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異能(怪)奇譚  作者: 藍スピック
16/18

不可視の投身:二人の不死鳥


「―――飛べないんだよ、俺は。」


黒鋼は倒れた状態から上体だけを起こし、

屋上の女を()()げる。


「なぜだ、なぜだ、なぜだ!!」


女は少しだけ理性を取り戻したのか、しかし激しく狼狽している様子だ。




かつて、本田と黒鋼は不死鳥を身に宿した少女と出会い―――”その少女の最期を見届けた。”


では、不死鳥はどうなったのか。


本田武志は少女の影を心に宿し続け、やがて自らの能力を火鳥へと変貌させた。


では、黒鋼譜鳥にはどんな変化が起きたのか。


その答えこそ、黒鋼の身体から漏れだす緑色の炎だった。


―――火鳥点睛(フェニックス・レプリカ)


不死鳥は、彼の中に居る。


「なんだ、それは!」女が叫ぶ。


「それよりも―――後ろ、良いのか?」


黒鋼がぼそりと呟き、


その言葉に女が首を傾げると同時に、突如として後方が真っ赤な光に包まれた。


女が振り向く。


目の前に男が迫っていた。

赤いシャツに、灰色のネクタイを締めた男。

その右腕は真っ赤な炎に包まれている。


燃え盛る炎は、どこか羽のように見えた。


「燃えろ、


 ―――ッ鎮魂火(レクイエム)!!


その瞬間、怪異の中心は炎に包まれた。




何も無い平原を男が二人歩いている。

二人は駅に向かう途中だ。


怪異の女が炎に包まれると同時に景色が歪み、気付くと二人は平原に倒れ、近くには気を失った紅原がいた。


「なぁ黒鋼、やったのか?」


「フラグを立てるな。」


間の悪い本田の問いに、黒鋼はため息をつく。


「奴が燃え尽きて消滅したのか?って意味なら…否だ。」


黒鋼は心底うんざりした顔で続けた。


「俺達はあいつの干渉に打ち勝った。だから奴の領域の外へ弾かれた。それだけの話だ。

あの建物はきっと今でもそこにあるし、またいつか人を呑むかもしれない。」


―――あれは、そういう”モノ”としてあそこに居続ける。それだけだ。


「うわぁ…報われねぇなー。」


本田が心底嫌そうな顔で首を振っていると、



「…ん、んん…あれ、私…っ先輩?

 あれ本田も!」


どうやら後輩が目を覚ましたようだ。


「あれ?え、なんでここに…うぅん!?」


「イタタ…頼むから、耳元で大きな声を出さないでくれ…」


「あ、ごめん。って、なんで私先輩におんぶされてるんです?あれ…」


紅原はやっと状況を把握し始めたらしく、あわあわしたかと思えば急に黙りこみ、そして少し震えてから、黒鋼の肩をぎゅっと掴んだ。


「お、思い出したみたいだね。」


本田の問に頷いて、また暫くじっとしていた。


「先輩…私、その…」


「お前、毎度俺を巻き込む割には、ほんと俺の話聞いてくれないよな。」


「あ…えっと…うぅ…」


黒鋼が釘を刺すと、紅原は面白いくらいに小さくなった。


「ハァ…寝てろ。」


「えっ…先輩…?」


背中で後輩があわあわと揺れる。


「イテテ…動くなっての、まだ疲れてるだろ…帰ったら起こすから、寝てていい。」


「…あ、ありがとう…ございます…」


紅原はぎこちなく礼を言うと。

黒鋼の首元に手を回し、ほんの少しだけ。

ぎゅっ。と力を入れる。

そして、密かに赤く染まった顔を背中に埋めた。


「はぁ…こいつと関わると、毎度ろくな目に合わないなぁ。」


「まぁそう言ってやるなよ、可愛いもんだろ。」


「俺はお前と違って無敵モードとかないんだよ。」


二人は軽口を叩き合いながら歩いていった。


「てか、屋上から落ちた俺に人を背負わせるなよ…」


黒鋼がぼやく。


「いやぁ…俺にはとてもじゃないが荷が重いよ。」


「こいつ軽いって。」


「じゃあ良いじゃん。」


本田は何故か頑なに後輩を背負おうとしない。


「それともホントは重かったり?」


「…いや、軽いよ。軽い。」


回された腕に、ぎゅっ。と

少しだけ力が込められた気がした。

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