#1 祠の子と最初の命令
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――ポタポタと水滴が落ちる音が響いている
湿気の多い洞窟の中で。
ぬかるむ地面と接吻を交わす少年が1人
光沢のある艶やかな生地で出来た黒装束と、頭に仮面のようなものを付けた少年が地べたでピクリとも動かずいた
水滴がまた
ポツリ、と落ちる
刹那、
少年の背中から大きな両翼が生え、その雫を弾く
かと思えば、瞬く間に翼は消える
数秒の沈黙の後にまた少年が動く
指をぴくぴくと動かし、地べたから立ち上がろうと
風が吹けばかき消されるほどのか細い声で言う
「ここは…どこ?」
その声からは不安の色が透けて見えるようだ
少年はのそりと立ち上がると仮面を外して辺りを見回した
仮面の下には女神と見紛う程の美しい顔が現れた
白髪に碧眼を持つ彼の顔は見ていると吸い込まれてしまいそうな不思議な“魔力”を感じさせる
上からは陽光が射しこみ、辺りは苔むしている
少しでも油断すれば足を滑らせてしまうというほどの
狭い狭い洞窟だった
洞窟の1番奥には長年整備されていないことがひと目でわかる祠があった
少年は興味本位でその祠へと近づいた
近づくと何かが書かれているのがわかる
祠には歪んだ文字で
『厄災を討ち滅ぼし者、ここに祀られり』
その横には純白の羽が保管されていた
そこにもまた文字が彫られている
『セラフ』と
「なんで僕はこの文字が読めるんだ?こんなの知らないはずなのに…」
少年は疑問に駆られる
見ず知らずの『はず』であるこの文字をなぜ読めるのか
目覚めたばかりの彼の頭の中は微睡みの中のようにまたもや混濁していた
少年は再度考えた
自分が何者でなぜこんな所にいるのか
だが、考えても考えてもその真相は闇の中であった
彼は記憶喪失なのかはたまた別のなにかなのか
この時点では何も分からない
「とりあえず、ここから出ないといけない…」
そう思い少年は辺りをまた見回すが、出口のようなものは何処にもない
唯一外が見えるとのがあるとすればはるか頭上にある『穴』しかない
普通であれば諦める
人は空を飛べなければ、洞窟を素手で削ることもできない
だが、少年は一抹の希望に掛けて穴を見上げた
何故かは分からないが自信があった
「僕なら多分ここから出れるはず…」
根拠のない自信
相当に精神が参ってしまったものなら、もしかしたらこうなってしまうのかもしれない
だが少年は違った
少年は穴の真下へとくると太陽の眩しさに嫌気をさしながらも足へ力を入れた
そうして一気に上へと飛び上がる
バンッ!と大きな音を立て少年は外へ出た
文字通りの地面を抉るほどの脚力
常人には到底出来ぬ芸当を少年は成し遂げた
「で、でれた…」
少年はすぐ立ち上がり、周りを見回す
辺りには鬱蒼としげる大森林
おそらく山だろうか?
近くに人の気配もなければ、動物の気配もない
植物が音を吸ってしまっているかのように静かな森だ
だが、少年の頭の中に大きな声が響く
『北へ行きなさい』
落ち着いた女性の声
「なんだ…?誰だ!」
少年は困惑し、問返すがもう遅い
返事はなかった
だが、少年の直感はそれを信じることとした
動かなければ何も始まらないからだ
少年は北へと歩き出した
…歩き出して数刻たったくらいだろうか
嫌に木々がざわめいてきた
何処かに危険が迫ってきているような怪しい雰囲気を感じさせた
その時、すぐ近くから大きな悲鳴が聞こえた
「なんだ!?どこから…」
この森は広い、音の響かない深い深い森の奥
人ではない何かが跋扈するような世界だ
音の出処は分からずじまいであった
「どうすれば…」
何故か分からないが、悲鳴が聞こえたら助けねばという性格?本能から少年は焦りを見せる
そうするとまた声が聞こえた
『右の茂みを突き抜けた先に声の主がいる』
何者の声なのかもわからず、信じていいのかも分からないこの声
不信感を持ちつつも、今信じれるものはこれしかないと少年は駆け出した
まただ
少年は地を割りながら茂みの中を突き進む
次へ次へと現れる木々を払い除けながら凄まじいスピードで突き抜けた
光が見える
目の前の光へ少年は飛び込んだ
そこに見えたのは自分の三…四倍以上の巨躯を持った化け物
そして、それに今まさに殺されようとする少女
手には小さな剣を持ってはいるが、勝てる見込みは零に近い
森をぬけてすぐの絶望に、少年の心も同様に絶望した
「逃げて!」
少年は叫び声をあげるが、その化け物は手に持った棍棒を大きく振り下ろした
「きゃあああああ!!」
少女の悲鳴が耳を刺す
『ダメだ!』心の中で少年は叫ぶが、もう一瞬の猶予もない
少女の頭が押しつぶされるという刹那
時が止まったかのように化け物の動きが鈍くなった
そして、少年の顔には洞窟に置き去りにしたはずの仮面が現れた
『さあ、その剣で目の前の敵を薙ぎ払うのです』
そう頭に声が響く
手には少年の体躯には似合わない黒い大剣が握られていた
いつから握っていたのか、どこから現れたのかは関係ない
少年は何も考えずに駆け出す
止まった時の中で少女と化け物の間に立ち塞がる
「うぉぉおおおおお!」
剛腕。大剣を力強く、ただただ力任せに振り抜く
まるで光が貫いたかのような横薙ぎ一閃
化け物の体を上下に斬り裂いた
ドスン、と音を立て化け物の体は地に落ちた
少年の剣は役目を終えたかのように光の粒子となって消えてしまった
「え…えっ?」
少女は困惑している
目の前にはとてつもない速さで棍棒が振り下ろされていたというのに、今は全身を黒で統一した何者かがいる
「大丈夫ですか?怪我は?」
そう言いながら少年は少女に駆け寄る
腰が抜けてしまっているようだ
「…特に大きな怪我は無いです…あなたは?」
少女は戸惑いながらも今の状況を理解した
この人に助けられた
死の淵から救い出してくれた恩人だというのは理解できる
質問に対し少年は返そうとするが
「僕は…」
少年は自分が何者なのか、何も知らない身分
どう返すべきか考えていた
少女は少年にまずお礼をと、力を振り絞って
どうにか立ち上がるが
「痛たッ…!」
足から崩れ落ちてしまった
「大丈夫ですか!?やはり怪我をしていたのですか?」
少年はまた優しく駆け寄る
「いえ…逃げていた時に足をくじいてしまっていたようです」
足をくじいた…そう言うものの少女の足は大きく腫れていた
命のかかった場面であれば、足をくじいたごときで足を止めることは無い
きっと骨が折れてしまっているのだと少年は分かった
「…そうですか…」
どうしたものかと考えるが、何も思いつかない
ましてや、自身のことすら分からない者が人の怪我について何か出来るはずもない
そんな時また声が聞こえる
『セラフ。彼女の足に手をかざしなさい。そしてあなたは[癒えろ]と、それだけ言えば彼女の怪我は治ります』
少年は困惑した
自分にそんな力があるのか、と
だが、同時に思った
先程もこの声に従ったことでこの少女を助けることが出来た
少年は従うことにした
「少し、怪我の箇所に触れてもいいですか?」
少女は呆気にとられたように返事をする
「うあ!はい!」
「では、失礼します」
足首に手を当てる
大きく腫れ、血管がドクドクと鳴っている
少年は深呼吸してから口を開いた
「癒えろ…!」
治れ治れと強く念じた
そうすると少年の手から眩い光が溢れ出す
光に包まれた数瞬
ふたりが目を開けると少女の腫れていた足は元の姿を取り戻していた
腫れも収まり、青くなっていた肌は今では綺麗な肌色をしている
「え!どうして!?なんで!?」
少女はまた困惑する
少年もそれは同じだった
だが、治ったことに対する安心感が強く、少年はそっと肩を撫で下ろした
「今のはもしかして治癒魔法ですか?もしかしてあなたは神官様!?いやでもさっきは剣を…」
少女は一人で盛り上がっているようだ
興奮冷めやらぬ様子で少女は続けた
「あ!この度は危ないところを助けていただいてありがとうございます!私はエレナ!あなたの名前を教えて貰えませんか!!」
キラキラとした目でこちらを見つめてくる
だが、少年は自分の名前など知る由もない
どうしたものかと思っていると、ふと思い出す
(…さっき頭の中の声が僕のことをセラフと呼んだような…)
「すみませんが、僕も自分の名前はよく分からないのです…」
「そんな…!教えてくださらないのですか?」
エレナは少し悲しげに俯いてしまった
仕方ないので少年は『セラフ』という名前を伝えてみることにした
「…僕も確証は無いのですが、おそらく僕の名前はセラフ…のはずです」
そしてエレナの案内で王都へと向かうことになった
ここはある王国の首都近辺の森らしく、戦闘の訓練も兼ねてモンスター退治にきたが、オークと遭遇してしまい、命の危機だったところをセラフが助けた、ということらしい
エレナは意外にも気さくな人間らしく、オークの危険が去るとよく話すようになった
そこでセラフは情報収集も兼ねてエレナに自分のことを伝えた
エレナは不思議そうに首を傾げた
「この森は騎士達の訓練場として使われることもあるのに…おかしいなぁ」
続けてエレナは言った
「でも!外見とかを行方不明者情報と照らし合わせて見つけることとか…ならできるかも!」
エレナは意外にも頭が回るようだ
セラフはそれならと仮面を脱いだ
驚くことにこの仮面も剣と同様、脱いでしまえばたちまち光の粒子となって消えていった
「うわぁ………綺麗な顔…ていうか私と同じ年頃…?なのかな!」
言われるまで気づかなかったが、見た目だけで見るならばセラフとエレナは丁度同い年、15歳から18歳の合間程度の外見をしている
「王都って言ってもそこまで大きい訳じゃないから、同じ年頃なら面識があるはずなのに…」
エレナはセラフのような顔をした知人は誰1人としていないと答えた
白髪ですら珍しいものだと言うのに、碧眼と来れば無理もない
「そうか…僕の素性は分からずじまいか…」
セラフはエレナに心配をかけさせまいとほのかに笑ってみせる
だが、エレナはまだ何かを知っているようだった
そういえば、とエレナが言ったところで丁度森をぬけた
「あっ!ここだよここ!ここが王都!」
そういうとエレナは無邪気に駆け出した
オークに襲われていたところ、命からがら助かったのだから無理もない
また親や仲間と会えると思えば尚更だ
「セラフ!ようこそ王都へ!」
へへっ、と歯を見せながらニコッと笑うエレナにセラフの心も助けられる
王都へ着くとエレナは着いてきてと言ってある場所へと向かった
【収集者協会】
通称ギルド協会
後から聞いた話では、この世界には『ダンジョン』と呼ばれる迷宮があるらしい
この世界中に存在するもので、様々な者たちが探し、挑んだ
だが、それでもこの世の3割程度しかダンジョンというのは見つかっていないとされる
「エレナさん。なんで収集者という人達はダンジョンへ挑むんですか?命の危険だってあるのに…」
「もう!私がセラフって呼んでるんだから敬語はいいのにさ!ていうか辞めて!命の恩人に敬語使わせてるなんて図太すぎるじゃん!」
「ああ、ごめんなさい…いや、ごめん。それでなんでダンジョンに挑むんだ?」
「それはね〜…」
そしてエレナは話し始めた
ダンジョンの最下層にはダンジョンボスと呼ばれる強い魔物がおり、その魔物を倒すことでダンジョンの宝物庫の扉が開かれる
宝物庫には金銀財宝
そして、特別な力を持つ魔法の道具、アーティファクトや集めることでこの世の真理を知る権利を得ると言われる神の断片というものがあるらしい
収集者たちはそれを求め命を賭けてまでもダンジョンに挑むのだとか…
「ってわけ!どう?すごいでしょ!」
エレナは自信満々に言う
セラフは聞いた
「だが、それなら個人個人でやればいいものを…なぜ協会で管理されているんだ?」
「それはひとりが危険すぎるからだよ!最低でも5人以上のパーティじゃないとダンジョンには行けないの!」
「そういう事か…」
「ささっ!とりあえず協会に入ろうよ!恩返しってことでご飯でも奢らせて欲しいな!」
エレナはそういうとセラフを押しながら協会の扉を開けた
中は収集者らしき者が多くおり、皆で酒を酌み交わしていた
内装は豪華なもので天井にはシャンデリアが吊るされている
セラフが感心していると1人の大男が近づいてくる
「エレナ!無事だったのか!!」
そういうと大男はエレナを抱きしめた
「マスター!言ったじゃん!ちゃんと帰るからって!」
「そうは言ってもお前はまだ子供だろう?弱いやつならいいが…本物のモンスターにでもあったら食い殺されちまうぞ」
マスターと呼ばれた男はため息をつく
「まあ、エレナが帰ってきてくれて、俺は嬉しいよ」
見た目に反し、優しい男なんだとセラフは失礼ながら思った
マスターはセラフに目を向けると、エレナに問いかける
「そういえばこいつは誰なんだ?知らない顔だが?」
マスターは敵意を持った目でこちらをみつめる
その圧にセラフは少しだが怖気付く
「この人は私の命の恩人だよ!!もうほんとにすごいの!おっきな剣でシュババババって!!」
「…命の恩人…てことはお前、さては危険な目にあったんだな?」
「ああ…それはね…へへ!」
「そんな笑いで誤魔化せるかバカモンが!!」
マスターはそういうとエレナのコメカミを掴み、グリグリと拳を押し当てる
「ごめんマスター…だからコメカミグリグリはやめて!痛いから…い・た・い・か・らーーー!!!」
そうしてエレナとマスターの再会は終わったが、次に待っていたのはセラフについての話だった
エレナの奢りということでマスターとともにセラフは食事の席へ着く
「それで…エレナ。どんな目にあってこいつに助けてもらうことになったか…教えてくれるよな?」
声を小刻みに震わせながらエレナは答えた
この2人の上下関係は大変分かりやすかった
「分かってるよ〜…」
そういうと事細かに説明が始まった
今日あった出来事
オークとの遭遇
セラフによって助けられたこと、全てを
そうするとマスターは頭を下げた
「すまなかった!セラフ…だったな。今回は収集者協会の人間を助けてくれたこと…この協会王都支部のマスターとして礼を言う…!」
マスターはこの協会王都支部のマスター、いうなれば支店長のようなものだという
昔は収集者だったが、年齢的にも引退したらしい
「それにしても、オークを一刀両断…危険度Bの魔物は基本的にはAランクの資格を持った収集者の管轄だ…それを一刀両断とは何者なんだ?」
マスターがいうにはモンスターと人間の等級には差があるらしい
危険度CだとしてもCランクの収集者が3人いなければ苦戦するような相手だそうで、危険度Bともなれば、Aランクが出張る事態だそうだ
「それにセラフは治癒魔法も使えるんだよ!神官でもないのに!」
「神官でもないのに治癒魔法を?それはおかしな話だ」
治癒魔法は神官になる際に受ける儀式によって神からさずけられる恩恵のようなもので常人では何年修行しても使うことの出来ない特異な魔法なのだ
「僕は自分がどこで生まれて何者なのか…なぜこんな力があるのかも分からないんです」
「…行方不明者情報にもお前のようなやつは見たことがない…すまないが、お前のことはうちでもわかりそうにはねえな」
そういえばと言わんばかりにエレナが目を見開いてセラフをじっと見つめる
「そういえばセラフはどこのギルドにも入ってないんだよね!!それならうちのところに来てよ!!」
「ギルド?」
「ああ、ギルドっていうのはチームのことだな。まあ基本的には大きなチーム団体のことをギルドとよぶ。こいつは一応チーム長でな?ダンジョンに行くために人を集めてんだ」
「なるほど…でも僕にダンジョンの知識は無いし、力になれるか分からない…」
「セラフはそれだけ強いんだから平気だよ!文字通り!百人力だよ!」
「セラフ…これは私情も入るが、エレナのギルドに入ってやってくれねえか?お前も損はしないと思うぜ」
「…だが、特段宝にも興味は無いし、僕は自分のことを知れればそれで十分なんです」
「神の断片。そいつを集めりゃこの世の真理を知ることが出来る。つまり、お前の真相にも近づけるわけだが…これでもか?」
「!!」
「神の断片を有するダンジョンは全部で10個。このダンジョンはその脅威的な難易度から協会でも厳正な審査の上に許可を下ろす場所だ。勧めるわけには行かないが、お前をエレナのとこに入れるにはこれが手っ取り早いだろ?」
「そうだよ!一緒に行こうよセラフ!誰もクリアしてないダンジョンをクリアするなんてすごい事なんだよ!」
「そうか…僕の真相がわかる…それなら…!!」
セラフは立ち上がり、高らかに宣言した
「僕は、収集者になる」
駄作をここまで見て下さりありがとうございます
良ければ批評の方もしてください
改善点や、ここがダメ等の指摘、お待ちしております




