新人
「わたし、もう駄目かもしれない」
久しぶりの彼氏との食事だというのに、出てくる言葉は職場の愚痴ばかりだった。
「ルリア、もう辞めてもいいんじゃないかい?」
「辞めたいけど引き継ぎをする暇もないの」
辞めたい。
わたしは彼と結婚の約束をしている。
その為にも、早く円満に退職したい。
──なのに他の職員達から新しい職員の指導を押し付けられてまった。
しかも男性ばかり。
ギルド長に抗議したが、まずはひと月様子を見てからと、却下された。
「何かあったらすぐに呼んでほしい」
優しい彼の言葉だけが、心強かった。
「ありがとう。明日、頑張ってみるわ」
不安だったけど、無理やり笑顔を作って言った。
◇◇◇
「はじめまして。私達の指導をしてくださるルリア女史ですね?」
「は、はい」
翌日、見上げるほどの大男たちを後ろに引き連れたスロウスと名乗る男性が挨拶にやってきた。
「こちらの都について、探索者の師から学ばせていただきましたが、ギルド内の規則などについては、存ぜぬことも多いので、どうかご指導のほど、よろしくお願いします」
ラースと名乗る片目の禍ビトの男性が丁寧に頭を下げた。他の男性達──兄弟たちも頭を下げてきたので、私も慌てて「よろしくお願いします」とお辞儀をした。
見た目は怖いけど、礼儀正しい兄弟だと思った。
一瞬、私を先輩ともおもわず嫌な仕事ばかり押し付けてくる後輩の姿が、頭をよぎる。
「どうかした? 僕らが怖いなら怖いって言えばいいよ」
「え、いや、そんな」
「別に気にしねえよ。怖がられることなんざ日常茶飯事だ」
尻尾の生えた男と目つきの悪い男が言った。
ええと、グリードとエンヴィだっけ。
気を遣ってくれるふたりになんだか緊張が解けてきた。
うん。
大丈夫かもしれない。
ひと月だけ、頑張ってみよう。
ルリアはよし、と気合いを入れて、新人たちをギルドの各部署に案内することにした。




