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知る人ぞ知る~ダンジョン発生のあおりで失業した薬師の娘が薬膳料理店を開きます~  作者: 高瀬あずみ


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2.マルディカのダンジョン低層体験

予約投稿、忘れてました……。


 ダンジョンができた当初、村の誰もが一度は中に入っている。これはダンジョン特有の事象が知られているからだった。初めてダンジョンに踏み入った者は、己のステータスを見ることができるようになる。また、初回特典でスキルが得られたりするのだ。もしかしたら、自分の知らない才能があったり、使い勝手の良いスキルが貰えるかもしれないとなれば、それは入るしかない。

 残念ながら、私にも家族にも、ついでに村人にも、大した才能もスキルもなかった。


 私が持っていた才能は<採取><観察><器用><健脚>。これはほぼ、幼い頃から薬草を求めて山を歩いていたせいだろう。スキルは無い。

 それでも努力を重ねていれば才能も進化したり増えたりするし、ダンジョンの探索を進めて、中にいる魔物を倒すことでスキルが得られることもあるそうだが、戦闘となると尻込みしてしまって、魔物を見ることすらせずに撤退している。後に冒険者ギルドができても、冒険者登録もせずにいた。


 だが今回は違うのだ。

 私は冒険者登録を済ませて、ガイドの依頼をする。ダンジョンの低層を中堅冒険者の案内で体験する初心者必須の第一歩。一応はこちらの安全に配慮してもらえるし、最弱の魔物の倒し方も教わる。低層であればマップもあるので迷うこともない。


「よろしくお願いします」

 ガイドを引き受けてくれたのは食堂の客として顔見知りの冒険者シルパだった。二十代半ばのがっしりした身体つきの陽気な人物。

「こっちこそ。マルディカちゃんに依頼されるとはね。最近、食堂で顔が見えなくて寂しかったぞ?」

「その節はご贔屓ありがとうございます。食堂は先日、退職したんです」

「まさか冒険者になるとか言わないよな?」

「なりませんよー。多分、向いてませんから」

「じゃあステータスとスキル目当て? でもそれじゃわざわざガイドを雇う必要はないか」

「ステータスはもう知ってます。目的は六層から十層ですね。どんなものか見てみたくて」



 このダンジョンは十層までを低層と呼ぶ。五層毎に様相が変化するらしく、最初の五層は洞窟の迷路。六層からは草原だと言うことだ。そしてそこにはダンジョン産の薬草が生えているらしい。私はその薬草に興味があった。心は薬師なんである。


「まあ、低層なら初心者でも倒せる魔物しかいないから、案内するけどよ」

 一層から五層までは、迷宮スライムと迷宮ラットが出た。迷宮とくっつけておけばいいのかと突っ込みたいネーミングである。ダンジョンの外にもスライムやラットはいるので差別化のためだとは思うが、正直スライムだと中と外の区別がつかなかった。


「ああ、そりゃ倒すと魔玉(まぎょく)があるかどうかだな。後、外だと死体が残るけど、ダンジョンの中では死体が消えて魔玉だけが残る。ドロップがなくとも、魔玉はギルドで買い取ってくれるから、ちゃんと拾っておくように」


 シルパの教え通りに倒した迷宮スライムが残した魔玉を拾う。魔玉は街の夜を明るくするランタンなどでも使われているので有用なのだ。

 半透明なスライムの中に浮かぶ核を突きさすだけなので私にも退治ができた。動きもゆっくりというか、のったりしていたので。これが中層以上になると、迷宮スライムですら動きが読めなくなって厄介な敵になるらしい。


 迷宮ラットには手こずった。外の鼠すらちょろちょろ早くて捕まらないのに、迷宮産はもっと素早い。

「迷宮ラットは、追いかける必要はない。あいつらの方から飛びついてくるから。頑丈なブーツ……履いてるな、良し。噛みつこうと止まった時に、こうする」

 ガスっと剣を突き立てられ、あっさりと魔玉だけ残して消えたラット。食堂で聞いた話を参考に、冒険者お薦めというブーツを購入したのは正解だったよう。ラット程度の牙や爪ならば傷もつかない程に頑丈。その分、いささか重いのが難点。お値段もそこそこした。それでもラットに噛まれるのは遠慮したい。主に衛生面で。



 ダンジョンに入るにあたって、武器は必要だった。だが剣など扱ったことはないし、弓は苦手だ。弓を引くだけの力がなくてね……。家中を探したら出て来た棒が私の武器。何故か『錬金術師の鉄の棒(ロハダンダ)』という説明書きと一緒に保管されていた。両親の代ではなく、もっと古い先祖の誰かの残したものらしい。一見、普通の鉄の棒だが、長年手入れもされずに保管されていたのに錆ひとつない。長さは二尺程度(約60cm)だが、持つと案外軽く、やたらと硬かった。持ち手に布を巻いて使っているが、なかなか良い感じである。武術に縁がなく、力もない私では、剣など持ち上げることすら厳しい。棒で十分。後は、普段から山に入る時に使用しているナイフも持っている。武器というより作業用だけれど。


 女性の冒険者ももちろん少数ながらいて、彼女たちは動きやすいズボンを履いている。だが、冒険者でない外の女は、足を見せたり、足の形が分かるズボンを恥ずかしいものと忌避して、踝丈のスカートを履いているものだ。私もさすがにズボンには抵抗があり、脹脛(ふくらはぎ)丈のスカートにした。さすがに普段、街中では履かない短さだが、その分ブーツが脹脛を覆うくらいあるので妥協した結果だ。

 ありふれたブラウスに、フード付きのローブを纏い、背中には背負い袋。右手に鉄棒を持って歩く。髪は編んでローブの中。

 一目で性別が分かる恰好になったのは、冒険者らしい服装への抵抗が大きかったからだ。やはり慣れないと無理だった。本腰入れて冒険者として稼ぐ予定もないし、山歩きも似たような恰好で行っている。ダンジョンでも低層にしか行かないので許されたいと思う。


 薄暗い、けれど何故かほの明るい洞窟を進む。ここまでは順調。魔物もスライムとラットだけで、ただ層を重ねると複数になるのが面倒だった。シルパに戦い方を教わったので、今後は一人でも対処できるだろう。できれば一匹ずつ捕まえて、苦手とする匂いの薬草があるかとか調べたいのだが、ダンジョンの魔物は生きたまま捕らえておくことはできないそうだ。逃げるか死んでしまうかなのだという。



 五層を抜けて六層に入る前の階段付近の安全地帯で休憩を取る。ここまで来るのにかかった時間は一刻と少し。慣れた人間ならば一刻もかからないらしいが、私の場合、初戦闘の指導も受けていたので仕方がない。


 水と干し果物で一服しているとシルパにステータスの確認を勧められた。

「一応、魔物との戦闘もしたし、スキルも生えてるかもしれん」

「スキルは……ないですね。残念」

「まあまだこれからだしな。さて、お待ちかねの六層だ」


 洞窟を抜けたら、そこは草原だった。話には聞いていたけれど、ダンジョンは不思議だ。


「シルパさんは薬草が生えている場所とかご存知ですか? もし秘密なら言わなくてもいいですけど」

「何か所かは知ってるが、だいたい中堅になるとこの辺りでの採取とかはしないんだ。初心者とか、准冒険者の子供らの稼ぎを邪魔するからな。まあ、マルディカちゃんは初心者だから案内しても問題ないだろう」


 正式に冒険者登録ができるのは十五歳からになる。しかし冒険者を目指す子供は、十歳から准冒険者という扱いで低層のみ探索を許されている。彼らの主な稼ぎがスライムにラット、そして薬草だ。



 六層の草原はそこそこ広く、出て来た五層からの入り口を見失ったら、自分がどこにいるか分からなくなりそうだった。シルパから目印になるものを教えられながら進む。小高い丘とか、まばらに生えている木、特徴的な岩だとか。自力でダンジョンから出られなくなるから必死で覚えた。


「六層での主な薬草って言えばこいつだな」

 シルパが指さす方向を見ると、群生している場所があった。

「これがシュシャですね!」

「知ってたか」

「ギルドの資料室で先に予習してたんです!」


 シュシャは蓬に似た薬草で、低級ポーションの材料になるという。冒険者ギルドでは常に採取依頼されているものだ。これは葉を摘んでいく。薬草ごとに採取法が違うのは外と同じだ。数株を根から掘り出して背負い袋に入れた。


「必要なのは葉だけだろ?」

「外で育てられないか試してみたくて」

「あんま、お勧めはできないな。以前やって枯らしたってのを聞くから」

「ええ、資料にもそう書いてありました。でも自分でやって確認したいんです」


 シルパは少し呆れたようだったが、それでも私の邪魔はしないでくれた。むしろこの層に出る魔物、迷宮ウサギに対処してくれてありがたい。

 ラットと同じく、この迷宮ウサギも人間に突撃してくる。額から鋭い角が生えていて、それで攻撃するのだ。結構、狂暴。倒し方も教わった。


「角が刺さって抜けない状態にすると倒しやすい」

 シルパ自身は中堅冒険者なので、通りすがりでもさくっと倒せる程度の魔物だが、戦うこと自体に慣れていない私にはありがたい助言だ。盾にもならないような木の板を渡されて実践する。左手に持った板で角を防ぐ前に、右手の鉄棒を思わず振り回して、たまたま迷宮ウサギの角を折ってしまった。

「まあ、それでもいいんだけどよ。次に来る時には小さめの盾を用意しとくといい。余計な体力も使わないしな」

 角を失ったウサギはふらふらして、倒すのは簡単だったけれど、次からは普通に対処しよう……。



「おっ、ドロップにウサギ肉が出たぞ」

 謎の葉に包まれた肉が地面に魔玉と一緒に落ちていた。低層の魔物は結構な確率で肉をドロップする。すべて可食であり、初心者でも得られやすいために、安く市場にも出回っている。勤めていた食堂でもこのウサギ肉はよく使っていた。目的は薬草でも、肉は肉で嬉しい。

「薬草もお肉も手に入るんだから、ちょっとダンジョンにはまりそう」


 冒険者ギルドへは登録の際と年間費に規定金額を払うが、それさえ済ましていればダンジョンに入るのは無料だ。ドロップの肉はギルドに売ってもいいし、自分で料理してもいい。低層でも食べていくだけなら可能だと知った。ただ、迷宮産でもウサギ肉なので、そればかり食べていると身体を壊すのは外のウサギと同じらしい。

 ちなみに。迷宮ラットも肉をドロップすることがある。外のラットとは違って食べても問題ないから、こちらも普通に食卓に上るが、ウサギ肉よりも更に安価。臭みが強くて、下拵えを十分にするのがコツだ。



 今日はシルパの案内を依頼している状態なので、あまり六層だけで時間を取るわけにもいかない。なので途中で切り上げて七層を目指した。

 七層も六層によく似た草原だが、こちらはやや水場が多い。当然、生えている薬草も違う。

 この層で採取できる薬草はサプタ。水辺によく生えていて、芹に似ている。地面ぎりぎりのところで茎ごと採取するのでナイフを忘れる訳にはいかない。いくらか切って、根ごとのものもいくらか得ると、七層を後にする。七層で出て来る魔物も迷宮ウサギだが、たまに二本角が混ざって更に狂暴。顔は可愛いのに。



 八層の薬草はアシュタ。草原は岩場が多くなり、ちょっとした崖の途中で生えている蔦に似た薬草だ。蔦よりも葉に厚みがあって、やはり低級ポーションに使われるとか。これも葉が採取対象。

 八層に出る魔物は迷宮イタチ。外のイタチよりも大きくて、爪が凶器だ。肉はドロップしないが、たまに尻尾が落ちる。この尻尾にも魔術的な需要があるらしい。ギルドで売れる。踊るように飛び上がってから攻撃を仕掛けて来るのが特徴。ウサギ同様、顔はとても可愛いのに。迷宮産でなくとも狂暴なことは知っているので、結構怖かった。ただ、自ら鉄棒にぶつかって来てくれたからね……。



 九層は七層よりも水場が多く、湿った場所にナヴァという薬草が見つかる。地衣類的な苔の仲間っぽい。中級ポーションにも必要になるらしいが、とっても味が心配になる。岩からこそげ採っていく。常の山歩きの癖で、背負い袋の中には小分け用の袋を沢山用意していて良かった。他の薬草と分けて入れたいからね。

 出て来る魔物は迷宮キツネ。毛皮をドロップすることがあるらしい。外の狐のものよりも衣類などに使うともっと暖かいとか。冬には嬉しいけど、イタチみたいに尻尾のドロップでも良かったのにと思った。残念。あのふさふさの尻尾は素敵だから。



 低層最後の十層は、草原部分と林の部分があり、薊に似たダシャという薬草が林に生えている。草原部分ではシュシャも採取可能で迷宮ウサギも出る。


 このダンジョンでは五層毎に登録できる扉が、更に下に向かう階段の側にある。この十層にもあって、今日の目的の一つは五層と十層での扉への登録だ。これで次回から層を短縮しての探索が可能になるから。正直、五層までの洞窟部分に魅力を感じなかったので、次からは飛ばそうと思う。



 順調に目的の薬草を得て、階層の出入り口を覚える。魔物は迷宮ウサギだけで終わる(ただし三本角)かと思われたが、そう簡単に外に戻ることができなかった。魔物シカが出たからだ。早い話、鹿である。

 間の悪いことにシルパは、扉の登録準備に背を向けていた。私もまた、扉を見ていたので、後ろへの注意を怠っていたのだ。気配を感じて振り返ると、ほぼ至近距離に狂気を湛えた目で睨む迷宮シカがいた。


 迷宮シカは十層でもあまり数がいないらしく、見つからないことも多いとシルパには聞かされた。ただし、私が戦える相手ではないので、見かけたら静かに逃げるようにと。

 けれどもう、逃げることもできない。しっかりと捕捉されてしまっている。

 迷宮シカは外の鹿と見かけは変わらない。つまりは、そこそこ大きいわけで、体当たりされただけで私など軽く吹き飛ばされるだろう。外の鹿よりも厄介なのは、迷宮シカが魔法を使うということだった。雄しかいないのか、二本の立派な角を持ち、角から魔法を放ってくる。


 私には魔法の才がない。そして魔法の攻撃は物理で防御することはほとんどできないのだ。そういう場合、魔法を避けてシカの本体を攻撃して凌ぐらしいが、鉄棒を振り回してどうにかなるレベルではない。

 そして今、角の間が光った。

 声も出せず、シルパを呼ぶこともできない。当然、足どころか全身が固まってまったく動かないときている。


(ここで死んでしまうの?)


 呆然と、短いはずの時間が引き延ばされたように感じる中、絶望が形を持って襲ってきた。

 その時。


『ヴァーユ』


 静かな声だった。決して大きくはない。それでも聞き逃すことはないだろう。耳に残る、低めの声。

 だがその声が齎したのは決して小さいものではなかった。


 強い風が刃のように襲い掛かって、目の前の迷宮シカがどっと重い音をたてて、その巨体が倒れていったから。


「な、なんだぁっ!? 迷宮シカだとぉ!?」

 倒れた音でようやく振り返ったシルパが叫び。

「気が緩みすぎだ、シルパ」

「アルマジットか! 助かった!」

「どうやらガイド中だったようだが、依頼人の守りを疎かにしてどうする。低層だとて死者が出ないわけでもないのだぞ」


 静かな声の主は片手に長い杖を持った魔導士だった。倒れた迷宮シカの身体が消え去って、私はその場にへたり込んだ。


「マルディカちゃん! 大丈夫だったか!?」

「立てません~」

 情けないことに腰を抜かしてしまったらしい。


「登録は終わったのか?」

「おう。これでマルディカちゃんも十層の出入りができるぞ」

「どうやら普通の女性のようだ。何故ダンジョンのここまで来たのかは知らんが、早く外に出した方がいいだろう」


『プラヴァマナ』


 静かな声が再び唱えられた途端に、私の身体が宙に浮いた。急なことに声にならない悲鳴が漏れる。

「シルパ、扉を開けろ。ご令嬢、このまま運ばせていただく」

 そういうことになった。抵抗のしようは勿論、ない。へたり込んだ体勢のまま、私はダンジョンの外へと連れ出された。ダンジョンの入り口には多くの冒険者がおり、大層恥ずかしかったのは言うまでもない。


シルパ氏、ヒーロー候補から失墜する。無念。

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― 新着の感想 ―
わくわくします!おもしろい! 冒険者な彼氏ができたら、薬草の調達を頼めるから、彼氏候補にもなるわけですね 候補はいっぱいいそうなのに、早くもシルパ氏が脱落、笑 冒険者側としても定住してる村娘って、選択…
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