平和な日常
俺たちは、『壊す』為に作られた。
だから、普通に生きていくことを考慮してこの身体を作られてはいなかった。
まったく役に立たない。
生きるのに不便な身体。
日常から外れた生き物。
だから、そんな俺たちが普通に生きられるこの場所は、夢のような奇跡のようなそんな尊い居場所だった。
「おはようございます」
小声で恐々と挨拶をするのは、俺たちの先輩。
小柄で弱気で、周りから仕事を押し付けられて困ってばかりのどーしよーもない先輩。
だが、このギルドの中で一番最初に信頼してくれたヒトだ。
今日も一日、この弱っちい先輩に指導されて、俺たちはこの都の為の仕事をする。
文字を書いて、読んで。
言葉を聞いて、話して。
指示を受けて、質問をして。
この先輩は細かいところまでしっかり答えてくれるから、ありがたい。適当になんざ言われても、適当って加減が俺たちには難しいんだ。
だてに、怪物じゃないからな。俺たち。
先輩はそそくさと俺たちの事務机の間をぬけて、自分の机に座った。
まだまだ、怖がられてるなあ。
声には出さずに兄弟同士、目を合わせた。
仕方ないと肩をすくめる兄貴と黙って仕事を続ける兄貴、そして、尻尾を振りながら話しかけるタイミングを図っている馬鹿な兄貴がひとり。
今日も平和なこった。
嫉妬の名前の兄弟は、書類を手に取り内容をあらためた。
石鹸の材料採取の依頼書。
逃げた家畜の探索。
資源基地内の清掃。
ほんとに今日も平和なこった。
判子もらわないとな。
先輩の様子は、よし、落ち着いたとこだな。
声かけても大丈夫だな。
エンヴィは椅子からそっと立ち上がった。




