お茶くみ
日頃、ルリアを悩ませていることが今日もおきた。
「ルリア君、お茶」
「はい!」
「あ、こっちも頼むよ」
「私も」
「はい!」
矢継ぎ早に催促されるお茶、お茶、お茶。
後輩職員は知らん顔で、手伝ってくれたことはない。
今は、研修中の職員──スロウス達の指導中なのに。
「ごめんなさい。ちょっと待っててね!」
スロウス達に謝りをいれて素早く給湯室に移動する。
お湯を沸くまでの間にも、お茶のコールが増えていく。
「自分でいれてもらえば良いのではないですか?」
数日前のラースの問いが頭に蘇る。
それができれば、苦労しないんだろうけど。
ルリアには言い出す勇気がなかった。
「弱虫」
ルリアがそう呟くと、
「弱虫は怪物の指導などしてくれません」
いつの間にか背後に立っていたラースが言った。
「でも」
「代わりに私が皆さんにお願いします」
「え?」
ラースはそう言うと、沸いたばかりのお湯が入ったやかんに、茶葉を雑に放り込んで持っていってしまった。
そして、それをお茶の催促をしつこく続ける年配の職員の机にドンッと音をたてて置いた。
「お茶が入りました。あとこれからはお茶は私や兄弟達が淹れますので欲しい方はご遠慮なくどうぞ」
年配職員は何か言おうと、ラースを見て、すぐに明後日の方を向いた。
「ありがとう。頂きます」
やや震えた声でそう言うのが聞こえた。
その日から、ルリアにお茶くみを頼む職員は誰ひとりいなくなった。




