屑鉄と妖精の《追いかけっこ》
荒廃した市街地の一角。
割れたアスファルト製の路地を全力疾走で駆け抜ける。後方からは自律型迎撃機の高速走行音。旧時代の車並みの速さで追尾されていた。
背嚢からの呑気な声がさっきから喧しい。
「くるです、くるです、おっかけてきてるですよー」
「わーてるんだよ、んなこたぁ!!」
(通信起動──接続)
『──おい、座標見失うなよ‼︎』
『──わかってますよ。あ、そこ右です』
『──遅いんだよ、テメェ‼︎』
急制動をかけて停止、行き過ぎた角を曲がる。
ブレーキ音。野郎はしっかりついてきやがる。
真面目なこったな。
「ちび。耳塞いで引っ込んでろ!」
右手の銃を後ろに向けてぶっ放す。
装甲が光り、弾を弾く甲高い音がした。
通信で愚痴をとばす。
『──異界性金属装甲は硬すぎだろ。しかも情報通り魔石炉まで搭載してやがる』
『──めんどくせぇな、そいつぁ』
『──がんばれ。目標地点までちゃんと誘導してくれよ』
『──外したら承知しねえからな』
「うしろの機械さん。なんか、おててあげてるですよー」
「撃ってくるんだよ! 頭ひっこめろ!!」
通信を接続したまま、怒鳴る。
接続先の連中からデカイ声出すなと苦情がとぶが、構ってらんねぇ!!
ちらっと後ろを見た瞬間、迎撃機の機関銃が火を吹いた。
横の建物に肩から突っ込んで壁をぶち破る。
転がり込んで、すぐに起き上がる。
目の前の扉をぶち破った時には、さっきいた室内は弾丸が跳ね回っていた。
あぶねえ。
「ちび、生きてるか!?」
「つぶれるかと思ったですよー。ひどいですよー」
背嚢の中で文句を垂れる元気がありゃ結構。
『──ひどいな〜。ちっとは優しくしてやれよ』
含み笑いしながら通信をよこしやがったあのジジイはあとで殴る。
迎撃機の野郎は建物を破砕しながら追跡を止めていない。
「スクラップにしてやるから、ちゃんとついて来やがれ」
目標地点まであと200m。ラストスパートだ。




