故に私は魔女になりたい。
響と蒼華は繁華街の中にあるファミリーレストランにて食事をしている。
家に連れ帰ろうと考えていた蒼華だったが、歩き出した途端に響の腹の虫が鳴った為、飯を食わせてやることにした。
「ここは何処なんだ?見た事ない建物があるんだけど」
「非魔術世界だ」
「非魔術世界ぃ?」
「なんだ?そんな事も知らないのか?」
まるで正気を疑うかの様に若干引いて俺を見てくる。
言葉の節々から彼女の言う「非魔術世界」という単語が一般常識である事は分かる。
しかし、それが何を指しているのか分からない。
自分の事や魔術、そういった事は分かるから完全に記憶を失った訳ではないのだろう。
記憶の一部分なくした。というか、記憶の一部分以外をなくしたというべきか。
そんなことを考えている俺の顔を見て蒼華は何かを察した様だ。
「記憶喪失と言った感じかな?これじゃあ私が記憶のない子供に無理矢理契約させたみたいになるな」
無理矢理契約させたみたいになるというか、無理矢理契約させたのだが彼女にとっては違うのだろうか?
蒼華は顎に手を当て考える。
それは響との付き合い方、打ち明けるべき事情・情報。
数十秒の熟考の後、口を開いた。
「私の僕には話しておいた方がいいな!」
蒼華はポテトフライを響へと向けて言った。
「響、お前、魔女って知ってるか?」
「そりゃ、勿論」
『魔女』
古くから存在する頂の魔術師。
数々の文献において魔術の祖とされる女達。
4人の女はそれぞれ東の魔女、西の魔女、南の魔女、北の魔女と名付けられ、人々に敬われ畏れられていた。
が、しかし、それも1000年以上前の話だ。
今となっては魔女も御伽話の存在である。
「その魔女に私はなりたいんだ!」
「は?」
どういう話だ?魔女ってのはなるもんじゃない。
魔女というのは天才的な女魔術師の二つ名の様なものだ。なるとか、ならないとか、なれるとか、なれないとかではない。
そんな事は蒼華も分かっているはずなのだが……。
「魔女ってのは今でも最高最強の魔術師と言われているだろ?どんなプライドの高い魔術師でも魔女の事は少なからず敬っている。まさに魔女は至上の存在であるわけだ」
「ん?まあ、そうだな」
響はハンバーグを頬張り、蒼華の言う事に少し疑問を覚えながらも頷く。
「私はそんな魔女が許せないんだ!」
つい先程までは魔女になりたいと言っていたのに今度は許せないと来た。
もう訳が分からなくなる。
「魔女は最高最強の魔術師と言われてる!私を差し置いてだ!」
その言葉を聞き、だんだん話が見えてきた。
「魔女は見目麗しかった?私の方が可愛いだろう!魔女は天才的な発想力があった?私の方が創造的思考が出来る!魔女は皆んな強かった?私の方が強いわ!ボケ!」
ファミレスで騒いでいるせいで周りから視線が集まる。店員さんも滅茶苦茶睨んできている。
しかし、まあ蒼華の言いたい事は分かった。
「私の方が魔女より上だ。が、世の人間は魔女を崇め讃える。私はそれが許せない。私が上だと皆に認めさせる」
蒼華は一拍置いて言った。
「故に私は魔女になりたい!」
「あのぉ、お客様?少しお話が…」
凄く良い演説だったのだが、ファミレスには刺激があり過ぎたのだろう。
端的に言って店を追い出された。
というか、出禁になった。
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「さっきの話に戻るんだが、私は魔女になりたい。しかし、今の私ではまだ魔女に遠く及ばない事も分かっている」
意外と現実的に物事を見れる主人の様だ。
「今、圧倒的に足りないのは知識だ。私は天才だから独学で魔術を研究していたけど、そろそろ限界がきた。だから、知識を必要としている。ならどうするべきか、簡単だ。知識の宝庫『方舟魔術学園』に入学すれば良いのだ」
ふむ、全く知らない単語が出てきたぞ。
学園とついてるのだから学びやである事は間違いないだろう。
要は、その学園で魔術について学びたいという訳か。
「大体話は分かった。最後にもう一つ聞きたいんだけど、何で俺に契約魔術を使ったんだ?」
蒼華の使った契約魔術は最上級。
互いの一生を縛る程の効力がある。
それ程のものを野垂れ死にかけている俺に使った。
異常としか言いようがない。
別に蒼華の魔女になりたいという夢に俺は必要ないだろう。
ならば何故俺を拾ったのか。
その真意が知りたかった。
「んー?なんかノリ?」
生唾を飲み、身構えていた響を嘲笑うかの様に適当な返しをした。
それを聞き、響は震える。
「ノリで他人の人生を縛るなよぉぉぉぉおおお!!」
夜の街に響の声が木霊した。