表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/65

夜のお誘い

「ただいま」


「お帰りなさい」


 学校から帰ってきて家のドアを開けると、義妹のゆかりが俺を出迎えた。

 両親は海外で仕事をしていて滅多に帰って来ない。ゆかりとは三年前、親の再婚で兄妹になった。


 黒髪をツインテールで結っていて、白いフリルの付いたエプロンを付けている。

 夕飯の用意をしているのだろう。今日のお弁当も美味しかったな。


「美味しかったよ。いつもありがとな」


 空のお弁当箱を手渡す。ゆかりは目を見開いている。

 あれ?何か変な事言ったか俺。


「えっと?」


「お兄ちゃん、いつもお礼なんて言わないのに…びっくりしちゃった」


 そうだったっけ?


「最近ますますカッコよくなっちゃって…良い旦那様になりそうね」


「またそんな事言って…そもそも彼女いないし」


「この前、一緒に来た女の子いるのに?」


「あれはただの友達だから」


 最近、黒田さんが家に来た時の事だな。

 彼女が紛らわしいことを言うから…。


「そんな事言ったら彼女に失礼だろ?俺なんかを彼氏とか」


「お兄ちゃん、謙遜けんそんのつもりで言っているのだろうけど、「俺なんか」なんて絶対言っちゃ駄目だよ」



      *



 ダイニングテーブルで夕飯を食べる。

 今日のメニューはゆかりの作ったカレーだ。

 親のいない生活。二人で過ごすのも慣れてしまっていた。

 

 ゆかりは食事を作ってくれる。俺はその他の出来る事を手伝う事にしていた。


「今日、これから出かけるから」


 食べ終わったので、皿を水につけて置いておく。


「え?またあの女性ひととお出かけするの?」


 ゆかりが俯いてしまった。

 最近彼女からの呼び出しが多いな。少し出かけすぎだろうか。


「お兄ちゃん、行っちゃ嫌だ」


 ゆかりに抱き着かれた。家に一人きりになるのが寂しいのだろうか?

 嫌って言われても…約束しちゃってるしな。



      *



 俺とゆかりは、待ち合わせ場所の学校の裏廃屋(はいおく)の前に来ていた。

 庭は草が生い茂っていて荒れている。

 人が近づかない場所なので待ち合わせに丁度いい。

 今にも崩れそうな木造の一軒家だが、中に入らなければ大丈夫だ。


「それで妹さんも来ちゃったって訳ね」


「悪い」


「別にいいけど…貴方がちゃんと面倒みるのでしょ?」


 ゆかりは当然魔法が使えないから、俺がサポートしないといけないのだ。


「上原くんは魔力的にどうってことないでしょ?人が一人二人増えようが」


「まあ、そうだけど…」


 一人の方が気が楽なのだが、仕方ない。ゆかり相手だと、気を遣ってしまう。万が一、怪我をさせたら大変だからな。


「ごめんね。私が我儘わがまま言って」


「ああ、いいよ。大丈夫だから」


 俺はゆかりの頭を撫でると、ゆかりが俺に抱き着いてきた。

 黒田さんがぎょっとした表情をしている。


「貴方たち、兄妹きょうだいよね?」


「ああうん。三年前になったばかりだけどな」


「ゆかりちゃんだっけ。わたしは、こいつの事何とも思って無いから安心して良いわよ」


 何言ってるんだ黒田さんは。

 俺は首を傾げていた。


「いつも思うが、黒田さ、家族とか大丈夫なのか?」


 女の子が夜一人で出かけるなんて普通じゃあり得ない。

 親が外出を止めるのが普通だと思うのだけど。


「あーうち、母子家庭で。母は看護師、今日は夜勤だからいないのよ」


「そうだったのか。聞いて悪かったな」



      *



 俺とゆかり、黒田さんは夜空を飛んでいた。

 風魔法を使い体のまわりにまとわせる。

 外はヒンヤリしていて気持ちが良い。

 今日は雲が多いな。

 

 一応、他の人に姿が見えないように、認識阻害にんしきそがいの魔法をかけている。


「「わぁー。見てみて!家があんなにちっちゃい!」」


「そうだな」


 ゆかりのテンションが異常に高い。

 楽しんでもらえて良かった。

 一応、俺はゆかりと手を繋いで飛んでいる。

 飛ぶのが初めてだと、高い所は怖いからな。

 

 少し心配をしていたのだが、全然平気みたいだった。

 夜は静かで、家々には明かりが灯っている。

 暗闇は不思議と気持ちが落ち着く。


「魔法っていいなー。私も使えればなー」


「ゆかり、魔法使えても使うところないと思うんだけど」


「もー上原くん、夢の無い事言っちゃ駄目よ」


 ふと黒田さんの姿を見ると、肌が満月に照らされて銀色に輝いて見えた。

 長い黒髪は緩くウエーブがかかっていて風になびいている。

 

 あれ?いつもの三つ編みじゃないんだ。

 俺は、思わず髪を見つめていた。


 黒田さんってこんなにキレイだったっけ?


「月が…きれいだな」


「う、上原くん?」


「お兄ちゃん!?」


 黒田さんが、足元のバランスを崩して落ちかける。

 俺は慌てて、彼女の華奢な腕を取った。


「どうしたんだ?大丈夫か?」


「あ…ごめん。ありがと」


「ここから落ちたら大怪我するからな」


「…下手したら死んでもおかしくないわよね」


 ちらりと下を見る黒田さんは、顔が青ざめて引きつっていた。


 とっさにゆかりの手を離してしまったな。

 手を繋いでなくても、彼女の周りに風を固定してあるから大丈夫なのだけど。


「本当にありがとう」


 彼女は頬を赤くして、俺に微笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ