開戦
魔術の発動に大事なのは想像力なので、負ける思っていたら魔術の威力は微々たるものではあるが下がるし、絶対に勝てると思っていたら多少ではあるが威力や効果が上がります。
実力が近い者同士なら気持ちの持ち様で勝敗が決まることもあります。
「お前が私の相手をすんの?」
「ええ、相手を任されたので」
私が足止めを任された相手。双柳蒼華。
言うまでもない。化け物だ。
魔術師としては圧倒的に幼い10代にして、その名を世界中に轟かせている。
同年代の者ならば知らぬ者はいないだろう。
1度だけしか見たことなかったが、まさか学園に入って会話をする、増してや戦う事になるとは思いもしなかった。
一応清水の奴もサポートとして来ているのだが、奇襲を成功させる為に今はまだ姿も魔力も隠している。
チャンスは1度きり、私が隙を作らねば勝機はないだろう。
勝てる気はしない。
その気持ちが既に魔術に影響を及ぼし、勝率を下げているのは分かっているのだが勝てる気がしないのだから、しょうがない。
目の前の青髪の少女の不気味なまでに整った顔は精巧に作られた人形のようである。
背丈は私の半分程度しかないのに自身より大きく感じてしまうのは魔力のせいなのだろうか。
身に纏う魔力は蒼炎の様に立ち昇り、今も尚燃え盛っている。
蒼華はその綺麗な顔を歪ませて笑い、応える。
「暇つぶしだ。相手してやる」
今まで形を留めずに揺れていた魔力は、指揮の行き届いた軍隊の様に整然とし、更に大きくなって辺りを包み込んだ。
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「あれ?リティアちゃんがこっちに来るんだ。てっきり響が来るかと思ってたわ」
ニカとリティアが相対する。
私が目の前にいるのに戦闘態勢に入る訳でもなく、ニコニコと笑いながら仁王立ちしている。
「どう?戦闘なんて物騒な事やめて仲良くお話ししない?」
「じ、陣地くれるなら構いませんよ?」
当然の要求にニカは「それは出来ない相談だなぁ」と軽くぼやいた。
「じゃあ戦うしかないですよ」
リティアがそう言うとニカは頭を掻いて怠そうに「しゃあない。守ってやるかぁ」と呟いた。
殆どの者が聞き流すその言葉。
聞き流さない人でも、軽く言葉を返すだけで深く反応はしないだろう。
ここに居るのが響や蒼華ならば聞き留めておきながら、戦闘を始めていた事だろう。
しかし、この場にいるのはシェリバン・ド・ラ・リティアである。
貴族という生まれが、彼女の性格が、周りの環境が、自己肯定感の低い彼女に歪な自信を身につけさせた。
生粋の煽り厨。
煽りカスが戦う相手の言葉を聞き逃す筈がない。
煽りカスは呼吸をする様に相手を挑発する。
つまり、リティアは反応したのだ。
「あっ、貴方は私よりも弱いので陣地、守れませんよ?」
にへらっ!と笑みを浮かべて言った。
言わなくとも良いことを。
この程度の煽りならば戦闘中に相手の気を乱す為、言うこともある。
が、しかし、今回ばかりは選んだ言葉と言った相手が悪かった。
「弱い」「守れない」
ニカの数少ない地雷である。
たった2つしかない地雷を的確に踏み抜く見事な技だ。
ニカは魔術を発動する。
前情報通りの近接戦を得意とする刻印魔術。
それは、ニカの怒りに呼応する様に全身に張り巡らされ、鈍く光った。
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「これは……」
漁夫の利でも狙おうと考えていたのだが、タイミングを合わせたのか澪が俺達と同時に到着した。
澪は自身の魔力をチラつかせて漁夫の利を狙う俺らの行動を逆手に取って、到着する場所を上手い事誘導していたのだろう。
その計算し尽くされた動きの詳細を今になって気づいた。
ご丁寧に柊チームからも見える場所に誘導してくれるなんて随分とお優しい事で………
柊チームに場所が補足された今、奇襲や漁夫なんてしようがない。
澪、柊とヤンキー君、そして俺とヴィル。
そして何処かに柊チームの奴が1人隠れている。
あちらさんは襲撃に備えて奇襲用に最初から姿を隠させていた様で完全にアドバンテージを取られた。
人数差的に1人の澪が不利になるってのが当たり前なんだが────────
「さて、どうなるか」
響の呟きと同時に各々が魔術を発動し、光が爆ぜた。




