双柳蒼華攻略作戦
赤肌差別
主に魔術世界の西方にある差別のひとつだ。
研究の結果、赤化病は魔力に由来するものだと証明されているのだが昔から続く差別がすぐになくなるというのは難しい。
極西の生まれである私の家は特に差別が酷かった。
父は物心ついたころからいない。
母は女でひとつで私を育てていた。
4歳の頃、母は私に魔術の才がある事に気づいた。
私が初めて使った魔術は光を灯す魔術。
蝋燭一本すら無駄遣い出来る余裕のなかったうちにおいて光を灯す魔術は革命的であった。
私が魔術を使える様になった事で母は大層喜んでいた。
それまで母の笑う姿を見たことがなかった私は、少しでも母の助けになろうと図書館へと入り浸り、魔術書を読み漁った。
8つの歳になる頃には、そこらの魔術師と同等以上の種類の魔術が扱えるようになった。
しかし、その頃からある問題が発生した。
赤化病だ。
4歳の頃から4年間毎日魔術を使い続けていたせいで、魔力の絶対量が増え、血中に含まれる魔力に馴染めず血の色が肌に滲み出た。
私としては肌が赤くなろうとどうでも良かったのだが、母は違かった様だ。
母は知っていたのだ。赤肌の者がこの地域でどれ程の差別の対象であるかを。
その日から母は夏でも私の体を布で包んだ。
顔以外の全ての肌が赤くなっていたから、長袖長ズボン手袋タートルネック。全てを服で包み隠した。
そのおかげで私は迫害される事なく日々を過ごせていた。
が、幼い頃の私は母のその努力の意味が分からず、10回目の夏の日、つい服を脱いでしまった。
半袖になった私の肌は衆目のもとへと晒された。
「あそこに赤肌が!鬼が居るわ!」
そこら先の事は想像に容易いだろう。
侮蔑の差別の対象となった私は街を追われた。
母は迫害の対象ではないのに追放された私についてきてくれた。
旅の道中、私の肌の事で色々な事が起きた。
しかし、母は何の文句も言わなかった。
それどころか私の事をスゴイスゴイと褒めてくれた。
が、そんな辛くとも充実した日々は長くは続かない。
母が病気を患ったのだ。
今考えてみれば当たり前の事だった。
行く先々で宿代に金は消え、充分な食事は採れていなかった。
魔術師だからか妙に頑丈な私は病気や風邪にかかることはなかった。
けれど母は違った。普通の人なのだ。食事をとらなければ死んでしまう。眠らなければ死んでしまう。
私よりも死が近い存在なのだ。
金もツテもない私には治療費を払う事が出来ず、母は病気を患ってから、わずか1週間で死んでしまった。
それ以降、私は何の当てもなく、ただただ東へと向かった。
母は私の事を何も言わなかったけれど、やはり西の差別は厳しい。小さな傷でも日に日に心が擦り減っていく。
歩いて歩いて歩いて。倒れた。
死を覚悟したその時、彼女は現れた。
蒼い髪を持つ少女。
「絵里、なんか倒れてる」
「なんか?なんかって人じゃない!助けないと!」
ひと目で分かったのは容姿が優れている事、そして私よりも強大な魔力を持っていること。
歳は私と同じくらいのはずなのに、私よりも魔術師として優れている。肌は白く、赤く染まっていない。
疑問だとか嫉妬だとか、そういう感情が生まれるよりも前に私は思った。異常だ。異常そのものだ。
私はその時、初めて誰かに憧れたのだ。
そんな相手と戦えるのを私は光栄に思う。
戦闘は殺意や悪意、敵意に満ちた者を殺す為のものだと思っていた。
が、これは違う。
双柳蒼華という圧倒的強者相手に自分の魔術が通用するのかを試し続けるのが楽しい。
放つ魔術の殆どを躱され、いなされ、受けられる。
これはどうだ?あれはどうだ?これを避けるのか!こんな魔術があったのか!楽しい!楽しい!楽しい!
母さん!ありがとう!母さんの言う通り世界は広かった!母さんの言う通り私を認めてくれる人はいた!
ああ、楽しい。どうかこの時間が長く続きます様に。
###
生半可な攻撃は蒼華に効かない。
かといってダメージを与えられる程の大技は、まず当てられないだろうし溜めの時間に反撃を喰らう。
かと言って今みたいに、ちまちまと攻撃したって状況は変わらないわね。
詰まるところ、蒼華の倒し方は2つ。
意識外からの攻撃をするか、障壁と身体強化をブチ抜く程の威力の攻撃を喰らわせるか。
澪ならば溜めの時間さえあれば障壁も身体強化も諸共しない魔術が使える…はず。
私の予想通りならば倒し切れると考えているが、試したこともないから本当にそれ程の威力があるかは分からない。
だから、一撃で確実に倒し切るために意識外から障壁を張っていない状態の蒼華に当てる必要がある。
普通に撃った所で、まず間違いなく避けられるだろう、けど私ならば当てる事が出来る。
澪が"溜め"に入る。
澪の魔力の昂りを感じ、蒼華は澪を潰そうと駆け出した。
勿論、そうさせない為に絵里は蒼華の邪魔をする。
遠中距離からの攻撃が効きにくい蒼華に対して近接戦を挑み、出来るだけ動きを制限した。
殴り倒す事は無理でも、その場に留め続ける事くらいは出来る。
格闘戦の最中、絵里が蒼華に触れる。
直後、絵里は蒼華の蹴りによって吹き飛ばされ距離を離される。
が、充分な時間を稼いだ。
澪の魔術の準備が終わった。
澪は人差し指を立て、空に円を描く。
その円の直線上に立つ蒼華は得体の知れない危機感を覚え、澪の魔術の射程外へ行こうと走り出した。
澪の魔術が発動する。
眩い光。雷鳴が轟き、世界が揺れる。
当たれば蒼華でさえ、只では済まない威力があるのは火を見るより明らかだ。
が、既に蒼華は澪の魔術の射線上に居ない。
つまり、澪の魔術は当たらない。
このままであったとしたら──────
「迦具夜比売赫映姫」
絵里は未だ蒼華の蹴りによって思う様に動けない。
辛うじて立ち上がってはいるが、まるで生まれたての子鹿の様にプルプルと震えていた。
そんな絵里はニヤリと笑みを浮かべて月見里の固有魔術を発動する。
発動条件は既に満たされている。
絵里の魔術の発動に伴い、澪の魔術から逃れる為に離れた位置にいた蒼華が元の位置に、澪の魔術の射線上へと戻された。
着弾のギリギリ、避ける事は叶わない。
突然の出来事に障壁を張る時間すらなかった。
蒼華の身は光に包まれ澪の大技を真正面から喰らう事となったのだ。
蒼華倒すのクソゲー過ぎる




