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#5 微睡みに響く不協和音

__懐かしい感覚

まるで、また祠の洞窟へと立ち戻ったような

何とも変え難い安心感

未だ微睡みの中に居るような浮遊感

穏やかな風の音に乗って楽しそうな声が聞こえてくる

なんて落ち着く場所なんだろうか

もし許されるなら、もう少しだけ、このまま___




「そういえばさっきの男の人…妙な魔力を感じたのです…」


「あたしにゃあ何もわかんなかったけどな?エレナ、サクラ!お前らもそうだろ?」


2人は顔を見詰め合わせ答えた

「「わからない」」と


だが、そこでセラフが口を開く

「…たしかに…少し妙な雰囲気を感じたような気がする…」


「全くよぉ!妙な雰囲気だ魔力だ言われても分かんねぇよ!」

後ろを振り向きマーレはエレナとサクラにも同意を求めようと声をかける


「お前らだってそうだよ…な…?」


「「「!!???」」」

三人が三人とも、一瞬で異変を察知した

とは言うものの、分かりやすくも大雑把な異変


忽然と二人が姿を消した


至極単純なことだ

シーラの言ったシェパルグリムの魔力はレリックシーカーの予想をはるかに超えた強度だったようだ


「これはスイッチ式の設置魔法なのです。」

シーラが淡々と説明する


「先程の男性に最初に駆け寄ったのはあの二人。つまり、生きているうちに触れたのはあの二人だけなのです。恐らくはあの男性を媒介とし、ウイルスのように運ばれた洗脳、幻覚の魔力がエレナとサクラに感染したのです…」

だが、魔法の知見のない二人には到底理解できない

そしてシーラは続けて言う


「きっとシェパルグリムはずっと私たちを監視していたのです。グリムウルフを通じて。」


「なに!?グリムウルフを通じてっていうのはどういうことなんだ?」


「グリムウルフはこの遊牧地帯にのみ生息する魔物です…その名の由来はシェパルグリムから来ているのです…彼らはシェパルグリムの忠実な“番犬”なのですよ…」


「ということはさっきのグリムウルフを倒した時からずっと僕たちは監視され、先程の男性も操られ、タイミングを見計らって出てきたシェパルグリムの罠…だったということか?」


「ご明察なのです…セラフ。ここからは私に着いてくることをおすすめするのです」






「――ナ……ん!―レナ…ゃん!!エレナちゃん!!起きてってば!!」

突然の大きな声

エレナは驚きのあまり飛び起きる


「うわあああああ!!なんだここ…びっくりしたぁ…」

だが、エレナにはこれ以上の驚きが待っていた


「もう…エレナちゃんはいつまで経っても寝坊助さんなんだから…ふん!」

頬を膨らませエレナへ喋りかける女の子

エレナはその姿を見て言葉を失った

ただ、名前を呼ぶことしか出来ないほどに


「…カナン…?」


「なに!」

カナンと呼ばれた少女はまだ少し怒っているようだった

勢いのある返事でまたエレナを驚かせる

だが、それでエレナの疑念は確信に変わった


「いつもの…カナンちゃんだ…」

そう言うとエレナは泣き出した


「え!え!?ごめんごめんねエレナちゃん!そんな泣くなんて思ってなくて…えっとえっと…」


「ごめん…カナンちゃん…!カナンちゃんに怒られて泣いてる訳じゃないんだ…ただ嬉しくて…」


「なにが〜…心配させないでよもう!…はぁ、仕方ない子だな〜、エレナは」

そう言うとカナンはエレナをそっと抱きしめた

よしよしと、母親が赤子を諭すように優しく背中を撫でられエレナの涙は大洪水のように溢れ出る


「カナンちゃん今日は何して遊ぼっか」


「そうだなぁ…今日はエレナちゃんのすきにしていいよ!」


「じやあちゅーしようよ!」


「なんか…今日のエレナは少し変だなぁ…仕方ないから…1回だけね?」







パタン、と絵本を閉じた

元気ハツラツな5歳程の少女が母親と一緒にいるようだ

「わぁ…!剣士ってかっこいいですね!母上!」


「私も昔は剣士だったのよ!かっこいいでしょう!」


「さすがです母上!」


しばしの沈黙が流れ、少女が窓を開け身を乗り出す

星を見つめて手をかざす

そしてグッと握りしめる。星を逃がさないかのように

「私も剣士になれるでしょうか…」


「当たり前じゃない!貴方はこの騎士の名家…アーノルド家の長女…サクラ=アーノルドなのだから!」



年月が流れ、少女は10歳となったようだ

ビシッと決めた服装は貴族の子としての貫禄を見せつけている

ひとつ、屋敷の隅の部屋へそそくさと入っていく


「ああ、サクラ…来てくれたのね…」

そこにはしゃがれた声で話す女がいた

女の手には大小細かなマメができており、剣士として相当な鍛錬の日々を過ごしてきたことがひと目でわかる

だが、そんな女でも病となれば悲しい結末が待っている

その女は濃すぎる魔力に当てられ、魔力過多を起こし、急速な老化が進行していた


「母上。今日は剣の稽古をしました。指南役にも勝ちました。どうでしょうか」

なんとこの女は少女の母親だったようだ

あの活発な少女と同じような活発さを見せていた母親も病の前には5年もあれば十分なのだろう

危篤、と言って差し支えなかった

いつ死ぬか分からない母親を少女は毎日のように尋ねる


「今日も剣の稽古を…」

その次の日も

「今日は勉学に…」


「今日は…」

「今日は…」

「今日は…」



「…奥方様の病は我々にはどうしようもなく…ご臨終です…」



こうなることはわかっていた

いつか母上も居なくなってしまうのだと言うのは

だが、早すぎる

私の心の支えはもう…


ある!!


私には剣の道がある!

自由に剣を振るい、人を助け賞賛され、ゆくゆくは母上のような立派な剣士に…!




「ダメだ。」


「え…?」


「ダメだと言っている。」


「で、でも!何故ですか!父上!母も剣士だったと聞きます…!なぜ私は…!」


「お前には、この家の家業を継ぐ責任がある。剣士などと…遊び呆けて死んでもらったら勘弁ならんのでな。話は終わりだ。これからも勉学に励め」


希望は無かった





――――


「シーラ!マーレの様子がおかしい!!」


「え!?どうしたのですか!」


「いやぁ…なんでもない…ただ、とてつもなく眠くてよ…」


「ダメなのです!今眠ると………!」


「これは………」


「………」

瞼は完全に閉じきってしまった

深い深い眠りに落ちたように


――――


「あ、マーレ!どこいたの!探したんだよ〜!」


「…は?エレナ?どこいたんだよ。こっちこそ探してんだぞ?ほらセラフとシーラが…」


「え?セラフとシーラってだれのこと?」


「いや…だっておまえ」


「今日は認定試験の結果を取りに行く日でしょ!忘れたの?」


「いや…だって…そんなはず…」


「もしかして寝ぼけてるの?」


「ああ…そうかもしんねぇな…」

そうだ、寝ぼけてただけだ

セラフとシーラなんていない

だってあたしにゃエレナがいれば


エレナは強引にマーレの手を取ると走り出す

「ボサっとしてないでいくよ!マスターに怒られちゃうよ!」


この現状をマーレは受け入れてしまった

そっちの方が楽しいだろうから

人は快楽から逃れることの出来ない生き物

“羊”なんかよりよっぽど躾やすい




「マーレ!お前は魔剣士という稀有な才能を持っている!現時点から、Aランクを名乗ることを許す!」


「よっしゃ!聞いたかエレナ!Aだってよ!」


「すごいじゃんマーレ!マーレちゃんはやっぱりすごいなぁ…」


「そんで…エレナ。お前は底辺だ。おまえはグズでアホで馬鹿だ。そんなお前にDでもランクが貰えること、感謝しろよ。」


「…おい。今なんつった?」


「なんだよマーレ!Aじゃ不服だったか?貪欲なやつだ…だが貪欲なやつほどよく伸び…」


「ちげぇよ…エレナにいまなんつったってきいてんだよド屑」


「マーレ…!私はいいから落ち着いて!」


「我慢できねぇよ!!エレナ…仲間のことを悪く言われたらあたしゃむかっ腹が立つんだよ!!」


「まあまあまあ…」

こうしてエレナがマーレを宥め、この場は何とか収まった

だが違和感を感じとっていた


(あれ…マスターがエレナにあんなこと言ったことなんかあったか?)


「マーレ…さっきはありがと!私のために怒ってくれて嬉しかったよ!」


「いやぁ当たり前だ。お前のことってなると特にムカつくんだよ」


「マーレは優しいな…きっと仲間ができたらみんなに好かれる姉御になれるね!」


ボソッとマーレは呟く

「みんなに好かれなくてもいいのに…」


「今なんて?」


「いや、なんでもねぇよ」

私はエレナが好きだ

友達としてじゃなく恋愛的に

あの絶望から救い出してくれたエレナが…


――――

「セラフも寝ちゃったのです…とりあえず防護結界は貼ったから平気なのですが…」

その時シーラの頬に一筋の雫が落ちる


「寂しいのです…エレナぁ…サクラぁ…どこにいったのですか…置いていかないで欲しいのです…」

シーラはぽろぽろと涙を零しながらただただ虚ろに目の前を見つめている

でも、シーラにも限界がある

彼女は一人で眠ることが出来ない体質なのだ


ギルドの一人部屋は彼女の孤独をより一層強固なものにする言わば“檻”


恥ずかしがり屋の一面を併せ持つシーラは誰にもそのことを言えず、毎夜毎夜眠ろうと必死に目を瞑っているが、眠ることが出来ない

できても浅い眠りのみ、だが朝が来て眠ってしまえば、みんなと会えない

だから寝ることが出来ない

過去のトラウマから来る極度の不眠


本当は仲間という存在自体が大好きな少女なのだ

シーラは才女のようだが、これで最年少

その彼女のストレスは計り知れない


ならここで甘い現実を知れば、簡単に壊れてくれる


「シーラ!」


(この声!!)


「…!エレナ…!」


「へへへ…心配かけたかな?」


「ほんとです!馬鹿なのです!…どこにいってたんですか!!」


「あっちでご飯食べてただけだよ!サクラって食いしん坊だからさ…」


「そうならそうと言って欲しかったのです!何も言わないでいくなんて酷いのです!」


「すまなかったな。シーラ。要らぬ心配をかけたろう?」


「サクラ…!」

引っ込んだ涙が、シーラをまた溺れさせようと必死にせり上げてくる

嗚咽混じりの声で二人に言った


「もう…ひとりにしないで…」





――何も無い

ただただ白く輝く道

人影も草木も音ですら、ここには存在しないようだった

深い静寂の中を何を思ってか一人歩いている


急に視界が真っ白に光り輝く

眩しさで目を瞑るとそれは魔物の世界だった


「なんなんだ…これ」


魔物の波に今にも押しつぶされそうになりながらも、必死に祠に祈りを捧げる人影

あまりにも現実離れした光景にセラフは思考を止めた


ただ本能の赴くままに

なぜ、こうした方がいいと思うのかも分からないままに動き出す



「この魔物たちを倒さなければ…そう思うのは何でなんだ」

いや…魔物に人が襲われそうになる以上、これは当たり前なのだろうか

だが、何かが違う


そう思っていると聞き馴染みのある声が頭に響いた

『セラフ…そこの魔物たちから人々を救うのです』


いつも頭に響く声と似ているが、抑揚があり人間的な声色だ

「…!だれだ!」


咄嗟に返したが、返事は無い

目の前にはただ魔物の群れが迫っているという事実のみが残った


「疑問は残るが…まずは…!」


そしてセラフは動く

だが、なにか違和感がある


セラフの身には大きな翼が生えていた


純白、正に天使と言うにふさわしい神々しさをまとった翼が風を起こしていた

またひとつの違和感が生まれた


セラフは体が動かせなかった

自分の意志とは違った動きをする


セラフは翼を大きく広げると、魔物の群れへと一直線


(なんでだ!?体が勝手に…!)


「はあああああ!!」


セラフは力み声をあげながら、武器を手に取った


それは大剣とも弓とも違う、初見の武器


黒い槍を構えていた


そこにひと突き

閃光のような一撃

直線上の魔物の全てが塵と化した


代わる代わる武器を取り替えていく

槍、大剣、弓、ハンマー…果てには鞭

1万は超えるであろう魔物の群れを数瞬で消し去る

神の御業と言って差し支えない奇跡が起きた


民衆は沸き立った

だが、セラフは考え続けていた


(いったいなんなんだ…これは僕の記憶…?だがこんなこと…)

その時、民衆の一人が駆け寄ってきた


「大変なところをありがとうございました…天使様!!」

それを皮切りに民衆が押寄せる


「神よ!この救いに感謝します!」


「御使い様…よろしければお名前を!」


そしてセラフの記憶?は答えた


「私はセラフ。神に創造され、貴様らを救う使命を背負った天の使いだ」


その一言に民衆はまた沸き立った

これで救われると


次にセラフは怪我人を見て回り、その全てを癒すとまた大空へと飛び立った

はるか上空、雲をも突き抜けた先には天の国があった

セラフはそこへ降り立つと、見目麗しい女神様が近づいてくる


「セラフ。此度はよくやってくれましたね…」

その声はあの頭の中の声と同じものだった

それについて聞こうとセラフは口を開こうとするが、ただ記憶をなぞっていくように進むこの光景に今生きるセラフの意志はどうにも反映されない


記憶の中のセラフは女神へこう答える

「いいえ。我が創造主よ。これは私の生きる運命。創られたときに背負わされた宿命でございます。何卒、面をあげてください」


「セラフ…次はあの街へ魔物を倒しに行きなさい」

またセラフは翼を広げ、その街へと向かった

そしてまた次、また次と

様々な街、国をかけまわり人々を助け回った





場面は変わり天の国

あの女神が神々の前に立ち、大きな声で話し出した

「なぜ…こんな方法で信仰を集めるのですか!」


「神は人の信仰の上に成り立つ…信心なき輩をのさばらせておく理由は無い」


「その通りだ。神を信じぬものに罰を…神は誰にも左右されてはならない。それは無論、人も同じだ」


「ならば信仰を作れば良い。まずはダンジョンを作り、恵を与えた。それなら次は破壊だ。絶望から希望へと救われた時、人々は本物の信仰を手に入れるだろう」


「その絶望が…これなのですか!」


「そうだ。ダンジョンブレイクにより、ダンジョンから魔物を解き放った。それは大きな絶望だろう?」


「そこのお前の作った人形はよく働いてくれている。人を救う役目など、我々は毛頭ごめんなのでな」


その一部始終を聞き、セラフは血が沸き立つ

神の作った人間だが、今では意思ある集合体

そんなものをまるで遊びのように殺す神の不条理さに


女神に人類救済のため作られたセラフにその話は酷すぎた


そして女神に内密でセラフは動き出す


人々を全て救い終えた後に、彼は神へ反旗を翻そうと準備を進めていた

そして決行する




「神よ!創造主さまの身内でありながら…人々への慈悲の欠片もないのか!!そんなもの神ではない!鬼畜の外道だ!!」


「…貴様のような傀儡に何が出来るというのだ?精々人を助け悦に浸る程度が関の山だろう?」


「くっ…お前のようなもの今ここで殺してやる!!」


「やれるものなら…な」

そう言うと神は後ろを見ろと言わんばかりに、視線を向ける

「逃げて…セラフ!」

そこには十字架に磔となった女神の姿があった


「なにをする!!お前らは人間だけでは飽き足らず、おなじ神にも外道のようなことをするのか!」


「分かっておらんな…傀儡よ。それは人に向ける言葉だろう?神は何人にも指図されないものだぞ。」


「この…外道めがあああああああ!!」

セラフは神目掛けて弓を引く

だが遅かった


「神の裁きをくれてやろう。」


その一言

そこで記憶は途絶えた









―そうだ。人間たち。もっともっと深く…甘美な時間を堪能したまえよ


そして骨笛の音が鳴り響いた


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