表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/49

《苺ジャム》に愛をこめて

 鋼鉄の姫は鉄筋すら捻じ曲げるその握力で、ちいさな苺を握り潰す。

 愛情を込めて。

 愛する殿方の喜ぶ顔を想うと笑みが溢れて止まらない。

 冷徹冷静な姫も台所では恋する乙女。


 その姿には従者たちも微笑みが絶えない。

 ──ああ、なんと健気な我等が姫君。姫の想いをあの鉄屑が察せるかはさておき。我等にできることは何なりとお命じ下さい!!


 そんな従者達の静かに熱い念を送られながら、姫は苺に砂糖を加えて火にかけた。


 ▶︎▶︎▶︎


「・・・・・・よう」

 玄関の戸を開けたら、ちょうどそこに姫のやつが立ってた。

 ビックリした顔で固まってるもんだから声を掛けたら、今度は真っ赤な顔して口をぱくぱくさせた。


 ん???


 なんだ、聴覚の故障か?

 いや、ほかの音が聞こえてんだからちげえな。

 姫さんの方が故障かなんかか??


「声が出ねえのか?」

 なんかわかんねえから顔を近付けたら、姫さんがギョッと肩をすくませた。

 ・・・・・・怖がってるわけは、ねえわな。

 なんだ、ほんとにどうしたコイツ??


「く」

「く?」

「く、貴様にくれてやる!」

 胸にどんとなんか押し付けられた。

 ──瓶?

 赤いなんかどろっとしたもんが詰まったガラス瓶。


「爆薬?」

「ストロベリージャム」

「聞いたことねえな。そっちの兵器モンか?」

「ち、違う!! ジャムとは、パンに塗ったり、菓子とともに食すものだと先日、貴様とおもむいた地で入手した資料にあった。どんなものか好奇心が湧いたので妾が手ずから作ったのだ!! だ、だがしかしだッ少々分量を誤ってしまい、作りすぎたので貴様に下賜してやらんと、妾自らこうして貴様の部屋に持ってきてやったのだ。感謝せよ!!!」


 早口でまくし立てて、姫さんはゼーハーゼーハーと息を吸って吐いてを繰り返す。酸欠か?


 俺はジャムの瓶を覗き込む。

 ストロベリー・・・・・・苺だっけか。

 俺が前に起動してた時代にはもう栽培することもできず、遺伝子情報だけが保管されてた代物だ。たしか資料じゃ、酸っぱくて甘い果実。

 甘いもんは苦手なんだが、こうして食わしてくれるのは、ありがたい。

 チビも喜びそうだ。


「あんがとよ」


 俺より頭ひとつ分小さい姫さんを見下ろして礼を言う。

「・・・・・・ッ!!!」

 その瞬間、姫さんの顔面がより真っ赤になって目の前から消えた。

 ──!? なん、どこいった!?

 廊下の左右に目を走らせるがいない。

 てことは残るは前方。

 まじか。姫さん今の一瞬で後ろに飛び降りたのか。速すぎて知覚できなかったぞおい。


 姫さんのスペックの高さに呆れながら、俺は玄関の戸を閉めた。


 ▷▷▷▷


 自室に戻った姫は鍵をかけるのも忘れて、そのまま床にぺたりと座り込んだ。

 顔が火照って、目が潤んで、心臓が早鐘を打っている。


 喜ぶ顔が見たかった。だが実際に目にしたらどうだ。

 もう、どうしようもない。

 見上げた男のその笑みで全身が壊れてしまいそうだった。

 だから、つい、思わず!! 

 全力で逃げ出してしまった・・・・・・。


 なんたる失態。

 なんて勿体ないことをしてしまったのだろう。あんな希少なものを見る機会を。あんな短時間で終わらせてしまった。もっと、話をしたり。

 そうだ、あれを口実に彼の部屋にお邪魔することもできたではないか!?


「妾のばか」


 ▷▶︎▷


 そのまましばらくして。

 姫が膝を抱えて床に寝転んでいると、呼び鈴が鳴って従者のひとりが来客を知らせに来るのは、およそ1時間後。ちょうどおやつにいい時間であった。

ブルーベリーは、採集から。

第2級危険区域に自生するものを確認済み。

──後日、採集作戦を決行する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ