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異能(怪)奇譚  作者: 藍スピック
14/18

不可視の投身:疾走

アパートの壁を走る、駆ける、翔ける。


柱を蹴り、窓枠を踏み、柵を掴む。


90°の壁を駆け抜けていく。


屋上の女が振り向き、目を見開いた。


―――瞬間、ガクンッ。と身体がずり落ちる。


怪異による落下の干渉だ。


即座に壁を蹴りこみ更に登る、落ちる、登る。


―――駆ける。




黒鋼(くろがね) 譜鳥(ふどり)には幾つかの能力がある。異形から譲り受けた魔眼や身体硬化、


そしてもう一つ―――異能の出力だ。


かつて絶望の底にて猛烈な負の感情に呑まれた彼に発現した能力。それは心身を蝕む感情の濁流をエネルギーとして出力するチカラだった。


彼は自らの能力の研鑽を重ね、やがてひとつのシステム―――魔眼で目にし、解析した異能を元に出力する異能、現象をより細かに改造(カスタム)する機構を作り出した。


―――幻想領域(ルーズリーフ)


感情を燃料に異能・現象を生み出し、世界へ

書き込む能力。


そして水流操作(アクセル)もそれによって再現された、かつて親友だった能力者が所持する異能だ。


水分を操る能力を応用し血流を操作、脳に流れる血流を加速しリミッターを解除することで身体能力を大幅に向上させる。

これにより黒鋼は常人の十数倍もの速度で動くことを可能としていた。




「―――うおおおおおおッ!!」


落下する身体を無理矢理捻り、屋上のへりに足をかける。数多の妨害に打ち勝ち、黒鋼は遂に女と対峙した。


本田が裏手に走ってからまだ30秒程度しか経っていない筈なのに、1秒1秒が10分にも20分にも感じられる。


そんな中、黒鋼がリミッターの解除によって加速した思考を纏めるよりも早く相手が動いた。


不意に、怪異たる女が腕をあげると


その腕の中に後輩―――紅原(くれはら) 璃夢(りむ)がいた。


「…ッおい!!」


呼び掛けるが返事がない。


「おい…目を覚ませ!!」


返答がない。


紅原の胸が浅く動いているのを確認する。

気を失ってはいるが生きてはいるようだ。


だが、黒鋼は動けずにいた。

幻想領域(ルーズリーフ)も比較的神秘に近い異能であり、現状彼自身、紅原の次に干渉を受けている存在だ。繋がりが深くなっている以上、此方からも干渉がしやすくなる。


黒鋼が何らかの攻撃方法を用いれば、それは女に届く筈だ。


だが、女の手には紅原がおり、下手に動けば何をされるか分からない。要するに彼女は人質なのだ。


そんな黒鋼の心の内を読んだのか、女の唇がいっそう釣り上がる。どうにも嫌な予感がする。


「わたさない。もう、こちらのもの。」

女はそう言いながら屋上の端に近づいて行く。


「何をする気だ!」

問いの答えはなかったが、黒鋼には女が何をするつもりか予想出来てしまっていた。

「答えろ!一体―――」

女に悟られないようじりじりと距離を詰めていく。




屋上の端に女が立ち、依然その腕には紅原が捕らえられている。黒鋼は5〜6m程距離を置き、姿勢を低くして構えている。



―――ザリッ。

と、不意に後方から音がした。

目をやると本田がネクタイを整えながらこちらへ歩いてくる。黒鋼と女が睨み合っている内に屋上へと辿り着いたらしい。


「よそみ、してていいの?」


ハッとして女を見ると、腕に抱えた紅原を屋上の縁にゆっくりと引き寄せている。


「おい、よせ。」


(こいつ…!落とすことしか考えてねぇ!)


この女、恐らく元は人間だ。

死後、他者を巻き込み、取り憑き、取り込み。

大きな建物の形を形成する程成長し今の形となったのだろう。


今、この女の中は取り込む、落とすの繰り返し。

そのルーティンが大部分を占めている。


(絶対落とす気だ…そして次は俺と本田…!)


その前に後輩を確保するべく、もう一歩女へ近付こうとした瞬間、


「あなたには、すくえない。」


女が紅原を突き落とした。


「貴ッ様ぁぁぁぁぁぁあ!!!」


黒鋼が叫び駆け抜ける。再び水流操作(アクセル)を起動し、同時に目に捉える景色が遅くなる。

女がこちらを向き、何かしようと手を向ける。


が、


「やめろって…落とすなって言っただろうがこのクソ(アマ)がぁぁぁあ!!」


黒鋼は風となって女の横をすり抜け、そのまま屋上の縁を蹴りこみ、紅原の元へ駆け落ちていった。

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