不可視の投身:再開②
「まるで異臭がしていた頃があったかのような
言い草ね。」
彼女は何故か不敵に微笑んでいる。
「…してただろ、前来た時。」
彼女の言葉をにべもなく一蹴し、足元のゴミ袋を蹴り飛ばす。
コンビニ弁当の空き容器が詰まったそれはころころと床を転がり、彼女の足元へと辿り着いた。
「私は一度も臭いと感じたことがないわ。」
彼女はやってきたゴミ袋をポン――と蹴り返す。
「…お前はこの部屋にずっと住んでいるせいで嗅覚が麻痺してるんだ…」
「そもそも女の子の部屋の臭いを嗅ごうっていうのがちょっとアレよね。」
「言うほど女の子の部屋か?――つか嗅いでねぇ、臭ってくるんだよ。」
言葉を交わすと共に二人の間をポン――、ポン――と蹴られたゴミ袋が転がってゆく。
二つの応酬がひとしきり収まると同時、稲嶺は表情を険しいものに変えた。
「紅原 璃夢が行方不明になったわ。」
自然と自分の表情が変わるのがわかった。
しかしそれは、深刻とか真剣といったものとは少しズレた、まるで全てを知っていたかのような、そして苦虫を嚙み潰したようなそれだった。
「…後輩が?」
俺の問いを肯定するように彼女は頷き、
「ねぇ、-不可視の飛び降り-の話を聞いたことある?」
その言葉を聞くと同時に、黒鋼の意識はひと月程前に遡っていた――