RAID BOSS
あっ、ちなみに魔術は同時に2つまでしか使えません。
刻印魔術による身体強化は別として、何かを操ったり撃ったりは意識的に操作する必要があるので2つまで、手の数までが上手く扱える範囲です。
2つの魔術を同時に扱うのは両手で同時に字を書くようなものです。
3つも使うとなると両手と口で同時に絵を描くレベル。
「お前が柊にやられてからの10分間、俺が死ぬ気でお前を守ってたんだぞ!本気で感謝しろ!」
響がゼェゼェと息を吐き、汗を垂らしながら俺の寝ていた間の出来事を言った。
「ありがとう。状況は?」
「お前が寝かされやがったから、陣地奪うのは諦めて澪の魔術の届かない所まで逃げてきた。陣地の近さで言ったら絵里の陣地の方が近いな。あと、蒼華と絵里がちょっとずつ柊陣地の方に近づいていってる。絵里は澪と合流しようとしてるのかな?」
合流ね。
大方、月見里1人じゃ双柳を倒せないから華月の力を借りて何かしようとしてるのだろう。
眠っていたからか前よりも頭がクリーンだ。
色々考えやすい。
「どうする?」
考え込んでいた俺に判断を仰ぐ響。
「んー、取り敢えずリベンジマッチだな」
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月見里家の固有魔術。
使っているのは確かなのだが、その魔術の効果がどういうものなのか、全く分からない。
というか、発動だけしてまだ魔術の効果は1度も使っていないだろう。
発動と同時に仕掛けてこない辺り、ビームを撃ったり、斬撃を放ったりする高火力の攻撃魔術ではないのは確かだ。
「迦具夜比売赫映姫だっけ?どういう能力なのか教えてよ」
「そういう蒼華こそ使った魔術がどんなものか教えてくれないかしら?」
駄目元で聞いてみたが、流石に答えてくれなかった。
まあ多分、特定の事象をどうこうする能力だろ。
まず間違いなく攻撃魔術ではないし、見たところ身体機能をどうこうする様なものでもない。
魔術を発動させてはいるものの目立った動きがないのは絵里の固有魔術には特定の発動条件があるから。
そう考えて相違ない筈だ。
発動条件が厳しい魔術ほど発動した際の恩恵が大きい傾向にある。
となると、警戒するのは魔術発動の瞬間だけで充分だ。
響達に、絵里が私を止められるかもなんて言ったけど久しぶりに戦ってみると大した事ないな。
確かに他の奴らよりは比較的マシな部類だが、脅威足り得ない。
(絵里じゃ私を倒せない)
蒼華、貴方はそう考えてるのでしょう?
貴方を倒せないのは百も承知。
入学式の日、私は3年ぶりに貴方を見た時、正面から戦って勝つのは無理だという事を悟った。
生半可な攻撃は効かない。
それ以前に蒼華が認識して受ける魔術の殆どは卓越した身体強化と結界術によって威力を激減させられてしまうでしょう。
結界術による障壁を体の輪郭を覆う様に薄く張る事で攻撃が体に当たる前に魔術の威力を散らしている。
散らされた魔術の威力は多分、放った時の10分の1程度。
その程度ならば魔術で強化された身体で受け切る事が出来る。攻撃が通らない訳ね。
けれど障壁が使われるのは攻撃が着弾する瞬間のみ。
燃費の悪い結界術を常時展開するのは魔術師にとって命取り。
だから貴方はマニュアルで障壁のON OFFを繰り返している。
つまり、意識外からの攻撃であれば障壁を展開する事が出来ずに有効打を与えることが出来る……はず!
が、意識外からの攻撃も1度行ってしまえば多分2度と当たらない。
寧ろ、わざと隙を見せて釣ってくるでしょうね。
ほら、今も獲物が釣れるのを待っている。
「清水ッ!今!」
柊チームの…、確か……仁坂さんと清水さん。
蒼華が私との肉弾戦で態勢を崩し、魔術も発動後で数秒は使えない。
まさに"隙"
けれど、流石に美味すぎやしなくて?
それに気づかずに釣られてしまう様では………
「ぐッ!」「がッ!!」
清水さんや仁坂さんと同じ様になってしまいますね。
蒼華がしたのは単なる曲射。
魔術師の多くが基礎として学ぶ魔術操作の一環だ。
絵里に向けて放った魔術を曲げて仁坂と清水に当てた。
基礎的な技術だ。一般的な魔術師には出来ないレベルの曲がり具合である事を除けば。
蒼華は未だ攻撃の余韻に悶えている仁坂と清水に魔力で象った剣を刺し落とし戦線離脱させる。
今ので確信した。私だけで戦っても勝てない。
試合終了まで蒼華を足止めする事は出来るかもしれないけれど、倒すとなったらまず不可能だ。
足止めでは駄目。
私は試合に勝ちたいのではない。
私は蒼華に勝ちたいのだ。
ならば、する事はひとつ。
攻略。ゲームで言うところのレイド戦かしら。
仲間と力を合わせてラスボスを倒す。
その為の準備はして来た。問題ない。
やってやるわ。蒼華を初めて負かすの私よ。
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やばいなぁ。
キャスが消えて今、仁坂と清水も負けた。
残っているのは僕とレオだけ人数差的に僕たちのチームが1番少ない。
それに蒼華さんと月見里さんもこっちに向かって来てるし、このままじゃ運良く生き残れても勝つのは無理そうだぞ。
どうす──────
バゴォオオオオン!
背の高い建物に何かがぶつかり崩れ出した。
澪の爆撃ではない。
柊の魔術でもない。
では誰の手によって行われたのか。
廃墟の一角を打ち壊した張本人が姿を見せる。
崩れた建物から出てきたのは双柳蒼華だった。
絵里により投げ飛ばされ、森を超えて廃墟街へと現れたのだ。
柊は蒼華の姿が目に入り、自身が圧倒的不利な状況に置かれた事を悟った。
今この場の支配者は蒼華。
柊達の生殺与奪の権は蒼華が握っているのだ。
「今すぐ、この場を離れなければ」そう思った矢先、蒼華に対抗できる存在が現れた。
月見里絵里。流石に自身が投げ飛ばした蒼華を追い越すことは出来なかったが、蒼華が廃墟街へとやってきた20数秒後には絵里も到着した。
これにより、場の戦況が変わる。
2対2対1。数で見れば不利なのは蒼華なのだが、そんなはず無かった。
が、絵里と澪が共闘すれば蒼華に対抗可能である。
つまるところ、先程まで柊たちに向いていた澪の魔術は蒼華へと狙いを変える。
絵里と澪は迫り来る蒼華と戦わなければならない。
要するに柊の介入する余地がないのだ。介入する必要がないのだ。
これはチャンスだと今誰もいない森の陣地を奪いに行こうと歩を進めた柊達。
その前に立ちはだかる者がいた。
「エリートさんよォ?リベンジマッチだぜェ!」
先ほどまでの腑抜けてたヴィルの姿は既にもう亡くなっていた。
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同時刻。廃墟街崩壊跡。
蒼華は疲れたから休憩だと言わんばかりに積み上げられた建築資材の山に座った。
そんな蒼華の姿を見て、荒ぶる感情を抑え込みながら絵里は澪と合流した。
これで2対1。
本来ならば、ここにニカも加わり3対1で当たるはずだったのだが何故かニカが来ない。
大方足止めさされているのだろう。仕方がない。
絵里達の目算では2人で蒼華に対抗可能。および対処可能な筈なのだが、まるでそんな気がしない。
先ほどでの荒々しい炎の様な魔力とは打って変わって、波ひとつない澄んだ水面の様な魔力になっている。
これは魔力の性質変化だとか、そういうのではなく、ただ単純に蒼華が戦闘スタイルや考えを変えた事を意味しているのだ。
チャンスは一度きり。
倒す為の準備はしてきた。
やれる。やれる筈だ。
「ふう」
軽く息を吐き、呼吸を整える。
蒼華は仕掛けてくるまで待っている。先手を譲るつもりの様だ。私を舐めてますね?
彼女の性格からして先手を譲るのは何の意図もないのだろうが、私は挑発としか受け取れない。
「落ち着いて……」
隣に立つ澪が呼吸が荒くなった私を宥めた。
「ごめん、じゃあやろうか。ボス戦」
私のその言葉に反応して蒼華が身を起こす。
目と目が合った。
今、蒼華は私を見てる。それがこの瞬間だけで終わらぬ様、蒼華の中にきっちりと“私”を刻み込む。
見ていなさい蒼華。私が貴方の先を行くから。
響は何処に行ったんでしょう?
ニカとリティアは何をしているのでしょう?




