他のクラスの勇者
「ねえ、上原くん家遊びに行っても良い?」
「え?」
教室で突然、隣の席の黒田さんから話しかけられた。
彼女とは、少し話をする程度で友達でも何でもない。
俺が戸惑っていると。
「そんなに驚かなくてもいいじゃない。内緒の話がしたいのよ」
「話がしたいのか…びっくりした。だったら別に学校の別の場所でもいいんじゃ」
「学校じゃ話せない話なの」
特に断る理由が無いので、俺は黒田さんと家に帰った。
「お兄ちゃんお帰り…って友達?」
「えーと」
「彼女ですー」
「「えええっ!」」
何突然言い出すんだ。
この人は。
「クラスメートの黒田さん。それだけだ」
「親密な友達」
「こらこら、誤解を生むことを言うな!」
「誤解されちゃ困るの?」
「うっ…」
めっちゃ困る。言えないけど。
「ふうん。今日、友達になる予定よ。上原くん?わたしをお部屋に案内して?」
黒田さんって、見た目に反して押しが強いな。
俺は自室に彼女を招き入れて、椅子に腰かける。
「それで?話って?」
「単刀直入に訊くわね。じゃあ訊くけど、貴方魔法を使えるわよね?」
「何の事だか」
俺はとっさに誤魔化そうとしたが、黒田さんの体がふわりと宙に浮きあがっていた。
ほんの数センチ程度だが。
「どう?わたしは魔法を使えるわ。貴方も使えるわよね?」
「えっと…」
「誤魔化しても無駄だからね。わたしは魔力が解るの。わたしと友達にならない?一緒に遊んでくれる友達が欲しかったのよ」
「てっきり、俺を好きなのかと思ったよ」
「まぁ、もしかしてわたしの事が好きなの?」
「いや、そんな事無いけど」
「ハッキリ言うわね」
「こういう事はハッキリ言っとかないと…」
カチャ。
「お兄ちゃん、入るわよ。一応ジュース…」
ゆかりがジュースの入ったトレーを持って固まっていた。
黒田さんが宙に浮いていたのを目撃したからだ。
ゆかりの手から、トレーが落下していた。
『風よ』
慌てて、俺が魔法で受け止める。
「あっぶねー」
「「な、何で…」」
驚き過ぎだろ。
ゆかりは、ぺたっと床に座り込んでいた。
「そんなに驚かなくても…初めて見るんじゃないのでしょう?」
「いや、初めてだと思うが」
「そうなの?今時、魔法なんて珍しくないと思うけど?」
「「はあああっ?」」
俺とゆかりは、黒田さんのいう事に疑問を持った。
だって魔法は異世界だから使えたはずで…あれ?何で俺、魔法使えているんだ?
「いとこの、みいちゃんも異世界行って来たって言うし。結構そういう人多いんじゃないのかな…」
な、何だと?
確かに、隣の席の黒田さんが異世界帰りというのは、偶然にしても凄すぎるよな。
他にも居るとすれば、別に不思議ではない。
「わたし、他の人の魔力が解るのよ。みんな隠しているだけで、魔法使えるみたいだし」
「学校にも他に居るとか?」
「探してないけど、多分…」
想像しただけで少し恐ろしくなってきた。
俺と同じ、もしくはそれ以上の能力者がわんさかいるとか。
能力を悪用しなければ問題はないと思うのだが。
*
「君が、上原くんだね?」
これから帰ろうとしていた時、教室に見知らぬ男子生徒が俺を訪ねてきた。
「動画に取られちゃったから、気が付かれたのかな?」
黒田さんが素知らぬ顔で呟いた。
「急に驚かせてごめん。動画でキミを見たのだけど、ぼくのスキルは鑑定だから…」
そこまで言いかけて、俺はその男子の口を手で押さえる。
「しっ!ここじゃ、耳目があるから…空き教室行かないか?」
「そういうことなら、ちょっと待って」
『防音魔法』
透明な膜が俺たちの周りを取り囲む。
魔法が使えない他の人には見えないだろう。
「これで、ぼくたちの会話は聞こえなくなったはずだよ?これで良いでしょ?」
「なら別にいいか」
「本当ね。ちゃんと防音されているみたいだわ」
黒田さんが膜を手で叩く。
コン、コンと固い音がした。
「では改めて初めまして。ぼくは一年四組の安良坂正。お察しの通り、ぼくも異世界から帰ってきたんだ。もし良ければ、ぼくと友達になって欲しいのだけど」
「あ、安良坂くんって学年成績トップの安良坂くんよね?」
黒田さんが驚いている。
そういえば、全科目トップの人が居たような…。
彼だったのか。
「もしかして、キミも異世界帰りだったりするの?」
「ん~まあ、そうだけど?」
「わーあ!一日で二人に会えるなんて凄いや!」
*
安良坂は戻って行った。
真面目そうな外見とは違い、親しみやすい性格だったようだ。
「友達ねぇ」
俺は安良坂と友達になった。
自慢じゃないが俺は友達が少ない。
最近、黒田さんと友達になったくらいだ。
俺は鞄を取り出して、仕舞いこむ。
「そろそろ帰るか」
「今日もいつもの場所に行きましょ?」
黒田さんがニコッと微笑む。
俺はまた、夜のお誘いを受けた。