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#10 心の内を晒せば

―翌日、シーラはターニャの葬儀に出席することとなった


棺の前へとシーラが向かう

そこには安らかに眠るようなターニャの顔があった

頬にはピンク色のチークが塗られ、唇はあどけなさを感じさせる色に塗られている


「シーラちゃん…うちの娘と仲良くしてくれて…本当にありがとう…」


「そんなこと…ないのですよ。私はただ本を読んでただけなのです…」

元々表情の薄かったシーラだが、その顔は本当の“無”に近かった


そしてとうとう棺に火がともされる


シーラは最後にもうひと目だけと言い、席を立って棺の前へまた歩いていった


「ターニャ…こんな痩せてしまって…なんでもっと早く気づけなかったのですか…」


シーラは優しく頬を撫でる

そこに以前のような体温は感じられなかった


今までそうしたことは一度も無かったが、最後なら―と


その時、頬を触った影響で目の下の死化粧がすこしだけ剥がれてしまった


死化粧の下の顔。その一部分だけだが、シーラはターニャの最期がどのようなものであったか、瞬時に理解した

何故なら彼女の皮膚が爛れていたからだ


これは出てくる涙を何度も何度も拭った証拠―それは彼女が如何に苦しみ、どのような感情で亡くなったのか…それすらも分からせる説得力を持っていた


嫌な想像をしてしまう


棺に入る穏やかな表情のターニャに、涙を流し、苦しみの表情の幻影を重ね見た


「ひっ…!」


思わずシーラは後退る

賢い彼女の頭脳は、無二の友の最後ですら想像してしまう

それは祝福でありながらも、まさに呪いのようだった




その日の天気は悪かった

嫌に湿った空気は陰鬱な空気をより増長させるようだ


ターニャが最後に見るのはこの曇り空なのだろうか?


ユラユラと揺れる炎の中、風の音に交じり、ぱちぱちと肉の燃える音がする

その焦げ臭さは鼻の奥へとこびりついてしまう


そして遺骨を拾い上げ、葬儀は幕を閉じた




葬儀が終わったあとも、シーラはまるで魂の抜けた模型のようだった


動くには動くが、本をめくる動作ですら億劫なのか、あれほどまでに読み込んでいたページに手が行かない


葬儀以降、シーラには嫌な“能力”が備わった


それは正しく呪いだった

言い方は悪いが、ターニャがシーラに遺したものはシーラの他者への依存、そしてその呪いだった


シーラは関わったものの顔に、そのものが死んだ時

どんな表情をしているか、鮮明に作り上げられた幻像を重ね合わせてしまうようになった


どうせ、互いの心の内を明かせたとしても―?

死後の姿を想起してしまうのなら―それは彼女が人と関わるという点において重い重い足枷となるに違いなかった


だが、不幸とは立て続けに続くものだ




葬儀の晩―ターニャの父は神官を招き、食事を取っていた

葬儀である以上、神に従する人間がいるのは付き物だ


ターニャの父は神官に俺の言葉を言う


「こんな悪天の日に御足労いただき、ありがとうございます…これで、ターニャも報われるでしょう」


「いえ―仕事でもありますから、そんなにお気になさらずに…」


神官を気遣いの言葉をかける

その言葉には大人としての社交性が滲み出ていた

そして神官は問いかける


生前のターニャはどのような人物だったか


自然な流れで父親に思い出す機会を与えた

娘が生きていた幸せな頃の記憶を無くさないようにとの気遣いでもあったのだろう


父親はそんな質問にくちごもる

実の娘の死も同時に思い出させる語り

父としては心が焼けるような思いだろう


幸せと切なさを交えた顔で、それでいながら嬉々とした表情で話し始めた


昔のターニャ

そして最近のターニャ

病弱で学校にも行けなくなってしまった彼女にできた友と呼べる存在


病床に伏す時ですら、その名を真剣に語っていた

その時の熱量はこの娘はまだ死なないのでは―と感じさせる程だった


そしてその娘がシーラという少女と話した最後の日

父はフラフラなターニャを案じて、家からその後を追っていた


その日に見たシーラがターニャに与えた優しさ


そして治癒魔法の事も

正確には治癒魔法とは分かっていなかったが、魔法の光を見たあとの二人の前後の言葉で神官は気づいてしまった


それがダメだった


神官は血相を変え、身支度を整え出す

「どうしたんですか?」

父は神官へと問いかける


「いやなに…私と話していてはあなたの奥方様が心配だ。娘を亡くした心の傷。貴方が埋めてあげなくて誰がするのです?」

無論、建前であった

だが、その言葉は的を射ていた

ハッとなると父も早々に身支度を始める


父は感謝の言葉を述べたあと、そそくさとレストランを出ていった

レストラン―というにはあまりに無骨な外装

どちらかと言えば酒場にちかいだろう


神官は一足遅く外へと出る

そうすると足早に村の教会の方へと向かった




辺境の村

それは良くも悪くも風習が根付いている

それは悪しき風習であったとしても―


次の日の晩頃

以前のターニャの父のように、シーラの名を呼ぶ男が扉の外に来ていた


「夜分遅くに申し訳ない…シーラという娘がいると聞いたのですが…」


母が突然の訪問に驚く

洗っていた食器を投げ出し、扉の方へ向かう


扉の向こうの男の声はどこか優しさを感じさせるものだった


母が扉を開けると、そこには神官がいた

昨夜、ターニャの父と食事を共にした、あの―だ


母は笑顔で答える


「どうされましたか!シーラは確かにうちの娘ですが…」

神官が尋ねてくることなどまず少ない

こんな夜遅くともなれば当たり前だ


「最近、この村に“魔女”がいると聞き及んだもので…周辺の家を訪ねていたのです」

嘘だとすぐに分かる

先程神官はシーラの名を呼び尋ねてきた


つまり、魔女の容疑がシーラにかかっていることを意味していた


「もし良ければ、シーラさんとお話させて貰えませんか…」

優しさの裏に荒荒しさを感じさせる

父は仕事後に酒場へとでかけており、女と少女二人の家で反抗しようとするものは誰もいなかった


神官のそのお願いは、どちらかと言えば命令に近かった




「君が…シーラさん?なのかな」

神官が尋ね、続けて言う


「ターニャさんの父親から話を聞いてね…いやぁ…賢いんだってね」


「それほどでも無いのですよ…ただ、本を読んでたら覚えていただけなのです」

シーラはその質問に謙遜で返す

これは正しいが、少女の返しとしては不自然だ

不気味さをどこか持たせてしまう


「色々あったが…魔法を使えるんだってね…その歳で」


「まあ…少しなのです…本を読んでいればできることなのです」


その時神官の視線がぎらりと鋭いものに変わる

「―それは治癒魔法もかい?」

確信を突くその質問

シーラは弁解しようとする


「それは…!」


「全てターニャさんの父親から聞いているよ…」


「…そうですか…」


「君は神職でも無いのに治癒魔法を扱える。それはね、神の理に反するんだよ」

そういうと神官はハンドベルを取った

それをチリンと鳴らす


その時、教会の金がゴーンゴーンと音を立て出す


「一体…何をしたのですか?」


「ただの風習。―魔女狩りだよ」


家の外から大きな足音が聞こえる

それはこの家へと向かっているのがわかる

だんだんと近づく音で空気が痺れるように揺れている


この鐘の音を止めなければいけないとシーラがまず目を向けたのは神官だった


「何をしたのです?」


「ただ…魔女を討つための神兵をよんだまで」

そういう神官の手のハンドベルは未だ鳴り続けている

シーラは直感した

このハンドベルと共鳴し、教会の鐘が鳴っているのだと


シーラは仕方なく決意した

この神官を殺さねばならない、と


現時点で鐘の止め方は分からない

並ばその担い手を殺すことで止めることが最適だと理解した


「…肉を貫く光<ルーメン・ピアス>」

シーラは躊躇せず―否、躊躇する暇もないと判断したのか、すぐに魔法で攻撃した


だが、神官も魔法の知識を持つ側の人間。

咄嗟に防ごうと詠唱を始めようとするが、光の速さの光線魔法に為す術なく心臓を貫かれる


神官はその場に力なく倒れ込んだ

その一部始終を見ていた母は絶句する

「…シーラ…!!あなた…!」


だがそれにシーラは冷静に返す

「仕方ないのです…おそらく今この家の周りには教会の兵らがいるのです…まずはここを切り抜けなければ…」


そういうとシーラは次の炎の魔法を放った

淀んだ黒炎を神官の体に向け放つと、その体は亜空間へと吸い込まれるように消え去った


母はシーラが人を殺した事実よりも、その魔法技術に呆然とする


「母さんは裏口からにげてほしいのです…どうやら狙いは私のようなのです。母さんも傷つく必要はないのですよ」


「でも…」


シーラは強がりを見せる

確かに恐怖もあった

だが、ターニャのように、気丈に振舞った

その態度は実の親ですら騙してのけた


「私は大丈夫なのです!魔法だってこんなにつかえるのですから!」


「…わかった!!でも無理しないで…!すぐに父さんを呼んで助けに戻るから」


「分かったのです…!!」


裏口から母は駆け出した

そして、シーラはそのまま扉を開け、外に出る

外には100を超える大勢の兵士たちがいた


「おい…!出てきたぞ…!!」


「神官さまはどこに…!」


「殺したのです…」


その言葉に兵士たちは耳を疑った


「殺した…だと!?」


そしてシーラは正式に魔女として扱われることになった


「この…魔女めが!!」


兵士たちは一斉にシーラの方へと走り出す

槍を構え、弓を引き、鞘から剣を抜き向かう


だが、シーラは生半可ではない

彼女は本物の天才なのだから


「…魔女…なのですか…はは…ターニャ、あなたの慕ってくれた私は、魔女らしいのですよ…」

そういうシーラの顔は切なさに満ちていた

彼女を慕うターニャがこれでは浮かばれない


死の間際までシーラの名を呼んでいたターニャへの明確な侮辱―シーラはそう取った


想いの力は時に人の力の限界を底上げする原動力となる

そういう人間は少ないが、シーラはそちら側だった


「それなら魔女らしく…悪役になってあげるのですよ…!!」


シーラは魔力を身体にめぐらせる

血管を伝うように強大な魔力が身体から滲む

邪悪なオーラのようにゆらゆらと揺れるそれは、シーラの魔法使いとしての力量を物語っている


ジリジリと兵士たちは近づいてくるが、シーラの圧倒的なオーラに近づけずにいた


シーラが何をするか、シーラ自身でも分かっていないほどに

静かな激情が確かに彼女を動かしていた


そしてシーラは魔法を放つ

だが、それは兵士の目の前に落とされる

確かな威力、大地から粉塵がまきあげられる

「おい!逃げられるぞ!!」



だが、その粉塵には砂利が混じっており、飛び散った砂利は当たれば体に深く刺さってしまうだろう

兵士はこの煙幕に飛び込むのを躊躇している様子だ


そして彼女は次の魔法を放つ

「風葬の環―<ヴォルテラ>」


「…おい…!おいおい!」


「できるだけ残忍に…できるだけ惨く…殺して差し上げるのです」


それはターニャを侮辱されたことへの怒りからくるものだった

だが、その真意は明確に違うものがあった


ターニャが好きだったのは気だるげながらも、面倒見が良く、そして優しいシーラだった―はずだ


なら、そのシーラという存在が変わればいい

残忍で冷徹。人を殺すことに躊躇もない血も涙もない怪物になれば―

そういった思いがシーラには確かにあった



シーラは風葬の環<ヴォルテラ>によって宙に舞った砂利を絡めとった

最初は撹乱のための魔法かと思われたが、シーラの策は違った

砂利混じりの粉塵を風で絡め取り、兵士たちにぶつける算段だったのだが


暴風によって威力を増した砂利は、当たれば一溜りもないだろう

大の大人でも泣き叫ぶほどの痛み―容易に想像できる


「ふっ……!!」


シーラは風域を操り始めると、巧みに兵士たちの方向へと向けた

迫り来る突風。

もはや砂利と呼べる代物ではなく、それは一種の凶器に近い威力を持ち始めた


刹那、一人の兵士の背中を砂利がかすめる

鋼鉄のプレートは容易く削り取られた


まるで嵐の中に一人立った時。

その時の無力感に近いものを感じさせる


そして一人、また二人と、兵士をグチャグチャの肉の塊に変えていく

その殺意は本物だ


重厚な殺意に兵士たちは飲み込まれ、怖気出した頃


どこかから兵士たちが現れた


いったいなんだ?


シーラは困惑した

ここに居る兵士が全てではなかったのか―と


教会勢力が“魔女”を狩る名目で兵士を駆り出したというのに、別の場所から兵士が来るなど到底想像できる展開ではなかった


現れた兵士たちの先頭に立つ男が、おもむろに黒い袋をふたつ取り出す

大きさは水瓜がちょうど二つ分と言ったところだろうか


そして兵士は口を開け、高らかにこう言った

「魔女を“産んだ”悪の源は絶たれた!!」


魔女というのはシーラのこと

シーラを産んだ

つまり―

「父さん!!母さん…!」


そして袋から投げ出されたもの

頭だった


父の首と母の首が、ゴロゴロと転がってくる

シーラは咄嗟に拾い上げる


その二人の首には確かな体温が感じれた

まだ、殺されたばかりなのが分かった

生々しくも痛々しい両親の遺体をみたシーラは何を思ったか


それは意外なものだった


シーラは卓越した視点から物事を見定め、行動する

それは大人よりも頭ひとつ抜けた視点だ


そのせいか、シーラは両親の死にこれと言った感情は湧かなかった


彼女は産まれた頃から賢いままだった

両親のことは一緒に暮らしている他人くらいの認識であったため、悲しみがわかなかった


だが、ターニャのためにあれほど悲しみにくれた自分。

そして、実の親を殺され何も感じない自分。

そのガラス片は、シーラの心の奥に深く刺さる


激情からの無感情、自身の心はここまで冷めていたのか


これでは本当の魔女と同じではないのか?と


それならば、魔女を演じ切ろう


シーラは神官の遺体を消した炎を再び手のひらで踊らせだす

「はは…ははは…」

弱い笑い声を出しながら、遺体に炎をつける

両親の死には特段感じることは無いが、遺体に火を灯す描写にターニャの事を想起してしまった


涙を堪えながら

今はただただ自身のなすべきことをする道具とならなければ―そう言い聞かせた


シーラの心は古びた家屋の扉のような、ギシギシと軋む音を立てていた


「魔女どころか悪魔だな…」

兵士のひとりが呟いた


それにシーラは大きな声で返した

喉が潰れるほどの大きな声で

「ええ…!!あなた方がそう思うならそうなのですよ…!魔女でも悪魔にでもなってやりましょう…!」


突然、シーラは空中へと浮かび上がる

そして両手には大岩程の大きさをした黒炎が踊っている


「おい…!お前ら逃げろ!あれを受けたらまずいことになるぞ!!」

兵士はそう叫ぶが

もう遅かった


シーラは空中から手当り次第に攻撃をする

放たれた黒炎は兵士のひとりにまとわりつくと、ジワジワとその身を焦がしていく

その痛みは想像を絶する


先刻の風でミンチとなった兵士たち

次はジュワジュワと心地よい音を立てながら焼けていく脂の乗った兵士たち


100を超えるほどいた兵士の数は極端にまで減っていた

今では片手で数えられるほどだ


兵士はもはやこの悪夢に動くことすらままならない

腰が抜け、倒れ込み、その場で蹲って待っていた

悪夢が覚めるのを


だが、これは夢では無い

覚める手段はなく、この悪夢から抜け出すには“死”以外の方法はないだろう


「もういいのです…両親もいなくなった今では、この村になんの後腐れもないのです」


そして話を続けながらシーラは兵士たちに近づいていく

言葉のまま、死の足音がテンポを刻みながら近づいているのだ


「…いい着火剤でした…両親が死んでいなければ、私はきっとあなた達を皆殺しにすることはなかったのです…」

冷徹な眼差しを兵士に向け言い放った一言

言い得て妙だが、本当のことなのだろう


シーラは神官を撃ち抜いた<ルーメン・ピアス>を一人一人に向け放っていく

無慈悲に、ただの機械のような動きで、精密に一人一人の心臓を撃ち抜いた


全てが終わったあと、シーラによって起きた悲鳴や轟音に気づいた村民が農具を手にやって来た


シーラは来ないで欲しいとそう願っていたのにも関わらず

なぜなら、無駄な殺生が増えるから。


ターニャからもたらされた呪いの力。

村民の死が目に見えてわかる


「来てしまったのです…見られたら私のこれからの生活が…もう殺すしかないのですよ」


その時のシーラには正常な判断力が無かった

相談していれば、まだ踏みとどまれたかもしれない


シーラの言葉に怖気、何も言えずにいる村民

その時、急にシーラの姿が夜の闇の中に消えていく


「待てっ!」

村民の一人が前に出た

その村民は急にその場に倒れた

シーラが魔法で頭を撃ち抜いていた


村民たちは混乱してひとまとまりとなる

シーラにとっては好都合だ


魔法によって自身の姿を隠遁したシーラは、再び上空に浮かび上がる

大地を削り、一軒家ほどの岩を作り上げるとそれに炎を付ける


炎を纏った巨岩は空中へと放たれた

村民たちではなく―だ


そしてその巨岩が最高到達点へとついた頃

シーラは「バン」と呟き、拳をにぎりしめる


すると、巨岩は空中で爆散した

あの巨岩が落ちてこないのであれば…と安堵したのも束の間

バラバラになった火のついた岩が村中に落ちていく


この村には木造の建造物ばかり

みるみるうちに村は火の海となった


男手ばかり出たことで、家には女子供しかいない

運良く岩の直撃を免れたとしても、迫る炎に命を絡め取られるのは容易に想像が着く


人々は後悔した

こんな出過ぎた真似をしなければ、こんなことには…と


その村は炎によって焼かれ、人のいた痕跡は跡形もなく消え去った

残ったのは人だった肉塊の燃え屑のみ


全てが終わったことを確かめるとシーラは村を出て、王都へと向かった


王都に着いたシーラは職を探し彷徨う

自身の力を行かせる収集者の存在を知り、シーラは収集者となった


そしてエレナと出会う


「…とまぁ…わたしはこんな人間なのです…私を仲間と呼ぶのはおすすめできないのですよ」


「いや…それはさすがに…」


まただ。この世の闇を知らない人間は、こんな話を聞けばすぐに離れていく


だが、エレナは違った


「それはちょっと酷い話だね…教会も教会だよ!!別に人助けに使ったんだからいいじゃんか!もうこっちまでイライラしてきたよ!」


「え…いや、そんなことより…怖くないのです?」


「ええ…!?そんなことよりもイライラの方が勝ってるよ!!シーラちゃんは頑張ったんだね本当に…」


その言葉の意味がよく分からなかった

彼女は自分のことをただの虐殺者だと思っている

実際そうでもある


「しかもすごく強い…!うん…やっぱり…私の仲間になってよ!まだ私含めて三人しかいないんだけどね…仲間がいた方がきっと楽しいよ!」


「…でも、やっぱりこんな私が…!」


「くどいよシーラ!そんな過去ひっくるめて、全部私も背負ったげるっていってんの!!わかったか!!」


「…そうですか」

まだ、こんな私に手を差し伸べてくれる人がいたのですか…


一方エレナは焦っていた


あれ―これちょっと踏み込みすぎた!?ダメだったかもぉ…私って少しウケ悪いんだよなぁ…なんでだろ?シーラとは仲良くなりたいっておもえたのに…


辛い過去を持ってる人間の方が仲間を想う心が強いから―


エレナはシーラに謝ろうとする

「シーラ…踏み込みすぎちゃってごめ…!」

そこに割ってシーラは入った

「いいのですよ…仲間になるのです…これから、よろしくお願いするのですよ!」


こうしてシーラは仲間となった―




「って話があったんだよ!きっと今の時間から考えて、シーラは今悪夢を見てると思うの…私の言ったことが!」


「うむ…シーラの繊細さにこんな理由があったなんてな…」


「まあ…ちょっと同情しちまうな…天才に生まれた故の悩み…ちょっと妬けるけどよぉ」


セラフはその話を聞き、思ったことがあった


これ以上シーラに悪夢を見せてしまったら、目覚めたあとも廃人になってしまうのでは―?と


これは正しい判断だ

シーラの過去は重い

そしてまた重い記憶を思い出させられる


辛いことこの上ないだろう

セラフはずっと考える

心の内に介入する方法を

そうすれば、直接的な手助けが可能だからだ




だが、そんな時、シーラは丁度悪夢が始まったところだった

シーラの周りには誰もいない


先程まで談笑していたにもかかわらずパタリと三人の姿は消えた



「みんな…どこにいったのですか…」


シーラはターニャのことを思い出していた

あの事件以来、一人になるとターニャの顔が頭に浮かぶ

そこからあの大虐殺―辛い記憶に蝕まれ、眠ることもままならない




シーラの今の心の支えはエレナとマーレとサクラの3人


だが追加メンバーのセラフはシーラの夢に存在しなかった

特に思い入れも何も無い関係だからだ


だからこそ、セラフが助けることに意味がある




その時、現実の世界のセラフは女神の声を聞いた

この土壇場でやっと聞こえたその声は曖昧なものだった


『シーラの頭に手を置きなさい。そうすれば、貴方の心に呼応し、シーラを助け出せるでしょう』


セラフはその声を聞くと、突然立ち上がりシーラの頭に手を置く


「セラフ!何してんの!」


「そんな事では目は覚めないだろう…」


「もっとちゃんとした策を作ってだなぁ…」


三人が三人、当然の疑問を呈した


セラフは黙って見てろと言わんばかりに、そのままシーラの頭に手を置き続ける


先程の心に呼応して―その言葉についてセラフは考えていた

今までも癒えろと念じることで傷を治してきた


それを汲み取るのならば


「今から僕はシーラの心の中に介入して、シーラを助け出してくる。きっと僕も少しの間眠ってしまうと思うが、任せた」


意味がわからず混乱する三人を他所に、セラフは心に強く念じ続けた


(僕はシーラを助けたい…まだ知らない事ばかりの彼女だか…最年少で、一番重い過去を持った彼女の心はこれじゃあ壊れてしまう!シーラの元へ行かせてくれ…!)


そしてセラフの意識は微睡みの中へと立ち戻って行った

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