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12話 無防備な少女

「くるくる~」

 そう言って、アユムがドレスを着て回る。

 アユムのピンク色のドレスは、回ると花のように広がった。ここまで考えてアユムが選んだとしたら、オクトとは違い色々美的センスが高そうだ。

だが子供の行動というのは良く分からないもので、今の動きに何の意味があるのか全く持って理解ができない。

「目が回ったー」

「そんなに回るから」

 そう言ってドレスのまま地面に転がって笑うアユムにオクトは仕方がないとばかりにため息をつく。そんなオクトもいつもの男物の服に白衣というずぼらな恰好とは違い、青色のドレスに身を包んでいる。こうやって改めてオクトを見ると完璧な美少女だ。

「ほら、汚れるから椅子に座ろう」

「オクト、かわいい?」

「かわいい、かわいい。くるくるしなくても、アユムは可愛いよ」

「えへへ」

 いや、オクトも十分可愛いから。

 妹の面倒をみているお姉ちゃんのような姿にクラクラする。何だこの可愛い生き物は。

「オクトも凄く可愛いよ」

「あー……別に比べられて、ひがんだりはしないからお世辞はいらない」

 俺の素直な感想に、オクトは困ったような表情をした。

 分かってないなぁ。

「お世辞じゃなくて、本当だって。なあ、アユム」

「うん!オクトもかわいいー」

「……ども」

 オクトはさらに困惑したような顔をしつつも、アユムにまで言われた事で否定するのは止めたようだ。でも、分かってないだろうなぁ。

 オクトの中の自己評価は相変わらず必要以上に低い。

「アスタも似合っているよ」

「えっ、本当か?」

 まさかオクトが褒め返してくるとは思わなくてドキリとする。

 でも、それがただのお世辞だとしても、オクトから言われたというだけで、誇らしいような嬉しい気持ちになる。貴族の服というのは無駄が多い気がして、あまり好きではなかったが、これはこれで悪くないかもしれないなんて思えた。


 するとオクトが俺を見ながら、笑いをこらえたような顔をする。あふれてくる笑みがこぼれそうと言わんばかりの表情だが、一体どうしたのだろう。

「オクト、何を笑っているんだい?」

「べ、別に……。それより、そろろろ行かないと式に遅れる」

 オクトは何かを誤魔化すように、式の時間をアピールした。確かに、もうそろそろ出かけた方が良いだろう。結婚式に遅刻をしたら、ヘキサが後々までずっと引きずりそうだ。

 しかしオクトのこの微妙な表情も気になる。……なんだか碌でもない事を考えている様な――。

「アユム、おいで」

 転移するために、オクトがアユムと手を繋いだのを見て、俺はとりあえず追及を諦めた。たぶんオクトの事だから、そのうちボロがでて分かるだろう。

 そう思いつつ、俺はオクトと一緒に転移をした。





◇◆◇◆◇◆◇





 結婚式場にやって来たはいいが、ヘキサの結婚相手である女館長の叔父が毒殺されかけるという物騒な事件が起こり中断した。

 その為ヘキサは混乱を抑える為に動き回り、オクトは事件解決の為に女館長に連れて行かれた為、俺は暇だった。何しにここまできたんだっけかなぁと考えつつ、オクトの友人である獣人の女の子に遊んでもらっているアユムを見る。

 こうやって見ると、本当にオクトは大人しい子供だったんだなと思う。

 俺がオクトを引き取ったころと、アユムの年齢はそんなに変わらない気がする。しかし、アユムとオクトは全然違った。体格はさておき、成長度合いを見ると、明らかにオクトの方が高い。

 しかしオクトの場合は、外見的に成長が極端に遅いエルフ族の血が一番強く出ていそうなのだがその辺りどうなのだろう。そもそもオクトは普通とは違う知識を持っていて、俺が最初に興味を持ったのもそこだったはず。オクトに聞くとママから聞いたと返事が返ってきていたが、はたしてたった5歳の子供がそこまで記憶できるものなのだろうか。

 アユムを見ていて特にそう思うようになった。


 それによって、オクトに対して何か思う事が変わるわけではないが、時折そんなに早く成長してしまったら、そのまま年寄りになって死んでしまうのではないかと思えてくる瞬間がある。

 もちろんオクトの体の成長は遅く、ここ数年はほぼ成長していないと言っていいような成長速度だそうだ。だからそんな心配は無用だろう。それでもオクトが死んでしまうというのは、俺にとっては恐怖でしかなく、必要以上に心配になるのだ。

「なあ師匠、ちょっといい?」

 俺が壁にもたれかかり、ぼんやりとしていると、ライが声をかけてきた。

「オクトを俺に下さいと言い出したら、今すぐお前をこの世から消す」

「怖っ。ちょ、少し位、弟子に対する優しさはないわけ?! この世から消すとか何?!」

「肉体的にも社会的にもって意味だ」

「冗談でも止めて下さい。マジで」

 別に本当に言い出したら、冗談でなくやってもいいとは思った。ただライを苛めたところでまったく楽しくないので、俺は早々に止める。

 どこぞのドS王子とは違い、俺にそういう趣味はまったくない。


「それで。何だ?」

「カミュが内密に話がしたいんだってさ」

「内密?」

 何か話があるなら直接やってきそうなものだが、そうではなくあえて内密。

「内容は聞いてないから、たぶん師匠にしか言えない事だと思う」

 カミュエル王子が一番信頼しているのはライだと思ったんだけどな。そのライに何も言っていない内容。ライではなく俺には言う内容。


 カミュエル王子と俺の繋がりはあるようで薄い。

 俺の記憶がないという事で、カミュエル王子はそこまで俺に話しかけてくることはなかった。あえて、俺の記憶がないという事を肯定したいというかのように。だから俺も決して愛称では呼ばないようにしていた。

 もしも記憶が戻っていると思えば、王家であるアイツは、絶対色々俺を利用しようとするはずだ。……いや、今回とうとう何かに利用しようとしているという事か。

 ただ、何だ?カミュエル王子に忠誠を誓っているライに言わずに俺に伝える内容――。

「分かった。時間と場所は?」

「また何らかの方法で伝えるってさ」

 俺とカミュエル王子の共通事項で、ふと思い浮かんだのはオクトだった。ライはオクトを積極的に害したりはしないだろうが、もしもカミュエル王子との二者択一を迫られれば、オクトを切り捨てるだろう。

 俺の考えすぎかもしれないが、もしも予想通りオクトの事ならば聞いた方が良い気がした。


「そう言えばさ、オクト達遅いな」

 確かに、女館長と出かけて以来、全然ここへ戻ってくる気配がない。

「少し見て来る」

「あ、俺も行く」

 様子を見に行こうとすると、ライもついてきた。そしてそれを目ざとく見つけたアユムがちょこちょこと俺の方へ来た。

「オクトのとこいく?」

「アユムも行くか?」

「うん」

 さっきまでオクトの友人に遊んでもらっていたはずなのに、それよりもオクトの方が重要らしい。まるでオクトはアユムのお母さんみたいだなと思う。

 普段からアユムはオクトがどこにいるのか常に気にしているし、オクトが心を許している相手にしか懐かない。これほど人懐っこければ同じぐらいの年頃の子供と遊びそうなものだが、俺は2人と一緒に暮らし始めてから1度もそんな姿を見たことがなかった。

「なら私も行きます」

 獣人の女の子も加わり、俺らは部屋を出た。


 近くに居た使用人に確認をとると、どうやらオクトは毒殺されそうになった男の部屋にいるらしい。

 まったく。オクトを巻き込むとか迷惑な話だ。

 そしてその部屋まで行き、俺が目にしたのは――。

「オクトッ?! 中々、戻ってこないと思えばっ!」

 手を握られ、思いっきり口説かれているオクトだった。

 オクトはまったく口説かれている気はないだろうが、男親の勘で俺には分かる。この男は敵だ。

「なんでオクトの手を気安く触っているのかな?」

「えっ?触りたかったからだけど?」

 人の娘の手を触りたいという理由だけで触るだと?

 このロリコン2号めと俺は罵りたい気分である。もちろん1号は、俺の同僚のエルフだ。うちの子はやらんという気持ちでこのへらへらした男を睨みつける。

「あー……もうっ!オクト行くぞっ!!」

「へ?」

 俺とロリコン2号が睨みあっていると、ライがオクトを連れて部屋を出た。良し。オクトが居ないなら、この男ととことんまで語る事ができる。

「オクトはお前が軽々しく触っていいほど安くないんだよ」

「そんな。お金で彼女が買えるとは思わないさ。才色兼備。素晴らしいね。美はいつかは消えてしまうけれど、あの才は決して消えないし」

 ロリコン2号はオクトのすべてを利用しようとするだろう。美と才にしか興味がないのなら。

 元々オクトを上げる気はないが、利用する事が分かり切った相手に渡す気はない。それにそう言う輩ほど、最終的にのめり込みやすいのだ。だから絶対近づかせる気はない。

「お前には絶対オクトを上げない」

 そう俺はにやつく男にそう宣言した。

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