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夏の足音とアイスとガキ

「あつ〜い」


時刻は午後2時。

体育祭の後片付けが終わり振り返り休日というやつで学園が休みになっている。


「あつ〜い」


朝5時頃、自分がお菓子の山に埋もれていることに気づき目が覚めた。

取り敢えず近くにあった、うまか棒を食いながら思案した。


「あつ〜い」


恐らく、このお菓子の山は蒼華が持って返ってきたのだろう。てっきり俺の願いは叶わないと思っていたが魔女候補様も粋な計らいをしてくれる。

昨日までの俺ならば諸手をあげて喜んでいただろう。


が、今だけは喜べない。


「あつ〜い」


「あついあつい!うるさいわ!」


俺は近くにあったクッションを今にも溶けそうになっている蒼華に対して投げつけた。


夏の足音がすぐそこまで来ているにも関わらず、家のエアコンは壊れやがったのである。

失礼、壊れたのではない。壊したのだ。蒼華が。


朝起きたらリビングのソファでゲームをする蒼華がいた。

こんなに朝早く起きるのは珍しいな?なんて思いながら俺は朝刊を取りに外へ出た。

その直後だった。


ドン!

何かがぶつかる音がした。

何が起きたのかと音のした場所、リビングへと向かうと衝撃的な光景を見た。

俺はどちらかと言うと世間知らずに分類されるが、多分こんな奴はいないだろう。


何せコントローラーがエアコンに突き刺さっているのだ。

事情聴取した所、ゲームで負けてイラついてコントローラーを投げたらしい。

ゲームに負けて机を叩いたり、叫んだりする人はよく見るがコントローラーでエアコンを破壊する人は見たことがない。


6月にして例年の8月の最高気温を更新している今日この頃、エアコンがないというのは死活問題である。

俺と蒼華は日本の夏を甘く見ていたのだ。

エアコンが壊れたのが朝5時。

まだ日も昇り切っておらず、むしろ涼しい時間帯だ。

午前中。午前中は暑いとは思ったものの耐えられる暑さだった。


問題は午後だ。

1日の中で1番暑い時間帯。

午後1時から午後3時。


保冷剤と扇風機で耐えれていた午前中とは比較にならない。

保冷剤は数分の内に溶け、扇風機は涼しげな風を送ることなく、俺に嫌がらせをする熱波師へと変わった。

流石にまずい。本当に死ぬ可能性が出てきた。


つい先程、熱さに耐えかねた蒼華が魔術で体を部屋を冷やせばよいと考えて行動に移していた。

が、それは悪手であった。


魔術を使うというのは運動をするようなもの。

体を冷やすことは出来るものの、常に一定の疲労感が自身を襲うこともなるのだ。

涼しくはあるものの疲れる。そんなのは元も子もない。


この状況を打破する方法を模索する。

考えに考え、ひとつの方法を思いついた。

それはアイスを食べること。

世にはアイスの魔法というものが存在する。

ただただアイスを食うだけで何故だか暑さが緩和され、涼しさすら得る事が出来るというものだ。


「蒼華、俺アイス買ってくるけどお前欲しいもんある?」


「ジャンプの今週号」


「了解」


そう言って俺は家を出た。




###




「は?」


()()のせいで買ったジャンプに全く集中出来なかった。

何せガキが倒れているのだ。

6〜7歳くらいだろうか?そんな幼女がうつ伏せになって倒れていた。


熱中症なのではないかと俺は慌てて駆け寄った。

辛うじて意識はあるようだ。

コンビニで買ったスポーツ飲料を手渡す。

幼女は自らの手で蓋を開けて飲み口を口に当てた。

と同時に、スウウウ!と音がなってペットボトルの中身が消えてなくなった。

なんて吸引力だと感心していると幼女が妙にこちらを注視していることに気づいた。


「どうした?なんかあったのか?」


「アイス…食べたい……」


中々、図々しいガキである。

が、アイスの1つや2つくらいならばあげてやってもいいだろう。

俺はレジ袋に入ったアイスの中から子供の好きそうなタイプのアイスをピックアップして幼女に渡そうとした。

けれども、幼女はそれを受け取らなかった。


「そっちがいい……」


そう言って指さすのは今まさに俺の食べているアイスだった。


俺の食べてるアイス。

それは夏季限定の稀少アイスだ。

そのことを知ってか知らずか、このガキは感情の色を見せぬ顔で要求してきた。


自分の立場を理解してやがるッ!

迷子で熱中症の幼女。そんな子にアイスを求められて渡さない者がいるだろうか?

いや!いない!

俺が断れない事を理解しているのだ!このガキは!


「これ食べかけだけど…、他のもあるよ?」


「それがいい」


「こっちのチョコアイスとかソーダアイスとかの方が美味しそうじゃない?」


「それがいい」


ガキぃ………!


響は手に持っているアイスをゆっくりとゆっくりと幼女に渡した。

幼女は渋々渡してきた響に対して不敵な笑みを浮かべた。

幼女は見せつけるようにアイスを持ってみせた。


幼女は自分よりも大きな大人に物を献上させてやったぞ、と表情を動かさぬまま勝利の高笑いをあげた。

それがよくなかった。


例年以上の気温。

直射日光こそ当たらないもののアスファルトの地面に跳ね返る熱。

響がアイスを買ってから既に7分の時が経っていた。


「「あ」」


アイスは地面に溶け落ちて消えていった。


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