#2 認定試験に死告げる殺気
ベッドの上に横たわりながら、セラフは天井を見つめていた。
自分が何者かもわからないまま、「収集者になる」と叫んだ。
だが――本当に、それでいいのだろうか?
エレナにはセラフ合わせて5名の仲間がいると聞いた
その仲間たちとも会わずにエレナのチームに入ることを決めたのは迷惑千万としか言いようがない
そんなことを考えているうちに眠りに落ちていた
__翌朝、エレナが宿へと来ると、早速ギルドの話をしようと言う
「おはようセラフ!昨日はよく眠れた?」
「エレナ、おはよう。お陰様でよく寝れたよ。宿代もお世話になって申し訳ない…」
「命の恩人だもん!当たり前だよ!」
そう言って胸を張るエレナは、小柄なくせに不思議と頼もしさがある。
「エレナ。ギルドの話なんだけど…」
「どしたの!なんでも聞いてよ!」
「こんな見ず知らずの僕が入るのをエレナの仲間はよく思わないんじゃないかなって思ってさ…」
「…」
セラフの一言にエレナは黙りこくる
なにかまずいことを言ってしまったのかもしれないと、セラフは少々冷や汗をかく
沈黙を破ったのはエレナだ
「もおー!失礼しちゃうな!私の仲間がそんな人な訳ないじゃん!みんないい子たちだよ!」
「ほんと!それならいいんだけど!」
怒らせてしまったかと危惧してたため、その温度差からセラフは安堵のため息をつく
「それにセラフはつよいから!みんな助かると思うよ!うちのチームみんな女の子だからさ!」
「ええ!?」
「あれぇ?言ってなかったっけ?」
「言ってないよ!」
後々わかる事だが、エレナは大事なことを遅れて言う
そういう人間だ
話しながら協会へと向かう
今日は収集者として活動するための資格を取得しに行くのだ
「そういえばエレナ。協会ではどんな試験があるんだ?」
「これも言ってなかったか…試験って言っても実技だけだよ!剣で的を切るとか魔法を当てるとかね!大丈夫!セラフならカンタンだよ!」
そういってエレナは安心させようと色々アドバイスをくれた
そんなこんなで話していると協会に着いた
協会に着くとエレナは受付カウンターへと向かった
「アンナさん!久しぶり!!」
「エレナ!久しぶりだね!元気だった?」
「元気元気ちょーげんき!アンナ最近いなかったけどどうしてたの?」
「最近はダンジョンのランク査定に行ってて少し離れてたのよ…死ぬかと思ったわ…」
「それはお気の毒に…」
この人はアンナ。
本来協会でダンジョン挑戦の許可証や、モンスター討伐依頼などの斡旋をしている人だ
エレナがいうには
「アンナさんは竜殺しって言って、ドラゴンを討伐したすごい人なんだよ!怒らせたら怖いよぉ…」と言っていたから、あまり怒らせないようにしよう
「今日はマスターはいないの?」
「今日は王都から離れたところに急な用事が入ったらしいの…ところでその人がセラフさん?」
「はい。僕がセラフ…です」
「じゃあ早速で悪いけど、試験を開始しましょうか!エレナ、みんなはもう観戦席で待っているから早めに行きなさいね」
「わかった!じゃあセラフ!頑張ってね!」
「ありがとうエレナ!頑張るよ」
「じゃあセラフさんはこちらに…」
そういうと協会の地下へと連れていかれる
階段を降りるたびに空気が冷たくなり、壁には魔法によって地下だと言うのに暗さはない
どうやら空間拡張の魔法で巨大な地下空間を作っているらしい
ここは収集者の訓練場も担っていると聞いた
「あーれがエレナの言ってたヤツか?言うほど強そうには見えないけどなぁ?」
「マーレちゃん…そういうのは良くないのですよ!」
「シーラの言う通りだぞ?マーレ。これから仲間になるかもしれないやつだ。悪く言うな」
「ちぇ…わかったよサクラ…」
そこにエレナが現れる
「やあみんな!お揃いで!」
「遅ぇぞエレナ!!」
「まったくなのです…」
「時間も守れぬやつに、仲間を守ることは出来ないと言ったろうに…」
「はは…ごめんじゃんー!ささ!今日は仲間が増える日なんだから、ちゃんと見てあげなきゃ!」
アンナは地下についてから試験についての説明を始めた
「セラフさんの話は聞き及んでおります。エレナが言うにはオークを一刀両断する力を持っているとか…なので今回は特別なお題を出そうとおもいます」
「なるほど…そのお題とは?」
アンナは言った
オークを一刀両断する人間相手に動かぬ的を斬らせるなんて造作もない
元々合格はほぼ確定事項のようなもの
だからこそ。どの程度の力を持つのかを試したい。と
「私と戦いましょうか」
アンナは不敵な笑みを浮かべながら続ける
「こう見えて私は“竜殺し”のアンナと呼ばれていたことがありまして…収集者はつまらなくなって引退しましたが、戦いというのは好きな性分で…」
「…それはどの程度の模擬戦をすればいいんです?」
「模擬戦…セラフさん…分かってないですね…ふふ」
アンナは眼鏡を外すとそのまま握りつぶす
未来のお前はこうなっているとセラフに言わんばかりな表情で。
『死と直面するのがあたりまえのダンジョン攻略…それに模擬戦程度の熱量で挑もうと言うのですか?』
雰囲気が変わった
地下の空気がビリビリと震える
これはアンナが放つ魔力
膨大な魔力によって空気が震えているのだ
「おいおい!あいつアンナさんとヤれんのかよ!!羨ましいぜ!」
「戦闘狂…気持ち悪い…なのです…」
「あ゛ぁ?そんなに喧嘩がしてぇのか?いいぜぇ?上下関係っての分からせてやんよ」
「あぁうざいうざい…一回魔法で焼かれた方がいいのですよ…私が焼いてあげるのです」
「マーレ、シーラ。仲間同士での殺し合いはご法度だ。そうなれば殺してでも止めなければいけなくなる」
「もうみんな落ち着いてったら!サクラも!仲間のことが大事なのはわかるけどさぁ!」
アンナさんの魔力のせいでみんな殺気立っちゃってるよ!
もう!こういう面倒な時があるからアンナさんは良くないなぁ…
「私は竜の塔と呼ばれる以前まで未踏破だったダンジョンを単独攻略したんですよ。そこの主は皇竜という名前でして…気高く、全力を尽くし戦ってくれました…最後には宝物庫のアーティファクトを私に授けてくれたんですよ?」
(竜殺し…あんな穏やかそうに見えたアンナさんがここまで強烈な圧を…殺気を放つなんて…!)
セラフは感じていた
このアンナの殺気は本物であると
だからこそ本能が伝えている
本気で戦わなければ殺される…と
「セラフさん。噂に聞いた剣は使わないのですか?私はアーティファクトを使うというのに…」
そういうとアンナは腕輪のようなものをはめた
瞬く間にその腕輪から何かが広がる
それは鱗だった
(鱗!?…前情報から察するにこれはドラゴンの鱗か…アーティファクトのことはエレナから聞いていたけれどこれ程のものだなんて…!)
「セラフさん。最後通告です。剣を使いなさい…でなければ…」
『死にますよ』
また放たれた強烈な殺気
これに呼応するように大剣がどこからとも無く現れた
「なんだアイツ!どこから出しやがった!?」
「すごいのです…」
「デカイ剣だな…」
「やっと出しましたか…その大剣の力と、私の鱗の防御力…どちらが強いのでしょうか…ワクワクしてきましたよ…」
「アンナさんのお眼鏡に叶うといいんですけどね…」
「ふふ…では、試験開始です!」
(まずは防御しなければやられる!)
セラフが剣を上げ防御の姿勢を取ろうとした
だが、それよりも先にアンナはセラフの眼前に現れる
「そんな腕を上げて…殴って欲しいと言っているようなものですよ?」
刹那、セラフの臓物にかつてない衝撃が走る
例えるならば体の内部が大爆発を起こしたような…
そんな衝撃にセラフは血反吐を吐く
「ぐはぁっ!?」
速い!?分からなかった
僕が剣を上げた瞬間…大剣で視界が隠れる一瞬の合間を狙って接近!?
ここでセラフは思い知った
アーティファクトを手にすることの出来る人間は、アーティファクトが無くても強いと
「セラフさん。あなたにはまるで戦闘の経験がないと思われます…だから、私が貴方をここで鍛え上げましょう。安心してください!この地下室には治癒魔法陣が貼ってありますので!」
「はぁはぁ…確かに…もう痛みは引きましたが…痛いものは痛いですよ…」
「それも経験です!さぁどんどん行きましょう!」
(次はアンナさんより先手を打たなければまた好きにされてしまう…!!)
ここでセラフは考えた
今までの少ない経験
自分の強みはなにか
たどり着いた答えはひとつ
脚力
常人離れした脚力で撹乱
円を描いた動きで遠心力を高め、最後に大剣を振り抜く!
そしてセラフは脚に力を込めた
鋼鉄製の地下室の床を抉りとる程の力で…踏み抜く!
ドンッ!と爆発音にも似た轟音を立てセラフは走り出した
「やぁあああああ!!」
アンナの死角を狙い背後から横薙ぎ一閃
だが紙一重で躱される
セラフはまたもその脚を使って地下室のスペースを存分に使い撹乱する
「いやぁ凄いです!私でも目に追えない速さとは恐れ入りました!ですが…ここで戦闘経験の差が出るんですよ。」
次こそはと先程よりも溜めに溜めた一撃を放とうとセラフはアンナの死角へ飛び込む
「僕の勝ちだ!!」
バン
鋭い破裂音が響く
次はドンと鈍い音が
エレナたちはセラフを見失っていた
竜殺しですら見失う速度
見えないのは仕方がない
だが、何らかの衝撃音があるということはどちらかが攻撃したということ
なのにどちらも一向に動いた様子が見えない
エレナは視線をあちらこちらへと向けセラフを探す
その時、地下室の天井からパラパラと瓦礫が落ちてきた
観戦席から身を乗り出し、天井を見つめる
そこに、セラフはいた
先程の数瞬の攻防
最初に死角を取ったセラフが攻撃を仕掛ける
これをアンナはすぐさま合わせセラフの体制を崩す
ありえないスピードでの移動により、少しの力でセラフはグラグラと揺れてしまう
そしてアンナはセラフに掌底を一撃
骨を砕き、内蔵を破裂させる
そんな代物を人間相手に使う
正に『竜殺し』の名にふさわしい鬼畜の戦闘狂
「やはり戦闘経験がものを言いますね…聞こえてますか?セラフさん」
(ここらで幕引きでしょうね…)
アンナが手を挙げ、試験終了の合図を出そうとした時だった
ストン、と何かが降り立った音がした
そこにはエレナが初めて見た時と同じ
黒装束に黒仮面をつけたセラフがそこに居た
(なんだ?何が起きた?僕が懐へ飛び込んだと同時に僕は天井へと吹っ飛ばされたのか?)
セラフの戦闘経験の無さはおそらくこの世界屈指であろう
目覚めたばかりのセラフにロクな戦闘経験などあるはずも無い
そこに戦闘のエキスパートと言えるアンナが偶然にも居合わせてしまった
さすがに僕の負けだ…
その時またあの声が聞こえる
『弓を手にとりなさい』
そして黒い仮面が現れたことに気づく
大剣は黒いモヤに包まれた
モヤが晴れた時、大剣は弓へと変貌を遂げていた
巨人の弓と見紛う程の巨大な弓
この弓の担い手は
セラフは天井から剥がれ落ちると地面へと落下していく
また同じ感覚に陥った
まるで時が止まったようにゆっくりと時間が流れる
宙に舞った砂埃ですら全てを目で捉えられるほどに
ゆっくりと落下していく身を翻し、確実に着地する
そして繋がった
「おや…セラフさん!まだやれるというのですか?…大剣はどちらに?それ以前にその仮面はどちらから出したのでしょうか…」
『弦を引き絞りなさい。そして撃つのです』
「まあそんなことは関係ありませんね…!!」
自然とこの声に従う
エレナを助けた時もこの声に従ったことで助けれた
もはやこの声に疑念はない
声の通りにセラフは弦を引き絞った
限界まで限界まで
アンナはこちらへ向かっては来ているが、この時間の中でセラフより速いものは誰一人としていない
『射て!!』
声の合図に合わせ、セラフは弦を弾いた
カンッという乾いた弦の音よりも速く、見えない何かがアンナの体を貫こうとする
ドォン!
地下室には白煙が立ち込める
ただただその勝負の行く末を見守るエレナたち
「セラフは大丈夫なの!?」
そして煙が晴れた
そこにあったのは
鱗を貫通し、腕から出血するアンナの姿だった
「…いやはや、まさか本当にこの鱗を貫かれるなんて…初めての経験です!」
血をダラダラ流しながらも、余裕の表情でセラフに近寄るアンナ
セラフは仮面を外して駆け寄った
「アンナさん!大丈夫ですか!?…ごめんなさい!ここまでやるつもりじゃあ…!」
「大丈夫ですよこのくらい!竜殺しを舐めないでいただきたいですね」
そういうとアンナはエレナたちが見守る観客席の方へと振り向くと、セラフの手を取りこう言った
「この模擬戦!セラフさんの勝利です!ここに!セラフさんの収集者認定試験の合格を宣言します!!」
エレナは観客席から飛び出しセラフの元へと駆け寄る
「やったああああ!!!!セラフ!すごいよセラフ!アンナさんに勝っちゃうなんてぇ!」
「…でも、本当なら僕の負けだよ。アンナさんに勝てるところはひとつも見つからないや」
「ええ…そうでしょう!これが模擬戦でなければ私が勝ってたでしょうねぇ!」
「うわ…大人気なーい…」
「私は負けず嫌いですから!」
こうしてセラフの波乱の収集者認定試験は幕を閉じた
セラフが帰路に着くとき
エレナは少し申し訳なさそうに話しかけてきた
「セラフ!今日はお疲れ様!試験内容ちゃんと聞いてなくてごめんね…今日は疲れただろうからまた明日メンバーと顔合わせしよ!ゆっくり休んでね!」
「エレナは僕を安心させようとしてくれたんだろう?それなら、僕が怒ることなんて1ミリもないよ。宿代も出してもらってる身分だからね」
「えへへ…まあ今日はお疲れ様!じゃ!また明日ねー!!」
そう言うと走って仲間の元へと行ってしまった
セラフは宿に着いてベッドに寝転ぶと、考え出した
あの力…まるで時間が止まったようなあの時間…あれはなんだったんだろうか
きっとあれが無ければアンナさんに攻撃を入れることすら叶わなかったはず
発動のトリガーが分かればもっと…
などと考えているうちにセラフはまた眠ってしまった
ガチャ
協会に誰かがやってきた
「今は営業時間終了してますよー」
「ああ、アンナか。お前がこんな時間まで残ってるとは珍しいな?残業か?」
「なんだ!マスターだったんですか!それならそうと…」
「そんで、今日の試験はどうだった?試験内容はお前に一任すると言ったが…」
アンナは試験内容についてマスターへと説明した
するとマスターの顔はみるみる青ざめていく
「お前…!馬鹿なのか!?認定試験で元Sランク認定収集者と模擬戦?頭いかれてんのか!?」
「うぅ…でもだって一任するって言うからぁ…」
「限度っつうもんがあんだろーがよッ!!」
マスターはアンナに対して一通り説教をすると、結果について聞いてきた
「それで、どうだったんだ?セラフは」
マスターがそう言うとアンナは腕を見せる
「まさかの怪我させられちゃいましたよー!」
「まじか…お前は徒手空拳のプロフェッショナルだって言うのになぁ…怪我させるだけでも上等じゃねえか…さてはお前その怪我で仕事遅れちまったんだな?」
「バレましたか…でもこれ、ただの怪我じゃないんですよ」
「なんだ?特に変わったとこはねえけど」
「私、実はアーティファクトを使ったんですけどね…」
「はぁ!?お前ガキ相手にSランクがアーティファクトまで使っただァ!?…こりゃ、セラフに正式に詫び入れねえとなぁ…」
「そこじゃないですよ!彼…セラフさんは私の皇竜の装甲を破って私にダメージを与えた…ってことを言いたいんです!!」
マスターの表情が一変する
「それは本当か?」
「“マジ”です」
マスターは顔をぐっと近づけ再度確認する
「本当に?」
「本当の本当です」
「セラフ…こいつはやべぇかもしんねーぞ」
「…はい」
「神の断片を集めるなんて収集者なら誰もが一度夢見るが…誰も成し遂げることは出来ねえ…だが、これなら有り得るぞ!」
(皇竜はレリックダンジョンのボスたちに1番近いと自身で明言している…その皇竜の鱗をこの歳で貫くなんて…!)
「こりゃ近ぇかもしんねえなぁ…神の断片の収集者…[レリックシーカー]の誕生が!!」




