闇に潜む刺客
──夜。
再び静まり返った街を、
俺は歩いていた。
宣戦布告の手紙を送ってから、
明らかに街の空気が変わっている。
貴族たちは、
金で雇った"刺客"を放ち、
俺という存在を抹消しようとしている。
──
(来るなら、来い)
そう思いながら、
暗い路地裏へと足を踏み入れた。
──
「──よお、坊ちゃん」
背後から、
低い声が聞こえた。
すぐに振り向く。
そこにいたのは、
黒装束に身を包んだ男。
顔の下半分を布で覆い、
手には短剣を二本、逆手に持っている。
(……なるほど)
分かりやすい刺客だ。
「ちょっと貴族様から頼まれてな。
お前を、この世から消してくれってよ」
男はニヤリと笑った。
「悪く思うなよ。俺も仕事なんでな」
「……別に、構わない」
俺は無表情で答えた。
「お前も"喰らわれる側"に過ぎない」
「チッ、生意気な──!」
男が一気に間合いを詰めてくる。
──
シュバァッ!!
刃が、月光を反射して光った。
速い。
一般兵士とは比べ物にならない。
だが──
(遅い)
俺は、
ほんのわずかに体を傾け、
その刃をすり抜けた。
男の動きが一瞬止まる。
驚愕と、焦り。
(今だ)
【強化骨格・初級】──展開。
拳を握り締め、
全力で叩き込む。
ズガァン!!
男の腹に、
重い音と共に拳がめり込んだ。
「ぐっ……!」
吹き飛ばされ、
壁に叩きつけられる刺客。
だが、まだ立ち上がる。
(……根性はあるな)
次の瞬間、
男は短剣を捨て、
両手を広げた。
魔素が収束する。
(魔法か──!)
雷光が迸った。
【雷撃・初級】
街の路地裏を、
白い閃光が走る。
だが──
「遅い」
俺は、
地を蹴った。
【跳躍強化】、展開。
真上へ。
雷撃が地面を焦がす直前、
俺は男の頭上へと跳び上がっていた。
──
「なっ──!」
男が顔を上げた瞬間。
俺は、
上空から拳を叩き下ろした。
ズドォン!!
地面が裂けるような音。
刺客は、
一言も発することなく、崩れ落ちた。
──
静寂。
夜風だけが、
廃墟と化した路地裏を吹き抜ける。
──
(……これで一匹)
貴族たちは、
本気で俺を消しにきた。
だが、
それがどうした。
何匹だろうが、
何百人だろうが──
すべて、喰らい尽くすだけだ。
──
俺は、
無言のまま、夜の闇へと溶けていった。