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ゾンビがいる世界での日常

作者: 早崎富也

 25XX年、ある研究所で事故が起こった。

 その研究所では細菌やウィルスなどの微生物を研究しており、その事故によって研究施設で培養されていた多種多様な微生物が世界中に解き放たれてしまった。

 微生物は瞬く間に人々に感染し、感染者数は数日の内に世界の総人口の半分にまで上った。

 感染した人々は姿形が変化し、それはまさにホラー映画などに登場するゾンビのようだった。



 

 事故から数年後――


 「ハァ……ハァ……!」

 

 一人の青年、荒川(あらかわ)信也(しんや)17歳は必死に走っていた。

 

 (急がないと……!門が閉まる……!)

 

 正面にある大きな建物に向かって全力で走り続けるが、無情にも門は少しずつ閉まっていく。

 

 (閉まるな……!間に合ってくれ……!)

 

 祈りながら必死に足を動かし続ける信也。

 

 そして……

 

 ガシャン!

 

 「……っ!ハァ……ハァ……間に……合った……!」

 

 信也は安堵して息を整える。

 

 「…………」

 

 「っ⁉」

 

 しかし、後ろに何かの気配を感じて恐怖と共に振り返る。

 

 「あ……!あ……!」

 

 そこには皮膚が青白く変色し、髪の毛が抜け、目を血走らせた……

 

 「ハヤクゥ……キョウ……シツニィ……イケェ……」

 

 ゾンビ化した先生がいた。

 

 「は~~~い!ごめんなさ~~~い!」

 

 



 

 ▽



 

 

 

 キーンコーンカーンコーン

 

「は~……間に合った~……」


チャイムが鳴る寸前で自身の教室に着いた信也は、机に突っ伏していた。


「しんやぁ……」


「おう、幸助(こうすけ)。おはよう」


そんな彼に声を掛けてきたのは前田(まえだ)幸助(こうすけ)

ゾンビ化した信也の友人である。


「おまえ……今月なんかいめの……ちこくだよぉ?」


「遅刻じゃねぇよ。ギリギリセーフだろ?……っていうかお前、だいぶ喋り方元に戻ってきたな。心なしか顔色もよくなってきているし、目も戻ってきているし」


「病院の……せんせいが言ってったんだけどぉ……俺、薬が効くのはやいみたいなんだぁ」


「そっか。よかったな」


数年前に起きた研究施設での事故により、世界中である感染症が流行した。

それは人類のみならず、哺乳類や鳥類、ほとんどの脊椎動物が感染した。

感染者には皮膚の変色、正常な言語を発せられなくなる、体中に麻痺症状が現れ動作に異常が発生、目の充血、抜け毛などの症状が診られた。

その姿は一見ホラー映画などに出てくるゾンビそのものであったため、世界中が一時パニックになった。

しかし、そうなった人々―――ゾンビ化した人々が筆談による意思疎通を図った。

そして感染者を様々な方法で調べた結果、食人衝動のようなものは起きておらず、思考や性格は感染前と全く変化していないことが判明した。


当然、それでも非感染者の不安は収まらなかったため、二、三年は感染者を監禁状態で生活させていた。

しかし、世界中の医療関係者の研究により、少しずつではあるが治療薬の開発が進められたこともあって、今では非感染者と同じ空間で、治療を受けながらほぼ同等の生活を送ることができるようになった。


「ホームルームを始めるぞー」


担任が教室に入ってきたため、一気に教室が静まり返る。


「お前らも知っていると思うが、今日のちょうど昼休みに当たる時間に、『ゾンビ物の映画やゲームを今後どうするか』に関する決定が発表される。校長先生や理事長からも許可が下りたため、今日は昼休みに教室のテレビでそれを見ていいことになった」


担任の話を聞き、教室がざわつく。


感染者と非感染者の交流が一般的になってから、この話題はメディアやネットでずっと話題になっていた。

『表現の自由に反する』『感染者への差別を大きくする』など賛否両論で、簡単には決定付けられなかったのである。


「取り敢えず、まずは黙って昼休みまで待つようにな。あと、スマホとかでヘンなことを書き込んだり、デマを真に受けたりしないように」











そして昼休み……


『え~……ゾンビを取り扱った作品についてですが……』


テレビに映った政治家がマイクに向かって話す。


『規制などは行わず。今後も自由に販売や鑑賞をしていいということになりました』


その言葉を聞き、教室中から感染者、非感染者を問わず歓喜の声が上がる。


『どうやら、感染者の方々からも規制に反対する声が多かったみたいですね』


画面が変わり、コメンテーターやタレントなどが討論を始める。


『わたしも……感染はしましたが……今でもあの手のゲームは好きですから……ねぇ……。もうできなくなるのは……いやですよ……』


『ただ、感染者への差別などに繋がらないよう、しっかりと対策をしておく必要はあるでしょうね』


『そうですね。この感染症がなくてもイジメやハラスメントはずっと問題でしたからね。ただでさえ、障がいを持っている方は標的にされがちでしたからね』


『もしその手の作品を口実に、感染者以外でも身体の不自由な方への攻撃を正当化されては、大問題ですからね』


『もし……そうなるようでしたらぁ……ホントウにぃ……ゼンメンテキニぃ……きんしされてぇ……しまいますからねぇ……。そうならないためにもぉ……こんごはぁ……よりげんじゅうにぃ……イジメやぁ……はらすめんとのぉ……ボウシにつとめてぇ……いくヒツヨウがありますねぇ……』


『部活動や職業選択の自由についても、今回の一件で突然制限を受けるようになった方がたくさんおりますし、まだまだ課題は山積みですね』











放課後になって部活動等の時間も終わり、信也と幸助は一緒に帰りの電車に乗っていた。


「取り敢えず禁止にならなくてよかったな」


「うん……。おれ……ゾンビ映画……好きだから……ほんとによかった……」


「もしかしたらそのうち逆に、ゾンビになってゾンビを狩る人間から逃げるヤツとか出てくるかもな」


「そうだね……」


その時、二人の耳にヒソヒソと何かを呟く声が聞こえて来た。

反射的に声のする方に目を向けると、何人かの高校生が二人―――幸助の方を見ながら何か言っているのが見えた。

その高校生らは、全員非感染者だ。


「幸助、このあとさ、ウチに来て一緒にアニメ見ねぇ?お前が見たがっていたヤツの劇場版あるからさ。あとホラ、あのヒロインがゾンビのヤツも全巻揃ってるし」


「うん……行く……」


そうして二人は同じ駅で電車を降りる。


(大丈夫だ幸助。お前には俺がついてるからな……)


(ありがとうな信也。俺、お前が友達で本当に良かったよ……)


こうして、この世界での日常は過ぎて行く……。

 

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