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輪-ワープアンドワープ-  作者: Cro.w
:N Episode
28/32

:慧眼は蛇行を装う 肆

−−−……そっちは…。

ボクは何を言っているんだ。そっちとは。そっち……。

そっちに何があると言うのだ。

「………」

解らない。駄目だ。ボクは消えた背中に、何を言おうとしていたのだ。

「待って…!」

ボクはランドセルをその場に捨てた。





かなり時間が経ってしまった。学校も始まっている。

それにしまった、見失った。出たのは大通りで、見渡す限り、朝一ラッシュアワーに車が数台引っ掛かっている。人も増えてきたが、某スクランブル交差点ほどではない。ボクは藤九郎兄ちゃんの背中を探した。

藤九郎兄ちゃんは人混みが苦手だ。こんな大通りを長時間歩くはずもない。ボクは路地に目を凝らして探した。

「……!!」

いた。

臙脂色のフード。ボクは走った。人の波に消えそうな背中から目を離さないように、人の波を分けた。

「ま、って…っ! 待ってよ…っ!」

−−−……っ!!

僅かに見えた小火。藤九郎兄ちゃんの背中で小さく、一瞬、蠢いた。かなり距離があるはずなのに、それを見た、可視出来てしまったボクの足は止まる。

今までに感じた事のない、ドス黒い霊波動。鋤くんでしまった。

それと同時に、頭に流れた予言。

藤九郎兄ちゃんは、死ぬ。

「…いや、いやだよ……!」

止めなくては。そっちに行っては駄目だと。ボクは裸足になると、再び追いかけて行った。今のボクは数珠も幣も持っていない。払えなくとも、今は藤九郎兄ちゃんを、そっちに行かせてはならない。

いつの間にか人混みを抜けた。藤九郎兄ちゃんの姿はない。

ボクは狭い路地を確認した。だがいない。

気配。気配を感じられないか。しかしそれも叶わない。

ボクは直感で一つの路地に入る。さっきとは打って変わって、静かすぎる。静かすぎて気味が悪い。別次元に飛ばされた気分だ。

ボクはとりあえず走った。ボクのペタペタという足音だけが聞こえる。鳥の鳴き声も、自転車が走る音も、会話も、何一つ聞こえない。鼓膜でも破れて聞こえなくなったのかとも疑う。

「はぁ……はぁ……」

ボクは膝に手をついた。耳の後ろに汗が流れる。

「駄目だ…。何処に……」

もうボクが見た『そっち』には来てしまっているだろう。早く藤九郎兄ちゃんを探さなければ。

−−−…そっちに……。

−−−…来てしまっている……?

ボクの身体が一瞬にして冷めた。

ボクが感じてしまった、いけない『そっち』。

「……これ、マズくない、かな…」


「見ーつけた」


−−−………。

背後から、不気味な声。まるで夏の心霊映画に当てられるような、人工的に複数の音声を合わせ作られた、そんな声。

背中を押されそうな、膝を折られそうな気配を感じつつ、ボクは後ろを振り返った。

「………」

「…いきなり出ていくんだもの、探したよ、弥做ちゃん……?」

何故だ。なんで、どうして…。『コレ』がここに……。

「あ、あ……あ…」

「ちゃンと髪のケ結バないto……。ちャんと私ヲ見テ、ね…?」

鏡。鏡だ。母の形見である、鏡。

「ほら、早く……」

動いていないが、距離を詰められたような気配に、ボクの足は後ろに下がり、そのまま走り出した。


「どうシテni、ゲるのぉぉ…?」


「いや…。やだっ! 来ないで!!」


「逃げないでヨ、ねぇ…。ねぇぇぇ、ぇええぇぇえeeEぇ、Ee、ぇeえぇ……!!!?」


ボクは逃げた。必死になって、目の前にある道なりに逃げた。気配で解る。あの鏡は追いかけてきている。ボクはとにかく逃げ、巻こうと角を曲がる。が

「ざーんねーん…」

鏡は先回りしていた。足なんてついていない。何故だ。

「鬼ごっこカなぁa…? 負keないョおぉ?」

「ひ、ぁ……っ!!!?」

踵を返して、再び逃げる。早くここから、あの鏡から逃げなければ。

しかし、私の勘は当たっていた。やはりあの鏡は母の形見と言えど、見てはいけないモノだったのだ。

「…見ーつけたぁaあぁ…」

また先回りされた。急ブレーキをかけた踵が擦れて皮が剥けたか。足の裏が血でベタベタする。

ボクはまた逃げる方向を変えた。路地を抜けて、ヒト気のない四つ角に出る。何処に逃げればいい。とりあえず、大通りに出そうな道に進んだ。

進もうとした。

「…あれ?」

四つ角、ではない。ここは何処だ。壁には無数のドア。その向かいには高い景色。見覚えがあった。

「ま、マンション…?」

しかもここは、藤九郎兄ちゃんが住んでいるマンション。

「藤九郎兄ちゃん……!」

一番端の部屋の番号で、藤九郎兄ちゃんの住んでいる部屋の階を覚えていた。ここはその階だ。ボクは部屋に向かい、ドアノブに手をかけた。

なんとドアは開いていた。ボクはその中に飛び込む。

「藤九郎兄ちゃんっ!!」


「もうおしまいなの…?」


ボクは目を疑った。目の前には奏お兄ちゃんらしき人物がいた。

「あは、あはは…っ! あははははははっ!! あはははハハはハハハはははははhaハハはははHaは……!!!!!!」

発狂したように、奏お兄ちゃんらしき人物が笑った。が、らしきというように、目の前の奏お兄ちゃんは生きてる感じがしない。むしろ、死んでいる。その足元には。

藤九郎兄ちゃんがいた。

「………!!?」

ボクは口を押さえた。言葉を失った。

気を感じない。死んでいる。きっと、おそらく、いや。目の前で高笑う彼が殺した。

「あはは、は……ハ…っ、は……」

奏お兄ちゃんらしき人物は、いきなり膝をついて、ゆっくりその場に倒れた。

頭がこんがらがる。

待ってほしい。ボクの目の前には、藤九郎兄ちゃんが死んでいて、それを殺したのは奏お兄ちゃんらしき人物。そうなのか?

待て。足りない。気配が、途絶えかけている気配がある。ボクは部屋に入った。

藤九郎兄ちゃんを見ると、心臓を一突きにされているのか、吐血に加え傷口からの出血で床が血の海になっていた。倒れた奏お兄ちゃんらしき人物を起こさないよう、半開きになっている部屋に入った。

「…奏お兄ちゃん…っ!!」

奏お兄ちゃんが倒れていた。確証がある。ボクの後ろで倒れているらしき人物とは全然違う。こちらが本物だ。

だが、死んでいる。

ボクはその場に膝をついた。

「…な、なんで……なんでこんな…」

「見ーつけたぁ」

その部屋の鏡から声が聞こえた。ボクが瞬きすると、そこにはボクの部屋にあった鏡に変わる。

「つーかまーえたぁ」

「いやぁぁぁぁっ!!!」

ボクの身体に何か異変が起きる。顔を上げると、何か黒い影がボクの前に現れる。

黒い狐だ。

「……守護霊…」

黒い影、狐は揺らいだ。すると、僕の手の中に身体を細くして入ってきた。更にはその身体を狐から、剣になった。

「わ……っ!」

ズシリと重い。なんなのだこれは。

「巫女の(ツルギ)……」

鏡が呟いた。

「またワタシの邪マをスルnoか……!!!」

鏡が光った。ボクは反射的に剣を構えた。だが、どうする。

しかし、この剣。


『紫鏡と剣』


あのお兄ちゃんが言っていた。まさか、これがその剣だというのか。形見が守護霊で剣。

これで、払えると言うのか。

受け継がれたのは敵と、味方。

「…お母さん、ふざけないでよ……」

ボクは立ち上がって、剣に力を込めた。


「砕けrォ剣いいぃぃぃいぃぃっ!!!」


叫ぶ鏡を、ボクはそれを平然と、無言で斬った。

砕けたのは鏡だった。鏡の破片が散らばり、太陽に反射する。剣も消えると、ボクはやっと現実に引き戻されたように、そこに呆然と立ち尽くした。

「ふざけないでよ……」


「救えたかもしれないのに……」


ボクは拳を固くして、歯を食い縛った。

この事を知っていれば。もっと早ければ。救えたかもしれないのに。

しかし、藤九郎兄ちゃんは死んでしまった。奏お兄ちゃんも死んでしまった。


「う、あ……うわぁぁぁぁん…!!」

一度に失うなんて思ってなかった。しかしこれが現実だ。すぐに受け入れた自分にも驚いたが、こんな現実を見たくなかった。


「君のせいじゃないよ」


ボクは後ろを振り返った。あのお兄ちゃんが場違いの笑顔を向けていたのだ。

「これは運命だったんだよ」

「そんなはずない!!」

「言い切れるのかい? 神でもない君が」

言葉が詰まった。

「…なにしてたの、まさか黙って見てたのっ!!?」

「人聞きの悪い事を言わないでよお嬢さん。まぁ、俺は元々こういうのに関心がないけどね。そこで死んでる藤九郎君みたいに」

「あなたと藤九郎兄ちゃんを一緒にしないでっっ!!!」

それは一瞬だった。お兄ちゃんの手がいきなり伸びてきて、首を絞められた。身体がその細い腕によって持ち上がる。見ると、お兄ちゃんの目は冷ややかだった。

おかしい、何処かで見たことがある。

「口を慎めガキ。現実を見ろ。…人間なんてな、全員裏を返せば同じなんだよ。どいつもこいつも見てるモンと言ってることは上辺だけだ。勿論本心で言ってる奴もいるだろうがな、そんなのは粒子に近い。残酷さの塊。それがお前ら人間だよ」

「か、は……っ!!?」

「皆同じなんだよ。仰天ニュースらで美化されてるVTR然り、100年以上語り継がれた内容はロマンチックに、薄く安い絵本にされた白雪姫、シンデレラらの御伽噺然り。綺麗事並べてハッピーエンドで済むなんて思うな。…更正される悪人も僅か。いくら王子様がキスしたって、その闇から生き返るなんてあり得ない。真実の通り、家来の一人が木の根に躓いて、棺桶落として林檎を吐かせる。または、お姉様方が三人とも踵を切り落として、無理矢理ガラスの靴を履いて、鳩が爪先に溜まっている血を指摘する度、王子は城と家の間を三往復しないと意味ないんだよ」

視界が狭まる。お兄ちゃんの手に更に力がこもる。その中で兄ちゃんは優しく笑いかける。


「いいかい、お嬢さん。人生、何事も予習なんだぜ……?」


お兄ちゃんがある一点を押さえると、僕の意識は途絶えた。






「奏! 奏、しっかりして!」

後にやって来た肆揮が見たのは、藤九郎の死体と、奏の死体、気絶したドッペルゲンガー。

その三体だけだったという。







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