地震だと思ったのに
日常の揺れから始まる、不可解な違和感。当たり前の世界が崩れ去り、逃げ場のない異次元の恐怖へと引きずり込まれていく極上のサイコホラーです。
揺れているのは、本当に地球なのか――。 常識を覆す結末を、ぜひその目でお確かめください。
「地震だと思ったが、地震ではなかった」
最初はただの貧乏ゆすりだと思った。しかし、足元から伝わる小刻みな震動は次第に大きくなり、部屋の窓ガラスをカタカタと鳴らし始めた。震度3、いや、4はある。そう確信した俺は机の下に身を潜め、揺れが収まるのを待った。
だが、奇妙だった。部屋の中のものは激しく揺れているのに、天井から吊るされた照明の紐だけは、微動だにせず真っ直ぐ下に垂れていたのだ。
━━どうしてだ?こういうことだ?何が起きている?
疑問符私の頭の中に溜まっていった。眼の錯覚か?それとも私はとっくの昔に地震の被害にあってこの世にはいないとか?これはあの世で観ている幻覚だとでもいうのか?
不可解な現象を見て、私は混乱していた。地震から逃げる気にもなれなかった。
激しい揺れがぴたりと収まった。
冷や汗を拭いながら机の下から這い出ると、部屋は静まり返っていた。やはり気のせいだったのかと息を吐いた瞬間、背後でカサリと音がした。
振り返ると、微動だにしなかった天井の照明の紐が、ゆっくりと斜めに傾き始めていた。
いや、違う。紐が傾いているのではない。
紐は重力に従ってまっすぐ垂れ下がっている。
傾いているのは、この部屋だ。
足元からメキメキと不気味な軋み音が響く。見上げれば、天井の隅から真っ黒な闇が泥のように雪崩れ込んできていた。
「ああ、そうか」
揺れていたのは地球ではなく、この部屋を丸ごと呑み込もうとしている「奴ら」の喉こぼけだったのだ。
視界が斜めに滑り落ち、俺は真っ暗な大口の中へと落ちていった。
【了】
ご一読いただきありがとうございました!
日常の「地震かな?」という何気ない違和感が、実は巨大な怪異の体内だった……という日常侵食系のホラーショートを目指して書いた作品です。照明の紐の仕掛けに気づくシーンがお気に入りです。
楽しんでいただけたら幸いです




