楽してテストしたい
「やほー」
昼休み、昼食を食べていたら安良坂が一組の教室に現れた。
俺はお弁当、黒田さんは購買で買ったパンを食べている。
「友達になったのに、会いに来てくれないから来ちゃった」
「女子か。そもそも男子には興味が無いからな。忘れてたし」
「上原くん、酷い…」
「ぷっ、あはは…」
隣の席で黒田さんが笑っていた。
何がそんなにおかしいのだろう。
「そういえば、今度中間テストあるけど上原くんは大丈夫なの?」
黒田さんが訊いてきた。
忘れてた。
三年間学校に行っていなかったから、勉強なんてすっかり忘れてるよ。
「赤点取らないように頑張る…」
「良かったらぼくが勉強教えるよ?」
「教わったら?」
「えー?」
何だか嫌だ。
「まだ一年なんだから、今からやっておいた方が良いと思うのだけど。後で苦労するわよ」
*
土曜日の午後、何故か俺の家で勉強会をする事になった。
「何で俺んち?」
「良いじゃない。家に二人しかいないのでしょう?」
結局、安良坂に勉強を教わることになったのだが、何故か黒田さんも一緒に来ていた。
どうせなら自分も教わりたいと言って付いてきたのだ。
「お勉強ですか。皆さん偉いですね!」
「ありがとうございます」
「いただきますね」
「すまんな」
ゆかりが冷たいお茶をコップに入れて差し出した。
初夏の5月は冷たい飲み物が美味しい。
お茶を飲み干すと、各々リビングのテーブルで教科書とノートを広げる。
「むむ…」
数学の教科書を開く。
記憶がすっぽり抜けてるな。
これ?何だっけ。
「X=?」
俺が頭を抱えていると。
「ほら、少しずつやっていけば思い出していくと思うのよ」
「上原くん、簡単な問題からやっていこう」
俺は元々勉強は得意な方では無いのだが。
数学って苦手なんだよな。
公式って意味わからんし。
将来働くことになったとして、何の役に立つんだ?
高校を卒業したら、次は大学へ入ってどこかの会社で働く。
その為の勉強?らしい。
「異世界は勉強いらなかったのにな」
俺は、教科書とにらめっこしながら呟いた。
「上原くん?」
「聞こえたわよ…それ言ったらお終いだから」
もしかして二人とも、勉強が嫌だったりするのだろうか?
「勉強が楽しいわけないじゃないの」
黒田さんがため息をついていた。
どこぞのアニメの主人公は、カ〇ニングをしていたっけ。
まあ、あれもどうかと思うけど。
そういう便利な魔法ないだろうか。
「今、何か変な事を考えていたんじゃないの?」
「そんな訳ないだろ」
何で分かるんだ?
*
休憩、疲れた。
普段使わない頭を使ったので、へとへとになっていた。
「ところで、上原くんは黒田さんとどんな関係なの?」
「へ?」
トイレに行ったところで、安良坂に訊ねられた。
「友達だけど?」
「ふうん、そうなんだ」
他に何があるって言うんだ。
「彼女がたまにキミを見ていたから、てっきり…いや何でもない」
「やっぱりそうなんだ…」
ゆかりが呟いていた。
彼女は両手にビニール袋を持って廊下に立っていた。
「そろそろ、甘いものが欲しくなるだろうと思って買ってきたよ」
右手には家族用のお得パック。キノコの形のお菓子があった。
「妹さんそれ、好きなのですね。ぼくタケノコが好きです」
「それもありますよ。コーラも買ってきました」
4本のペットボトルのコーラを見せる。
「ゆかり、重たかっただろう。そこまでしなくていいんだぞ?」
「いえいえ、お兄ちゃんの大事なお友達ですから」
*
「安良坂、鑑定魔法使えるって言ってたよな?」
「使えるけども?」
俺たちはお菓子を食べていた。
俺はキノコのお菓子、安良坂はタケノコのお菓子。
黒田さんは何故か俺のを取って食べていた。
人数分あるのだけど。
コーラはあっという間に無くなっていた。
「鑑定ってぶっちゃけ何が見えるんだ?」
「えと、能力とか?」
「テストに使える?」
「何が言いたいのかな?」
「楽にテスト出来ないかなって…」
「呆れた…」
黒田さんに呆れられてしまった。
だって、魔法で楽になるのだったらしたい。
「人物とか品物だったら鑑定は使えると思うけど…問題文に対してって事だよね?一応やってみるけど」
『鑑定』
教科書の文字に対して鑑定魔法を使った。
「何も表示されないね。やっぱり物や人じゃないと発動しないみたい」
安良坂の体が薄く光って見えた。
魔法を使うとあんな感じになるんだな。
「ズルしちゃダメって事よ」
やっぱりダメかぁ。
俺は肩を落とした。
何とか赤点取らないようにしないとな。