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がじゅまるさま 最終話

そこのあたりは、私たち人間と同じなのです。もしも何かを得るために人の命を犠牲にしようという人がいたら、大抵は狂人扱いされてしまいます。人の命に代えられる何かが存在するとしたら、それは同じく人の命くらいのものです。

私は何だかホッとしました。赤童たちは、私たちと大した変わりはないのです。平和な世を望み、またそのように生きているのです。人間と違う点もとても多いのですが、似ている部分もたくさんあるのです。


「大丈夫ですよ、私が保証します。ミカドさんたちは、きっと力になってくれますよ」

御先祖様は不安そうでした。当然です。上原家の人間が赤童をどれだけ恐れ忌み嫌っているか、身に染みているのですから。

でも、それは人間全てに該当するわけではないのです。

「ミカドさんは、私を交渉のために連れてきたんです。これって、大成功ってことじゃないですか。本当、御先祖様とタエコ伯母さんが協力的な方で良かったわ」

私は心から感謝していました。だって、私みたいな素人が精霊との交渉なんてできるはずがないと思っていたのです。全ては御先祖様とタエコ伯母さんのお陰なのですから、感謝して当然なのです。

「うりぬ子ながら、変わった子だ」

御先祖様が、何故か呆れたように言いました。

「やっちゃん、お願いね」

タエコ伯母さんは私の両手を握って頼みました。私は大きく頷きました。



「すげえな!イク…じゃなくてヤスコ!マツバラさんの言った通りだ。マジで交渉人やれてんじゃん。上出来、上出来!!」

洞窟の入り口から、聞き慣れた声がしました。

私たちが振り向いたとき、そこにいたのは意外な人物でした。

外から漏れる光をバックに、ナオくんが立っていたのです。


「……ああっ??」

御先祖様が裏返った声をあげました。

当然です。ここは私たちの住んでいる世界とは別世界なのです。赤童たちのユートピアなのです。夢の中に現実の人が現れてしまったような、これはそのくらい突拍子もない事件なのです。

「ナオくん、どうやってここに来たの?」

私には不思議でたまりません。

「ヤスコ、やっぱり気付いてなかったんだな。ポケットに御守り入ってて、それがあれば追えるらしいぜ。ヤスコがこっちに飛んでからのこと、ほとんどお見通しだぜ。マジあの人魔法使いだわ」

ナオくんは、まるで自分のことのように自慢気です。全く意味が分かりません。なんだか腹が立ちます。とはいえ、御守りなんて頂いた覚えがないのは気になります。体中を弄ってみましたが、御守りなんてありません。

「ばかだなあ。今のヤスコは人間じゃなくて赤童の姿をしてるじゃないか。今は見えないよ。

そうイラついた顔すんなよ。御守りを持ってるの気付かれたら効果がなくなるんだと。だから、気付かない方がいいんだ。オレなんてポケットの中身を見ちゃったもんだから、むしろ怒られちったぐらいさ。ヤスコが正解だから。ニブチンで正解!」

ナオくんは半笑いで私を馬鹿にしました。余計に腹が煮えくり返りました。

「なによ!ナオくん、私のことをからかいに来たの?」

私はつい大きな声をあげてしまいました。

「おいおいヤスコ、なにムキになってんだよ。オレが来たわけなんて、決まってるじゃないか。ヤスコの交渉の手伝いに来たんだよ。

マツバラさんからの伝言だ。これからオレたちは、タエコ伯母さんを連れ出して、ショウヘイとミカドさんのところに行かなきゃならない。赤童の力は強過ぎて、祓うことは難しいみたいなんだ。だから、祓うんじゃなくて守護霊に変える感じにするらしい。そこで、伯母さんに確認したいんだけど……」

ナオくんはタエコ伯母さんのことをじっと見つめました。

「伯母さん、これから伯母さんはしばらく島に帰れなくなる。ショウヘイが島にいると、赤童の影響を受けてしまう危険があるからだ。もしかしたら、もうずっと帰って来れないかもしれない。それでもいいかい?」

ナオくんは念を押すように訊きました。でも、タエコ伯母さんの答えは聞かなくてもわかりきっていました。

「ああ……。あたし、ようやくあの子を守ってやれるようになるんだね。ありがとう、ありがとう……」

タエコ伯母さんは泣きじゃくりながら、何度も何度も礼を言いました。

「伯母さんは直でショウヘイの中に入る。クミにも御守りを持たせてあるから、簡単に行けるはずだ」

どうやらクミちゃんも御守りを持たせてもらっているようです。イチゴが胸ポケットに入っていても気付かないクミちゃんなら、絶対に気付く心配はありません。



こうして

私たちの冒険は終わりを告げました。

私たちは無事にガジュマルの樹に戻り、マツバラさんたちと再会しました。シマヅさんはウッカリ名前を呼んでしまったことを平謝りしていましたが、そんなことより私は横でナオくんとマツバラさんが楽しそうに談笑していることの方がずっと気になっていました。


ショウちゃんは何事もなかったかのように目を覚ましましたが、後ろ頭の傷はなかなか塞がりませんでした。一月も経てば、また意識を失い再び『がじゅまるさま』に向かうと言われました。ショウちゃんは向こう数年は、島で過ごすことが出来ないのです。

ショウちゃんのことは、都会にある私の家で預かることを両親が快諾してくれました。いっそのことクミちゃんも来てくれないか…と一瞬だけ考えて、やめにしました。お祖母ちゃんにとって、それは酷いことになってしまうからです。




その日の夜

お盆のお墓参りは今までの紆余曲折が嘘のように、例年と変わらずつつがなく行われました。

その後には道ジュネーという、お盆のお祭りが開催されます。賑やかな歌と踊りと共に、沢山の人が道を練り歩く楽しいお祭りです。

私は例年通りにクミちゃんと二人で祭りを観ました。途中までは、また例年通りにとても楽しくお祭りを見ていられました。


お祭りが楽しくなくなったのは、一組のカップルのせいでした。

ナオくんとマツバラさん

二人が一緒にお祭りを見ているのを、遠目からですがはっきりと見てしまったのです。

とても楽しそうに、仲良くしている二人を。


「クミちゃん、行こう」

物凄い勢いで楽しい気分が冷え切ってしまった私は、慌てふためくクミちゃんの手を引いて道から離れていきました。

私たちは近くの丘の上に登り、遠くまで光続ける街の夜景を見つめていました。


私は考えていることがありました。

ショウちゃんは明後日になったら私たち家族と共に島を出て、当分の間は帰って来れません。そんなショウちゃんを、私の家族は引き取ることにしてしまいました。

つまり

来年からは、私は島に来られなくなるかもしれないのです。


クミちゃんに会うのも、ここから先は難しいかもしれないのです。



私はクミちゃんの横顔を見つめていました。暗闇の中、デイゴ色の着物を着たクミちゃんの、愛おしい顔が街から照り返す灯りに浮かんでいました。明日明後日を最後にこの横顔を見られなくなると考えると、それだけで涙が浮かんできそうになりました。


「ねえ、やっちゃん。今の内に、やっちゃんに頼んでおきたいことがあるの」

クミちゃんが私に言いました。それがどんなお願いでも、私は叶えるつもりで、何度も大きく頷きました。

「あたし、本家を継ぐじゃない?それってつまり、いつか結婚して、子供を産んで、それがもし男の子だったら…『がじゅまるさま』に取られちゃうわよね?」


そんなことない


私はそう叫ぼうとしましたが、声になりませんでした。

きっと御先祖様が奥さんを窘めて、そんな悲しい因習は止めさせてくれると思いました。でも、首尾良くいく保証なんてどこにも無いのです。また悲劇の歴史が繰り返されないなんて、言い切ることは出来ないのです。

「もしもそうなったら…あたし、多分、お母さんと同じことをしちゃうと思う」


そんなの絶対にダメだ!


私は心の中で叫び声をあげました。

でも、やっぱり声にはできませんでした。タエコ伯母さんがショウちゃんを助けるためにどんな覚悟でいたかを考えたら、否定なんてできるわけがありません。


「それでね…もし、あたしがまたお母さんみたいに、できもしないくせに守護霊になろうとしちゃったら……」

クミちゃんはニカッと笑っていました。月よりも綺麗な笑顔でした。

「もし、あたしが馬鹿なことしちゃったら、やっちゃんがミカドさんを呼んで頂戴。もし、それであたしがやっつけられちゃうことになっても、恨まないから」


クミちゃんがどうしてそんなことを言うのか

私にはわかりませんでした。

わかりたくありませんでした。


私はクミちゃんの着物にしがみついて、小さな子供みたいに泣きわめきました。


それは

とても月の丸い夜でした。




がじゅまるさま


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