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知る人ぞ知る~ダンジョン発生のあおりで失業した薬師の娘は薬膳料理店を開きます~  作者: 高瀬あずみ


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8/10

8.処理は終わらない。収穫物もそれ以外も。

街の名前はグラム。ダンジョンも「グラムのダンジョン」と呼ばれています。



 帰宅した翌日は、朝から秋晴れ。

 ぐっすりと深く眠って早朝に目が覚める。やっぱり自宅はいいね!


 パン種を仕込んで、発酵待ちの合間に洗濯を済ます。干すのは裏の畑の横だ。薬草畑の手入れを少々。魔石を混ぜ込んだ土で育てているシュシャが元気すぎて引く。ほとんど水遣りもいらない上に成長が早すぎて、もう収穫が可能という。


 パンは焼くけれど、これは朝食用ではなくて。食べるのは夕食時。朝は雑穀の粥になる。これはこの地が麦の育成に向かなかったから、雑穀を多めに育てていたことから定着した。

 雑穀は水ではなくスープで炊く。宿では迷宮ラットで出汁を取って、塩で味を調えたスープを使っていたが、我が家のスープはもっと複雑な味。何しろ薬草も野菜も肉も入れてじっくり煮込んだスープだから。ものすごく手間だがどんな料理にも使えるので、大量に作っては冷蔵している。


 雑穀は麦以外の寒冷地でも育つ穀類全体。以前は村のどこの家でも作っていたものだが、街になって畑を続ける家が減った為に、収穫量も減った。宿での朝食用の粥も雑穀でなく、よそから持ち込まれる大麦が主流になってきている。これは各地から集まって来た冒険者たちの大多数が、麦以外の雑穀が口に合わず、大麦を希望することからそうなった。でも我が家では薬草畑と並んで育てているので、変わらず雑穀を使う。

 雑穀という名が悪いのか、あるいは味か食感が嫌われる原因かもしれないが、しっかりと旨味の出たスープでじっくり炊くと、歯ごたえがぷちぷちあって美味しい。毎朝同じでは飽きるので、卵を落としたり、味の濃いおかずを混ぜたり、冬場は葛粉であんかけにもする。



 日が昇った頃に約束通り現れたアルマジット氏と朝食。彼は文句も言わずに粥を啜っている。いや、むしろ顔が緩んでいるような? なんだか彼の表情が読めるようになってきた。案外単純というか、お手軽に機嫌を取れそうとか、少し思ってしまう。


「朝から旨いものが食べられて、しかも身体が温まる。街の食堂の大麦の粥よりも美味だ」

「ありがとうございます。その代わり、今日もお願いしますね?」

「もちろんだ。まずは猪の解体だな」

「助かります。あれだけ大物だと私ひとりではちょっと」


 猪を倒したのも持ち帰ったのもアルマジット氏なのだから、所有権は彼にある。しかし彼は自分では必要ないと私に押し付け――もとい進呈してきた。なので当分、夕食だけでなく朝食も振る舞うことに。ちなみに私の住む辺りでは、昼食を取る習慣がない。そのかわり、昼を過ぎた頃に軽食をつまんだりする。


「よそでは解体専門を商売にしているところもある。しかも複数の男手を使ってだ」

「ここも村だった頃は、村の男衆総出でやってましたね、猪や鹿、熊なんかの大物は」

「それが普通なんだが。私からは、マルディカ嬢がひとりで全部やろうとしすぎているように見える」


「そうですか? え、そうかも?」

 両親を見送った後は家にひとりだ。なので何でもひとりでやるしかないと、思い込んでいたかもしれない。

「この家は街の中心から外れてはいるが、街に属しているのには違いがない。ましてや住んでいるのは、見知らぬ者ばかりではないのだろう?」

「それは、ええ」

 バドリおじさん一家以外にも、元村人とは交流がある。別に疎外されているとかもない。顔を見れば声をかけて心配もしてくれる。その後で必ず、早く嫁に行け、も付いてくるのだが。


「もっと周囲に頼るべきだ。無料で手伝ってもらうことに抵抗があるのであれば、一時的に雇うなり方法はある。ギルドに属する冒険者に依頼するのが一番簡単だろう。ダンジョン外での依頼も、冒険者であれば条件次第で受け付ける」

「え、でも。ダンジョンの方が稼げるでしょう?」

 私は低層しか行っていないし、その辺りでは大した儲けもないが、中層に行けるようになるとぐっと稼ぎが良くなると聞いている。

「低層しか許されない准冒険者の子供らや、一時的に怪我で療養中の者、あるいは年齢により以前のように戦えない者などにとっては、仕事があるだけでもありがたい。彼らは街中(まちなか)の仕事を厭わない」


 食堂では現役の、駆け出しから中堅までの冒険者が主な客層だったから、アルマジット氏の言う人たちとは関わりがなかった。というか、ダンジョンの外の仕事も冒険者が請け負う事自体を知らなかったのだけれど。ダンジョンに入るために冒険者登録はしたけれど、そのあたりの説明もなかったし。もしかしたら依頼表に街中(まちなか)の仕事もあったかもしれないけれど、ギルドに行くのはダンジョンに行くことだったから、きちんと見ていなかったのは反省材料。

 今回はアルマジット氏に甘えることにして、今後何かあれば依頼をだしてみても良いかも、という気持ちになった。でもその前に依頼料を払えるよう稼がないといけないのだけれど。



 ともあれ、朝食後はアルマジット氏に猪処理の続きをしてもらい、私は私で当分終わりそうにない採取物の処理にあたる。主に洗って洗って洗って干して干して干してを繰り返すわけだ。なので私自身は中庭の水路と、天日干しのために裏庭の往復になる。

 過去に父とお山に出かけた際は、せいぜいが背負い袋にいくらかしか持って帰れなかったから、収穫物の処理だって大した手間ではなかった。風よけをしてある専用の干場だってある。なのに。


「絶対、干す場所だけでも足りない……」


 だからと言って、いつまでもアルマジット氏に預けたままにはできない。彼の収納量がどのくらいかは知らない。お山の斜面を埋め尽くした葛を文字通り山のように収納しても問題ないようだったから、相当なものであることは確かだ。でも彼にだって収納したいものはあるだろうし、そちらを優先するのが当たり前。でも。採って来たものを捨てるというのも難しいのだ。


 今回、お山が嫌がって掃除して欲しがったものの大半が、繁殖力旺盛な植物。家の周囲に何もないからって、そのあたりに処理もせずに安易に放置しておいたら。勝手に増える。浸食する。どこまでも。被害が我が家だけに留まらないのは確実。だから処理をしないという方法は取れない。


「これはいっそ、アルマジットさんに有料で収納し続けてもらうしかないのでは……」


 水路に網の袋いっぱいの松笠を沈めながら、ちらりと水路の横で作業するアルマジット氏に視線をやる。魔法を使って猪を解体する彼の作業は順調だ。既に毛皮がきれいに剥がれて、枝肉になろうとしている。

 私の視線に気づいたのか、アルマジット氏がこちらを見た。


「毛皮も防腐処理ができれば渡そう」

「そこまでできるんですか!?」

「問題ない」


 毛皮が腐らないように鞣すのも、また手間なんである。おまけに使用する膠のせいもあって匂いがきつい。なので非常に嫌われる作業だ。うちは水路の排水も濾過してから流すので問題ないが、川の上流でやると下流から飲料で水を使えないと文句も出る。それでも厳しい冬を越えるのに、衣料などの防寒に毛皮以上のものはないから、避けて通れない。嫌々、村でも皆で作業した記憶。まだ兎程度であればすぐに済むのだけれど、猪は大きいから。

 それを魔法でやってもらえるなんて、ありがたいにも程がある。アルマジット氏、有能かつ便利すぎるだろう。


「切りの良いところまで終わったらお茶にしましょう」

 けれど私に返せるものは本当に僅かなことしかないのだ。



 今朝方、パンと一緒に作ったクッキーをお茶に添える。クッキーと言っても一枚で結構な食べでのあるサイズで、保存食にもなる。食堂時代に裏山から採取した松の実を軽く炒めたものを加えたので香ばしい。ついでに生地には少しだけナヴァを混ぜ込んだ。ナヴァには魔力回復の効果もあると鑑定が教えてくれたから、猪を魔法で解体しているアルマジット氏には良いはず。松の実自体が薬として有能なので、我が家では昔から常備してきた。滋養強壮に優れ、身体を温め、これから乾燥する季節になると咳を沈める効果さえあるのだ。美肌にも良いので母とおやつにしていたことも。


「良かったら、お茶にこちらのハチミツもどきもどうぞ」

「ハチミツもどき?」

「アルマジットさんには珍しいんじゃないでしょうか。これ、お砂糖と松笠――松ぼっくりで作れるんです。不思議とハチミツに似た味にできあがるので、“もどき”なんですけどね」

 興味深そうにハチミツもどきを落としたお茶を飲んで、彼は破顔した。さては隠れ甘党だな。

「本当にハチミツのようだ。まろやかに蕩ける」

「沢山取ってきましたから、お好きなだけ作りますよ」

 実はクッキーにも使っていたりする。


 我が国は結構な国土の広さを誇る。おかげで南端にまで行くと年中暑いほどの気候で、そこではサトウキビの栽培が盛ん。そのため、こんな辺境でも砂糖が入手できるのだ。それなりの値段ではあるけれど、まだ手に取りやすい程度に留まっている。

「砂糖の甘さとはまた違ってよいな。砂糖も適量であれば嬉しいものだが」

「適量でない? 沢山取り過ぎても身体に良くないですよ」

「私の故郷にほど近い場所から、そもそもサトウキビは広まったのだ。精製する方法も初期は秘匿されていたものだから、料理でも菓子にでも、じゃりじゃりする程に大量に使うことが豊かさの証明として一族に残ってしまってな。このクッキーのような素朴な甘さを見習って欲しいものだ」


 じゃりじゃりする程となると、溶けずに飽和する程入っているのだろう。昔、祖父の縁で王都の名物菓子を貰ったことがあったが、とんでもない甘さで、たったひとつを食べきることもできなかった。あそこまで甘いともはや苦行。想像するアルマジット氏の故郷の料理やお菓子があれ並みだったらかなり怖い。



 そんな雑談から話は変わっていった。具体的な店の改装について。

「そういえば店の規模を聞いていなかったな。この場所をどう使うつもりだ?」

「ええと、カウンターに五席ほど。テーブル席もふたつかそこらで、って考えているんですけど」

「ここにテーブルをもうひとつ入れると、かなり狭くはないか?」

「もう少し小さいテーブルにして、テーブル席は各二客ならいけるかもと」


 元々がカウンターだけで薬の受け渡しをしていたし、通常の商店のように客が手に取れるよう展示販売もしていないから、今もお茶している場所はそれほど広くはない。でもこのテーブルほど大きくないものに変えたなら、いけるかもと考えていた。


「今はまだいいが、寒い時期などはそれぞれ着ぶくれるだろう。あと客が冒険者の場合、当人自体もガタイが良く嵩張る上に、防具や武器を身に着けているから、やはり場所を取る」


 たしかに、冒険者は筋肉粒々なタイプが多い。前の食堂は広かったから気にならなかったが、この場所にひしめかれたら、人数は限られるだろう。しかも冒険者はパーティを組んでいることが多いから、単独の来店は少ないかもしれないのか。少し計画の見直しが必要だ。


「となると、テーブル席はこのままひとつにして、カウンターも三席ほどに抑えた方が?」

「それでは今度は席数が少なすぎやしないか?」

「元々がお客は一日に十人程度しか受け入れられないと思っていたので、むしろ全部で五席で丁度いいかも?」

「だが、それでは商売としては成り立たぬのでは?」

「私ひとりが料理して配膳して……というのが基本なので、あまり大勢のお客は受け入れられません。出すメニューにしても日替わりで決まったものだけにして種類を抑えて、しかも夕食時のみの予定です。あと、材料費自体は抑えられますから、それほど儲けには拘りはないので、一日五人、捌けたら上等かな、と」


 そこまで聞いて、アルマジット氏は顔を顰めた。どうやら彼の想定を下回っていたようだ。

「ちなみに聞くが、一人当たりの客単価の想定は?」

 私は勤めていた食堂のものに少し上乗せした程度の金額を告げた。けれどアルマジット氏は首を振る。

「君の作る料理にはもっと価値がある。味も手間もだが、一般には入手できない材料も取り扱っている自覚をするべきだ」

 年長者からの助言というか、むしろ雰囲気はお説教だ。顔だけ見れば同年代かなと思えるアルマジット氏だが、言動はもっと年長に感じる。私のことをかなり年若い少女のように扱っている疑惑。同じ国出身とはいえ、端と端では生育環境が違いすぎて、民族さえ違うように見えたりする。この辺りの者は比較的小柄だ。食堂時代もよそから来た冒険者からは、実年齢より下に見られることも多かった。


「このグラムのダンジョンでは、中層以上から魔物のドロップアイテムに希少品が増えるのは知っているな?」

「それはもちろん」

 そのせいで村が街にまで成り上がったのだから。

「つまり、中堅以上の冒険者は金をそれなりに稼いでいる。しかもこの街には高級な料理店はない。それは街が発展途上であるから仕方がないにしても、強いと自負する者たちにとって、満足できる環境ではないということだ。安いだけの店でなく、稼ぎに見合う店が求められるようになるだろう」


 おもむろにカップに口をつける彼は中身が空になっていることに気が付いたようで言葉を切る。もちろん、私はそっとおかわりを注いだ。


「ちなみに、私は中堅冒険者よりも稼いでいる。その私が昨夜の料理に値をつけるとしたら――」


 聞き間違いかと思った。聞き間違いであって欲しいとも思った。それは私の知る料理の値段じゃない。

「さすがに私、そこまでの料理人じゃないです! 腕だって普通だし、内容だって家庭料理に薬草を使うくらいで!」


 アルマジット氏の私を見る目がかわいそうな子に向けるものになる。

「君自身が育て、あるいは採取してくるものは、ここ以外にはない。しかも私の理解が正しければ、君の料理は身体に良いものだろう。安物のポーション漬けになるよりも効果が高いことを実感している。霊峰への往復と裏山の散策を経て、ある程度疲労があったが、夕食後にそれがきれいさっぱり消えていた。それだけでもどれほど値打ちがあるか。しかも旨いときている。身体を張って戦う冒険者が知れば、きっと押し寄せてくるだろう」


 もちろん、薬効は狙ったものだ。彼には無理を聞いてもらったから、慰労したかった。ただ、店を開けたら、あそこまで薬草を取り入れるかというと、こちらの想定収益からは厳しいかもしれない。


「そこまでの料金設定はそれでも高すぎると思います。ご存知のように街の中心から離れていて、立地も悪い場所です」

「それを承知で、ここを使うのだろう? 付加価値のあるものを扱う程度の値付けをしておけば、少数の客だけをさばくだけで済むと思うが。――そもそも、どうやって客を呼ぶつもりだったんだ?」

「元の勤め先だった食堂で、お客が競合しないと説明した上で宣伝に協力して貰えないかなと。元々、親戚の店なので」


 火鉢の上にかけていた鍋から湯を掬って、茶葉を変えたポットに注ぐ。部屋に香気がふわりと広がって、私たち二人の間の緊張のようなものが霧散した。


「儲ける気はあるのか?」

「そこそこ? 本命は薬師でありたいっていうのがあって。でも薬師としてこの街での需要はないので、それなら料理に取り入れたら個性のある食堂ができるかなって。料理には薬の調合と共通する工程があります。普段口にしている材料にも薬に使用できるものもあって、薬よりも人から受け入れやすいでしょう? もう子供ではないから、裏山で採れるものや家の畑の収穫物だけでも、私ひとりならば食べて生きていけます。ただそうなると金銭収入がなくなるので多少は欲しいなという感じですが」

「君に欲がないのは分かった」

「欲ならありますよ? 快適な環境で美味しいものが食べられて、好きに薬を調合したいっていう」

「それは私もまったく同意するところだが。私の場合は魔法の研鑽とダンジョン研究に置き換わるが」

「でしょう? なので、あんまり大勢を相手にしたくないというか。料理に追われて薬が作れないとか本末転倒になるので」


 味にはそこそこの自信もあるし、薬効もあるからお客も満足してくれるのではと思っている。街の食堂よりはやや高額程度が分相応に思えるのだが、アルマジット氏には納得がいかないようだ。


「話を整理しよう。君の家は代々が薬師で、君の自認する職も薬師だ。しかし現在このグラムの街ではポーションが出回って薬師の出番がなくなった。そこで君は薬師兼料理人として食堂を開くことにした。――ここまでは間違っていないな?」

 こくこくと頷く。ずいぶんと端的にまとめられてしまった。


「君としては少人数の客だけを相手にして、そこそこの儲けがあれば満足だと言う。そこで私からの疑問なのだが」

「はい?」

「霊峰への往復と帰宅して見せられた君から伝わるのは、薬にできるものに対する広く深い知識と、それを活かす適格な処理を熟す能力だ。薬になる前の下準備を済ませたものを、近隣の村や町の薬師に売りつけるだけでも、君が望む稼ぎは叩き出せると感じられた。ならばわざわざ店を開く必要はあるのだろうか?」


 実は近くの村や町にはもう卸していたりする。薬師仲間にはうちの処理した材料は評判がいい。ことに裏山で採取できるものは、よそでは入手の難しいものも多い。


「それに関してはですねえ。栽培と採取と処理と調合だけしていたら、人と関われなくなってしまうと気付いたので。ここに留まる限り、わざわざ訪れる人もいませんし」

「では店をもっと街の中心で開くのはどうだ? 元からの住民には土地や建物に関する支援が適応されるはずだ」

「それだと私には意味がなくなってしまうんです。本当の一番は、この家に留まる理由を作ること、なんですから」

 街の中心で店を出すことは可能だ。ただしそこまでしたいとは、絶対に思わない。


「私、この家を離れる気はまったくなくて。薬師が住むには最適な家なんです。代々で使いやすく工夫してきた家です。畑だって、私がいなくなったら誰も世話しないまま荒れるだけ。そんなことは耐えられない。

 でも昔馴染みの親世代とかが、とかく嫁に行けとうるさいんです。あの人たちはあの人たちで、ひとりになってしまった私を心配してくれて、当たり前の幸せを願ってくれていると重々分かってはいるんですが。もう毎回毎回毎回! 人の顔を見れば『嫁に行け』か『まだ嫁に行かないのか』って言われるのにうんざりしてるんです。

 私は! この家でひとりでも十分やっていけるのだ、と対外的に示すための店でもあるんです!」

 発言するうちに思わず力が入って、身体はテーブルに乗り出していた。


「君がこの家を離れる気がないのはよく伝わった」

「ええ、もうまったく。だいたい、子供の頃から私が薬師になって、いずれ婿を取ると聞かされて育ったんです。なのに今更、婿取りじゃなくて嫁入りとか、切り替えられないです!」

「それを伝えて、むしろ婿を取りたいと主張すればどうだ?」

「薬師として村で重宝されていた時ならば、どこかの次男三男とかが来てくれたかもしれませんが、現在我が家は薬師として成り立っていないので、利点も稼ぎもないから、来てがいませんね。だって、婿入りしたって、自分は自分で別で稼がないと生活もできないんですから」


 新しく淹れたお茶にハチミツもどきを加えて、アルマジット氏の眉間の皺が消える。そんなに気に入ったのか。ならばアルマジット氏がこの土地を去る時にはお土産として渡そう。そんな私の呑気な考えを吹き飛ばす提案を彼がしてくるなんて、思ってもみなかった。



「ならば、こういうのはどうだろう。君が店をやるにしろやらないにしろ。私が君に婿入りするというのは?」



松笠から作るハチミツはロシアで本当に作られています。王都土産の甘すぎる菓子のイメージはグラブジャムンだったり。


店の改装まで進むつもりが、そこまで行きませんでした。

うっかり構築しかけているアルマジットとの関係も、お山から帰還した後に考えなければいけない(要処理)ことに入りました。

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