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異能(怪)奇譚  作者: 藍スピック
13/18

不可視の投身:中心

何も無い原っぱの中心に忽然と姿を現した4階建てのアパート。その周辺を燃え盛る鳥が飛び回っている。傍目から見れば訳の分からない光景だ。


「じゃあ、俺は中だな。」


黒鋼は飛び立つ火の鳥を横目に見ながら、アパートの敷地内に入っていく。


見た目だけならなんてことはない、街中でよく見る形の建物だ。


4階建てで、部屋はそれぞれ06号室まで。


( 総当たりかー… )


心の中でそう呟き、真っ直ぐ101号室に歩いていく。


計三十六もの部屋を確認するのは骨が折れるが、他にやりようもないので仕方ない。


ドアノブに手をかける。


(カギが掛かってたらどうしようか。)


不意によぎる間の抜けた考えを振り払い、ノブを回す。


―――ガチャリ。と


抵抗なく扉が開き、


―――アハハハハハハハハハハ!―――


―――バタン。


閉じた。


「次に行こう。」


瞳の無い少女がクルクルと回りながら高笑いしていたことは気にしないことにした。


何せここは怪異の腹の中。この世のものでは無い存在と、呑まれ歪んだ魂の溜まり場だ。目にするものにいちいち反応していたら精神が持たない。


そのまま102号室の前に立ちノブを回す。


―――ガチャリ。と


抵抗なく扉が開き、


女が立っていた。



女が立っていた。


ほの暗い赤の服を着た女だ。

ボサボサの髪が跳ね、顔が半分隠れている。

俯いており、その表情はわからない。



この女が何者かは分からない。

だがそれでも…扉を開けた瞬間に確信していた。


「おい。」


声を掛ける。


女がこちらを向く。

闇に包まれその表情はわからない。


「お前が”中心”だな。」


―――ピタ。ピタ。


女がゆっくりとこちらへ歩いてくる。

その表情は分からない。


「どうやら俺の後輩が世話になっているようでな、迎えに来たんだ。」


―――返してもらおうか。


「…フフ。」


女が唇の端を歪ませる。


女がこちらを向く。


女が口を開く。


「かえす。ちがう。」


女の表情が見える。


「もう、わたしのもの。」


「―――ッッ!!」


ゾクリ、と戦慄が走った。


―――ぴた。


女がこちらへ近付いてくる。


黒鋼は即座に身を翻す。

玄関から飛び出し、外に転がり出て身構える。


―――ぴた。

―――ぴた。

――――――ぴた。


女はゆっくりと、滑るような歩みで102号室の扉から姿を現した。途端、


ふわり。と女が浮かび上がった。


みるみるうちに上空へ、そのままアパートの屋上へ降り立つ。


「―――ッ武志(たけし)!」


こちらの声に気付いた本田が旋回し赤い服の女へと迫る、しかし次の瞬間。


―――ドシャァ。と音がし、隣に燃え盛る火鳥が落下していた。


「おい、大丈夫か!」


変化した本田がビクリ、と反応し起き上がる。

どうやら一瞬気を失っていたようだ。


「…何が起きた?」


そう呟く表情からは余裕が消えている。


「あいつの能力だろう、恐らく”落とす”という行為に特化している。」


「…高所に居座るのは危険だな。」


本田の表情が厳しいものに切り替わる。

これでも死線をくぐり抜けてきた男だ、相手が油断ならない存在だと再認識したらしい。


「…面倒だなぁ。」黒鋼は一言呟き、身をかがめた。


「本田、アイツは俺が惹きつける。隙を突いて一発し返してやれ。」


「…了解。」

今度は省略せずに一言返すと、本田は変化を解除し建物の裏手に駆けていく。


「にがさない」


本田の行動を逃走ととらえたのか、女は屋上の奥に向かおうと歩き始めた。


「お前の相手は俺だよ。」


(ま、本命は本田なんだけどな。)


そう呟く黒鋼は気だるげな表情のままだ。

だがその目は静かに燃えている。

そのままゆっくりと身をかがめ、


「―――水流操作(アクセル)


瞬間。黒鋼は踏み込み、

アパートの壁を駆け抜けた。

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