田中とトカゲの《カフェタイム》
午後の暖かな日差しが差し込む喫茶店のカウンター。
田中は珈琲を注文した。
店長マスターが淹れてくれた珈琲からは芳しい香りが立ちのぼる。
バーガはしきりに珈琲の匂いを嗅いでいた。
「珈琲は初めて?」
「オー、変わったニオイだなー、うまいのか??」
「ちょっと飲む?」
「ん〜〜、イイや。ミルクのほーがいい」
バーガは長い舌でペロペロとミルクをなめはじめた。
田中は気にせず、珈琲を飲んだ。
静かな店内には、ふたりと店長マスターだけ。
普段おしゃべりなバーガもゆっくりと雰囲気を楽しみながら、舌を動かし続けている。
『黒の通り』の昼はこんなものだ。
夜間活動する禍ビトが多いため、店もほとんど開いていない。
今日ここに来たのは、同じ集合住宅の住人が朝寝に入る前に、ここを教えてくれたからだ。
バーガと一緒に来てみたらなんとも居心地が良く、珈琲もたいへん美味しかった。
「夜まで空いていますから、ゆっくりしていってください」
店長は白い歯を見せて、優しく声をかけてくれた。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
田中はおかわりを注文。
「少々、お待ち下さい」と店長が新しいカップを棚から出して、細くて白い指で珈琲を淹れる。
無駄がなく、滑らかな動きだった。
「砂糖と、ミルクはどうしましょう? じつは私、ミルクにはこだわりがありましてね、珈琲にも良く合うんですよ」
「ではミルクを」
「かしこまりました」
□□
「どうぞ」
カフェオレを一口飲むと、ミルクのまろやかさが珈琲をより美味しくしていた。
「おいしいです」
素直に感想を述べると、店長は表情こそ変えなかったが満足げな様子だった。
バーガもミルクをおかわりして、また舐め続けた。
「店長はこの時間、眠くはないんですか?」
「私はとくに。いつもミルクをのんで栄養補給しているおかげで、こんなに元気ですよ」
そう言って、店長は指と同じくらい白い二の腕を見せて、得意げに歯を鳴らした。
なるほど確かにと、田中はうなずいて、そのたくましさを讃えた。
「とても白くて丈夫そうですね」
「そうでしょう。私のような『スケルトン』は骨が命ですからね」
「ですよね」
田中とバーガはその後もしばらく、スケルトンの喫茶店に留まり、ゆっくりと休日を過ごしていった。




