ある夏の日の、燃えるような《暑さ》に耐えて
「あつい」
じりじりと照りつける太陽光。
脳天からこんがりローストされそうな熱量には、『最悪最狂』と呼ばれ恐れられる男も『憤怒』の名を冠する怪物も太刀打ちできなかった。
○○○
「あつい」
我が口は先程から、自然にこの言葉を連呼していた。
白の都の近界に『熔炎海』があるせいで、今年の夏は異常すぎる猛暑に見舞われていた。
身なりには気を遣っている方なのだが、暑さには勝てぬ。とうの前に服も装飾も後ろに放り捨てた。
「あつイ」
横にうなだれている怪物も普段は無口で呟きひとつこぼさぬくせに、いまは、「あつい、あつい」と言葉を垂れ流していた。
外套も服も靴も、脱げるだけ脱いで黒い素肌をさらしている。
長髪が背や胸に張り付いて、うっとおしそうだ。
互いに、水を張った桶に両足を突っ込んでいるが、
氷はすでに溶けて、水は生ぬるい。
──そのうち熱中症でふたりとも倒れるのではなかろうか?
○○○○
天に輝く太陽はまばゆく、光で目玉が焼けそうだ。
汗が滝のように肌をつたい落ちる。
じりじりと焼かれた路地から陽炎がたちのぼる。
岩塩を舐め、水をあおる。
怪物にも渡してやると、岩塩の塊をまるごとかじり、飲み込んだ。
「まったく。戦いの熱は平気なのだが、この自然の暑さばかりはどうにもならぬな」
眉間の皺を深くして怪物が頷いた。
「火龍の吐きだす灼熱の息吹は耐えられるのだがな」
怪物が頷いた。
「焼けた鋼が肌と骨肉まで焼き焦がすのも耐えられる」
怪物はまたうんうんと頷いた。
「至近距離から放たれる爆裂や熱線の乱舞も楽しい事なので耐えらるというのに。あれは楽しいな。スリルがあって良い」
怪物は頷かなかった。
「・・・・・・楽しくはナイ」
「なぜだ? どこが楽しくない?」
私が問いかけると、怪物は化け物をみるような目をして、ずずず、と座る位置をずらした。
ふむ。もう一度、塩を舐めながら考えてみるが、楽しくない理由はわからなかった。




