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《回復薬》はなんの味?

「ええか、回復薬が苦くて辛くてエグくて不味いんはなあ・・・・・・」


 売り場の中央で、うちの店主は回復薬片手に熱弁をふるっていた。


「回復薬はそらだいじなもんや、これがあるかないかで生死をわけることだってあるわ」

 透明な器の中で、蛍光緑の液体が揺れる。


「んで、自分らはその生死分け目のターニングアイテムが、やたら不味いから不満やというわけやな?」

 客たちがうなずき、口々にその不味さへの不平不満を述べる。


「じぶんら、なーんにもわかってへんわ」

 がっくりとやたらオーバーに肩を落として、首を振る店主の動きに合わせて、回復薬が容器の中でぱしゃりと跳ねておちた。


「回復薬っもんはそもそもなんや?  はい、そこのおにーさん!」

 ビシリッと指差しされた青年が戸惑いながら答えを述べた。

「ええと、薬です。傷を治す薬」

「そや。さらに詳しく言うなら、自己治癒力を高めて傷の治りを早くする代謝促進と栄養素に抗菌作用を合わせた混合薬やな」


 おおー、と感心した声が客の間から上がった。

 回復薬などマイナーすぎて、深く考えたことがなかったのだろう。


 客のひとりが「質問です」と手を挙げた。

「回復薬って、やっぱり飲んだほうが効果があるんですか?」

「栄養を吸収するには胃に入れなあかんからな」

 店主の答えに「なるほど」とうなずき、客はズボンから取り出した紙切れにメモを取った。


「んで、まあ味の話に戻るんやけどな」

 客は興味津々と店主の話に耳を傾けている。

「薬である以上、多用するのはようない。だから回復薬は不味い。おいしくしてまうと平気でがぶ飲みするやつ、おるからな」


 事実、回復薬の使い過ぎで医療院に担ぎ込まれる事例は年に何度もある。体質的に合わないという場合もある。

 マイナーな道具だからと考えなしに買えばよいものではないということだ。


 初耳だったらしい客の何人かはざわざわとまわりに「本当かよ、おまえ知ってたか」と確認しあっている。


 パン、パン、パン!!

 店主が手を叩き、注目を集める。


「これでわかってもらえたかな?  回復薬が苦くて辛くて不味いんは、店の『愛』!。お客様に対するわいら店員の『愛情』なんやと!!」


 店主は回復薬を天井の照明に向けて高々と捧げ持つ。彩貨1枚で買えるそれをまるで供物か何かのように。

 客の視線が釘付けになる。何人かは感嘆の吐息をもらしている。

 ・・・・・・繰り返すが、彩貨1枚で買えるからな。


「わかってもらえたようで、うれしいわ。これからもご贔屓によろしくお願いやで」

 うんうんと、うなづくと店主は、納得顔の客の間を抜けて俺が立っているカウンターの前にきた。


「じゃ、手筈通り」

 ぼそりと耳打ちして店主は奥に引っ込み、俺はあらかじめ用意していた台詞を述べる。


「お客様、店主のご意向で本日は『回復薬 特別セール』と致しまして、店内の商品を彩貨10枚以上お買い上げの方に回復薬をおひとつサービスさせて頂きます。どうぞごゆっくりお買い物をお楽しみください」


 客たちは目を輝かせて、散っていった。

 俺はなにも言わない。

 回復薬の味の真実は、単に店主の面倒くさがりゆえのことだと知るが絶対に言わない。

 俺は口を固く閉ざして、会計業務を遂行する。

嘘はついてへんよ。ちゃんと『愛』も入っとるで三滴くらい。

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