元の世界に帰ってきた
『最初の約束通り、元の世界に戻しましょう』
麗しい金髪、青い瞳の女神リリアホワイトは、異世界転移の魔法を発動させた。
俺は眩しい魔法の光に包まれていた。
「あれ、本当に戻って来れたんだ」
目を開けると、懐かしい自室。
部屋は常夜灯が付いていて薄暗い。
俺は上原 勇15歳、高校一年生。
いや、三年経っているから正確には18歳か。
目覚まし時計のデジタル画面が見えて、深夜2時30分と表示していた。
「今日は何年の何日だ?」
多分、召喚された日に戻ってきているはずだけど。
机に置いてあるスマホを見ると、2024年5月3日金曜日で間違いはないようだった。
「長かったな…三年か…」
俺は突然異世界に召喚されて、勇者として魔王と戦えなんて無理難題を押し付けられた。
幸いにも俺以外のパーティが強かったため、あまり苦労せず勝ったのだけど。
今思うと、俺要らなかったんじゃないかって思うんだよな。
王様はかなり慎重なタイプらしくて、念のため俺を召喚したらしい。
俺も、一応魔法で戦ったけれど。
もう戦いはこりごりだ。
「もう寝よう…」
明日は日曜だったから良かった。
ゆっくりと思いだせばいい。
三年も居ないと、こちらの生活なんてすっかり忘れてしまっているからな。
*
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
俺は、妹の可愛い声で目が覚めた。
「ん…?今日は日曜だろ?」
「いつまで経っても起きてこないから心配になって…もう11時だよ?」
「11時?…もう昼じゃねえか」
変な時間に寝たから寝すぎたのか。
「いつもは休みでも8時には起きて来るのに…」
規則正しく生活していた俺は、休みの日でも早めに起きるようにしていた。
そういえば、そうだったな。
思考を巡らしていると…。
二つ下の義妹、ゆかりの瞳には涙がたまっていて俺はぎょっとする。
俺と妹のゆかりは親が再婚して兄妹になった。
ほんの三年前の事だ。
「何も、泣かなくても大げさなんだから」
「死んじゃってるかと思って…」
「人間そんなに簡単に死にゃしないよ」
「……」
俺は、間近でゆかりにじっと見つめられた。艶々な黒髪からふわっとフローラルな香りが漂う。
「どした」
「お兄ちゃん、何か変」
「え?」
腕を組んで考え込むゆかり。
一体どうしたって言うんだ。
「ほら、着替えるから出てって」
「うーん、やっぱ変だよお兄ちゃん」
俺は妹を部屋から追い出した。
変?何が?
三年も経っているので、何か変わっていても不思議じゃ無いのだが。
「ま、別にいっか。気にしてもしょうがないし」
*
「身長伸びてない?」
「そうか?」
ダイニングで、朝昼一緒のご飯を食べているとゆかりに言われた。
三年も経てば身長も伸びるか。
「成長期だからな」
「そう、それそれ」
「何が…」
「何だか自信たっぷりに話すんだもん。昨日まではおどおどしていたのに」
「そうだったか?」
性格も変わったのだろうか。
前の事はあまりよく覚えていないんだが。
*
月曜は祭日だった。
明日は学校。
久しぶり過ぎて色々忘れているが大丈夫だろうか。
三年前、どんな生活をしていたんだっけ?
「お兄ちゃん、お買い物付き合って」
朝、ゆかりに言われる。
俺が驚いていると。
「前に一緒に行ってって言ったじゃない。忘れたの?」
ごめんすっかり忘れていた。
なにせ三年も経っているから。
「忘れてた」
「しょうがないな。許してあげる」
ニコッとゆかりは笑った。
ツインテールの黒髪が揺れて可愛い。
異世界にいる時、義妹のゆかりの事が唯一の気がかりだった。
両親は仕事で海外にいるので一人ぼっちになってしまう。
無事に戻って来れて良かったと思う。
*
俺たちは近くのショッピングモールに来ていた。
買い物なら、友達と来ればいいと思うのだが。
何で俺と一緒に来たのだろう。
「お兄ちゃんさ、カッコ良くなったよね」
「え?」
何言ってんだこいつは。
ゆかりは、急に俺の腕に自分の腕を絡ませてきた。
「へへー。こういうの夢だったんだよね」
「こういうのは彼氏にするものだろ」
「じゃあ、彼氏が出来るまででいいから」
「……」
小さい胸が腕にあたっている。
ドキドキして変に意識してしまう。
「彼女が出来るまででいいから」
「ん?」
「だって、お兄ちゃんカッコいいから直ぐに彼女出来そうだもん」
「そんなわけないだろ」
自慢じゃないが、俺は今までモテた事ないんだが。
学校ではもっぱらイジメられていたからな。
今思うと…イジメも大した事なかったな。
異世界の戦いに比べれば、遊んでいるようなものだったが。
「この色どうかな?」
襟元にフリルの付いた可愛いワンピースを二つ持ってきて、俺に見せてくる。
クリーム色とベージュ色の二種類。
どちらにするか迷っているらしい。
「どっちも似合うから良いと思うぞ」
「えー。じゃあ、両方買う」
よく見たら丈がめっちゃ短いな。
足が見えてエロい。
ゆかりは会計を済ませ、袋を俺に預けた。
「ちょっと、おトイレ行ってくるね。ここで待ってて」
*
「遅いな」
トイレが混んでいるのだろうか。
ここから一番近いトイレはどこだっけ?
トイレ前の通路に行くと、ゆかりが二人の男に絡まれていた。
ナンパだろうか。
ガラの悪そうな二人組。
大学生だろうか?
気崩した服を着て、金髪に髪を染めている。
以前の俺だったら、逃げ出していただろうけど、今なら。
「ゆかりどうした」
俺は声をかけ近づく。
ゆかりは怯えてるみたいだ。
「彼氏か?何だ、ひょろひょろしてるじゃねえか。こんな奴ほっといて遊びに行こうぜ」
男が、ゆかりの肩に手を回す。
「嫌がっているのが分からないのか?」
俺は、男の腕を掴み引っ張った。
「痛って!何しやがる」
俺の手を振りほどこうと、男がもがく。もう一人の男が俺に殴りかかってきた。
俺は、無詠唱で風魔法を使い、相手を吹き飛ばす。
多分、殴られて飛んだように見えるだろう。とっさに使ったが、魔法は問題なく使えるみたいだな。
「凄い…」
ゆかりが呟いた。
バタバタと警備員が走ってくる。
喧嘩していると思われたのだろう。
「逃げるぞ」
「え?」
俺はゆかりを抱えて、二階から一階へ飛び降りる。
まるでアクション映画のワンシーンのようだ。
「ひゃっ!」
そのまま、ショッピングモールから出た。思わずゆかりを抱きかかえてしまったけど。腕の中のゆかりは頬が赤くなっていた。
「ちょっと!説明してほしいんだけど!!」
抱えていた彼女を降ろし、街中を一緒に歩き始めると、ゆかりが興奮気味に俺に食ってかかる。
「え?何が?」
俺、何かしたか?
ナンパ野郎から助けたのだから、感謝されるべきところなのだが。
「昨日までと、全然違うんだけど?助けてくれたのもそうだけど、普通二階から飛び降りたりしないからね?」
あれ?そうだったっけ?
異世界では普通に飛んでたけど…。
「んんん?」
少し感覚がズレているのかもしれないな。
「何でこうなったのか説明してくれるよね?」
怖い顔で、ゆかりが睨んできた。
俺は思わず後ずさった。