子が知っているとも思えないのだが。

「この世界の神様が元は何だったか知っているかい?」

「は?」

 元?

 神様に元があるのか?

 全然予想もしなかった言葉に俺はきょとんとしてしまう。そもそも神について俺はほとんど知らないと言ってもいい。

「まあこんな質問をすれば、流れ的に分かるかもしれないけれど。答えは、【混ぜモノ】だよ」

「は?」

 全く理解ができない内容に俺はもう一度、聞き返した。

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