83 少しずつ
「…そう…ですよ、楽しかったし、生きてていいって思えたあの頃の私を、一瞬でどん底に叩き落とすくらいには、ね」
光のない目で、あるまは語った。
「それだけ、あの頃私は満たされてたってことなんです」
「…そう…簡単に払拭できるものではないよな…」
俺の場合は、あるまが近くにいてくれて、一歩前に進むきっかけをくれた。でもそうじゃなかったら?、悲しみに暮れて、いつまでも自分の殻に閉じこもることになるだろう。
こういう状況になると大概自分から行動を起こせない。相手から来てくれることくぉ待つしかない。待ってるだけじゃ何も始まらない?、それはそうなんだよ、でもそれを上手い具合に出来るなら、そこまで落ち込むこともないって話なわけで…。
「…どうすれば…前に進めるんでしょうね」
「無理に自分を変える必要は…ないんじゃないか?」
「…え…?」
雨笠は俺と似た人間だ。そして失恋した頃の深い悲しみに暮れた当時の俺と深く重なるところがある…ならば、
「どうにか自分の立ち振る舞いを変えて、周りから注目してもらえばって最初は思ってた、でもそれじゃ多分ダメ。俺の経験でも話になるけど…どうしても空回りする、うまくいかなくなる時がある、だから内面は無理に変えようとせず、自然体で居てみて、その方が、きっと寄ってくる人もいるはず」
「でも…」
「大丈夫」
「「俺(私)たちを信じて!」」
最後、あるまと言葉が被った。というか内面を無理に変えようとしなくても大丈夫なんじゃないか?、とも思ったのだ。先日のイメチェン計画で、雨笠の容姿はとても可愛い子になった。化粧品類の効果で、肌も一段と綺麗になってるような気がする。
「あ、でも自分を否定しすぎるところだけは直した方がいいかも」
「あ、いや、その、どうしても自分なんかて思っちゃうところが…」
「じゃあ私が雫ちゃんのこと、毎日可愛い!、天使!、って言ってあげる!」
「えぇ!?、いや、その、それは恥ずかしいから…」
「雫ちゃんは世界で一番可愛い美人さん!」
「え、えへへ、そ、そうかな」
照れてる表情はとても可愛いんだよね、この顔見たら落ちる男子なんかそこらじゅうに居るだろうに、これまでに受けた傷も、自分を下げてしまうその価値観も、無理に変えようとせず、少しずつ、少しずつ、これからの人との関わりで自信をつけていってほしい、そう思う藍星みりなのだった。
〜〜〜
「って感じになったから、手伝ってくれた手前一応報告をと」
『とりあえず、一見落着、と言ったところかしら?』
あの後、家に帰って月乃みちるに報告をしていた。
「というか、変わろうと決意したからとはいえ、ガラッと印象変えるのすごい大変だったんじゃない?」
『うーん、そこまででもないよ?』
「じゃあなんであの時は助けを求めてきたんだろうね」
『いやぁ…本音を話せる人がいるのといないのとじゃ全然違うよ〜』
ほんと、第二の自分を作って、長い期間それを演じ切るって、並大抵のことじゃないと思うんだよね、少なくとも俺には出来ない。こう言うのも人によって適正が違うんだろうね。
『あの子、まだまだ自分を卑下しちゃうところがあるみたいだけど、とっても可愛くなってたし、周りから認めてもらえると、ちょっとずつ印象も変わってくると思うよ〜』
「だといいんだけどね」
『これからも動向は見させてもらうわね〜、…っていうかもうすぐバレンタインデーじゃないの』
「!?、あ、もうそんな時期?、最近ドタバタしてたから忘れてたわ!」
『彼女持ちの人がそれでいいわけ?、きっとあるまちゃんは色々考えてると思うけど』
「そうか?、そんな素ぶり見せてないけど」
『…その素ぶりを見せるわけないでしょ?、当日でもサプライズなのに、ていうかこれ言わなかった方が良かったかしら』
「いや、ありがたいよ、バレンタイン当日になって知らなかったって言ったら、どんな目に遭うかわかったもんじゃないし」
カレンダーを見ると、2月9日…バレンタインデーっていつだったっけ?、調べたら2月14日だった、もう一週間もない。
『まぁ…頑張りなさいよ、義理チョコはもちろん渡すから』
「ありがと」
〜〜〜
さぁ時は2月14日。世の男子達にとっての決戦の舞台でもあるわけだ。
学校でのチョコ交換はやるなと事前に釘が刺されているが、それを律儀に守る人が一体どれだけいるんだか…




