屑鉄と妖精の《準備運動》
「おいつかれるですよー」
「んなもん、すぐ後ろからガッシャガッシャ五月蝿えからわかってんだよ!!」
迎撃機は速度を上げて距離を詰めてきた。
遠くからじゃ避けられるから、接近してから踏み潰すか、機関銃で蜂の巣って、野郎に搭載された電子頭脳(AI)は考えてんだろ。
けどな、こっちはやられる気はさらさらねぇんだよ。
◇◇◇◇◇
目標まであと5m。
『──いくぜ』
『──了解』
返事を聞いて、通信を切る。
さーて、さんざ追い回してくれた礼をしねぇとな。
補助システムを起動する。
『システム正常』
『伝達回路正常』
視覚に映しだされた情報はいつも通り。
数字の向こうには、青い空に白い雲。
◇◇◇
あと3メートル。
「やるぞ、ちび」
「あいっす」
呑気な返事。こいつも慣れたもんだ。
後ろの野郎も機関銃の照準を合わせてきたがまだ発射してこねぇ。
辛抱強い電子頭脳だな。俺ならとっくの昔に全弾ばら撒いちまってるよ。
まったく、どいつもこいつも呆れちまうぜ。
そんな思考を読み取って、システムは顔面の人工筋肉を動かして、口の端を釣り上げた。
◇◆
機体に組み込まれた各種機関が蠕動を始める。
『妖精式熱量変換炉稼働開始』
『光粉生成開始』
『加速装置制御解放』
あと0.3...0.2...0.1。
最後に自分の機体に命令する。
『起動』
動力機関が唸りを上げて、全機関が機体性能を発揮させるべく動作する。
視覚の情報数値が跳ね上がるのが邪魔臭くて表示を消す。血の替わりに燃料油がどくどくと全身を駆け巡って機体を熱する。
「ハッ」
口の端から蒸気がもれる。この瞬間がたまんねぇ。
俺は笑いながら、そう思考した。




