火精の灯火
暗い室内。
少女は枯れ枝と薪を暖炉に積むと、祈るように両手を組んだ。
「火精霊、五大の元素、火を司るものよ」
紅い光粒が周囲の空間から現れ、少女の手元に集まっていく。
ゆっくりと手を開くと、光は両手の上にくるくると回りながら小さな光の玉になる。
火の元素の塊を暖炉に向けて、そっと押し出す。
元素が触れた、枯れ木に火が灯り、室内を明るく照らし出した。
パチパチと薪がはぜる音。
少女はふうと、息を吐いて集中を解いた。
「上手になったね」
振り返ると、そこにいるのは布頭巾を被ったお客様と黒い女性のお客様。
「今日は元素を集めるのがいつもより楽にできました。たぶん火精霊の機嫌がよろしいのでしょう」
「かもね」
「ルオ様、インビジブル様、今夜はホロホロ鳥のシチューを作りますので、たくさん食べていってくださいね」
ホロホロ鳥はこの辺りの山で獲れる野鳥だ。
肉も内臓もとても美味しくたべることができる。
「手伝うよ」
「ありがとうございます」
少女とインビジブルが台所に消えると、残されたルオは暖炉の火を見つめた。
怯えるように爆ぜた火の粉にむけて、
「何もしないわよ。美味しいシチューを頂くだけ。焦がさないように火加減、気をつけてね」
炎は、うなずくように大きく揺れた。




