星貝のスープ
夜中に腹が減ったと起こされたラタトスクは、明日食べようと砂を吐かせていた星貝を全部一気に、鍋に放り込んだ。
じゃらじゃらと鍋の底が貝で埋まる。
「味付けはブイヨンと星貝の干物をいれて。こら、貝の口も空いてないのに、つまみ食いしようとするな!」
鍋に伸びてきたグラトニーの手をぴしゃりと叩き落とす。
「煮えるまで、待てよ」
「ヴ」
鍋を見ながらうなずくグラトニーを見て、スープだけじゃ満足しないと思ったラタトスクは、食糧棚からパンを取り出した。
丸い十字模様のパンを、ざくざくと切り分ける。
ついでにバターとチーズもだしてやる。
このくらいしないとグラトニーの腹はおさまらない。
くつくつ、と。
スープが煮えた。
ラタトスクは、深皿に星貝のスープをよそった。
貝はすべて綺麗に開いている。
星貝の名の通り、貝の殻の内側は星空のように綺麗な模様をしていた。
紺の下地にキラキラと星が散っている。
そこに、バジルの緑をパラパラと振りかけてスープは完成。
グラトニーに鍋とさっき切ったパン等をテーブルまで運ばせる。
深皿ふたつをラタトスクがテーブルに置くと、グラトニーはもういい?と、首を傾げた。
「いいよ。いただきます」
「ヴン!」
ラタトスクの許しがでると、グラトニーはものすごい勢いで食べ始めた。
星貝のスープは星貝の身を殻ごと食べて噛み砕き、スープで飲み下す。
パンにバターを塗ってから、分厚いチーズをのせてかじりついた。
ラタトスクは、グラトニーの食事は放っておいた。
パンをスープにつけてかじる。
貝の出汁が滲み出ていて、我ながらおいしかった。
グラトニーに食い尽くされるまえに、別のパンに薄いチーズをのせて食べる。
「うまい」
「ヴ」
グラトニーは鍋の中身を掃討しにかかっていた。
深皿が空になって、注がれて、空になってを繰り返す。
「紅茶、薄いのだけど飲む?」
「ヴ」
うなずくグラトニー。
ラタトスクは夜食後の紅茶を入れるため、お湯を沸かし始めた。
ふわあ、とひとつ欠伸をして、ラタトスクは満腹になったお腹をさすった。