湯を満たして
湯船一杯にたまった薬湯がざばりと溢れ出す。
足元を流れていく草色のお湯。
薬草の香りが浴場一杯に広がる。
高い湯の元を使ってるだけあって、気持ちが安らぐようなとてもいい香りがする。
「しっかり肩まで浸かっておくれよ」
「男湯の中に入ってくんなよ」
「あんたみたいな子供にも連れにも興味はないから気にするんじゃないよ」
男湯を覗いてきた湯屋の女店主は平然と言った。グラトニー(この湯屋の上客)は気にした様子もない。
「今日もたんまり稼がせてもらうからね。湯はじゃんじゃん使いなさい」
にこりと笑う店主はとても顔色がよかった。
数カ月前、店を畳むかどうかの瀬戸際にたっていたとは思えない程に。
「本当、神様、仏様、怪物様よ」
店主の手には上物の純硝石。グラトニーの貯金の一部だ。
換金すればかなりの額になる。
貸し切り状態の風呂を堪能しているグラトは頭までしっかりと湯に浸かっていた。
溺れてはいない。
時々、ざぷり、と顔を出して息継ぎをしていた。
少しして、ラタトスクはのぼせる前に、風呂から上がった。
「フルーツ牛乳、冷えてるよ」
「うん」
風呂上がりの楽しみはキンキンに冷やされていた。ちなみに、グラトニーは、コーヒー牛乳派だ。




