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騎士の休日

 疲れている時は栄養のあるものを食べて充分に休むことだ。常日頃、団員にそう勧めてきた。


 今日、騎士団長は久しぶりの休暇を楽しんでいた。

 朝目覚めてすぐに、彼女は暑いシャワーを浴びて、髪をお気に入りの香りの洗髪剤でしっかりと洗った。

 最近手入れが十分にできなくてごわついていた髪は、艶を取り戻していた。


 満足した彼女は私服で外に出る。

 清楚なワンピースに帽子だけ。

 重い金属鎧ではないだけで、身体がこうも軽い。

 買い物カバンを手に市場に向かう。

 今日は美味しいものを食べたい。いまは多少奮発しても財布さいふに余裕がある。

 しばらく休みが取れなかった分、給与は余分に支払われていた。今日はソレを使う。

 都の経済に貢献こうけんするのもまた騎士の務めだ。


 市場で目を引かれたのは、生きたまま棚に置かれた塩海えんかい大蟹おおがにだ。

 たっぷりと身の詰まっていそうな青い外骨格。

 これだと直感した。店主に声を掛ければ、なんと調理までしてくれるという。

 小さな店の二階で待つように言われたので階段をあがる。

 席につき、料理が運ばれるのを待つ間、窓から都の景色を眺めた。


 平和にして平穏なる我等の白き都。

 彼女が全力をとして守るものがそこには日常の姿を見せていた。


 しばらくすると、蟹のはなつ香りと共に大皿が運ばれてきた。

 赤く焼かれた大蟹の甲羅の中にはびっしりと身とミソが詰まっていた。塩のみで味を引き出したその白い身にフォークを指して思い切りかぶりついた。

 甘い汁が口の中に広がり、噛むごとに蟹の身が解けて味を拡げる。

 無我夢中で食べていく。

 トンカチで蟹の爪を割って、姿を見せた白い身にかぶりついた。


 ◇◇◇


「はあ、美味しかった」

 綺麗に殻だけになった蟹を前に、騎士団長は至福の表情を浮かべていた。


「いい食べっぷりでしたね」

「これくらい食べれなくては、都は守れません」

「あなた、騎士様だったんですね」

「ええ。ですが今はただのひとりの女ですよ」

 パチリとウィンクすると店主は魅力的なその笑顔に頬を染めた。


「休暇中ですから」

 そう付け加えて、休暇中の騎士団長は支払いを済ませて自宅へと帰っていった。

 途中で、晩酌用のワインとチーズを購入して。

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