うわばみの杯
黄色い果実を黒い手が握り潰す。
じょばじょばと滝のように果汁がこぼれだす。
「どんな握力してんだよ」
細く萎びた檸檬を見て、肉屋の息子は言った。
グラトニーは、平然と檸檬を絞りにかかる。
市場で箱買いした檸檬はかなりのハイペースで消費されていった。
強い酸味のある果汁は、ジョッキの中でアルコール度数が馬鹿みたいな数値の酒と粗く砕いた氷と混ざり合う。
かき混ぜ棒を回すと、氷が涼やかな音を立てる。
霜がつくほどキンキンに冷えたそれを、グラトニーは出来上がった端から、一息に飲み干していく。
「どんな胃袋してるんだよ」
酒屋の息子が半泣きで、次々と差し出される空の杯に追加の酒を注いだ。
時計の針がふた回りした頃。
「勘弁してくれ。俺が悪かったよ。このままじゃ他の酒まで全部なくなっちまう」
「もう遅えよ。諦めて今日は休業するこった」
肉屋の息子は水割りをちびりと飲みながら、幼馴染に言う。その横には膨れ面でジュースを飲んでいるラタトスクがいた。
「グラト、他の酒も飲んでいいからな。今日だけは許す。どんだけ飲んでも良し」
「ひいい」
酒屋の息子が悲鳴をあげる。幼馴染に助けを求めるが、全力で明後日の方角を向いていた。
その間にもグラトニーは檸檬を絞り、かき混ぜて、酒を飲むという一定の動作を繰り返していた。
そろそろおつまみが欲しかったが、怒っているラタトスクにはなかなかグラトニーでも言い出せなかった。
市場でラタトスクと酒屋の息子が言い合いになり、たまたま居た肉屋の親子が仲裁してくれたのだが、酒屋の息子が酒も飲めない子供とラタトスクを馬鹿にしたのがいけなかった。
ラタトスクは肉屋の息子の案内で今日、酒屋にやってきた。
うわばみ兄弟の末っ子を連れて。
「あ。もうちょっとしたら、コイツのにいちゃん達もくるから、追加よろしく」
「ラタトスク、勘弁してやれ。本気でつぶれちまう、店の方が!」
肉屋の息子と酒屋の息子は、ラタトスクを前に戦慄を覚えた。




