第78話 みんなで強くなろうよ
「良かったですねえ、ベルベスタさん」
「睨むんじゃないよぉ。こればっかりは運次第だろ」
「ターンは嬉しいぞ」
「ターンは良い子だねぇ」
裏切者がいた。
まあいい。とにかく21層でみんなに合流だ。『氾濫』の原因は、あの気持ち悪い『ゼ=ノゥ』でほぼ確定だ。問題はどれくらい数がいるか。規模はどれくらいになるのかだ。
55層クラスの敵が上に来る可能性が高い。ヤバい。ヤバいぞ、これは。
「で、どうするんだい?」
「とりあえず21層でジョブチェンジをします。それから……」
「あんまり全部を背負い込むんじゃないよ」
「そりゃまあ、そうですけど」
サーシェスタさんが心配そうな顔をしてくれている。
そうだね。とりあえずみんなで話し合おう。その上でなんとかしよう。どうせわたしにできるのは、敵の情報を晒すのと、効率的なレベルアップくらいだ。あれ、ちょっとネガティブかな。
「サワ。大丈夫、ターンもいる」
「ん、ありがと」
ほんとターンは欲しい時に言葉をくれるなあ。わたしは相棒に恵まれてる。
◇◇◇
「おう。来たか」
「あ、お疲れ様です。ゴットルタァさん」
「お疲れはそっちの方だろ。半分はジョブチェンジを済ませたぞ。後は『訳あり』だけだ」
「え?」
「今んとこゾンビが主体なんだろ。で、魔法火力だ。前衛と後衛の半分を入れ換えた」
「いいんですか?」
「良いも悪いもあるかよ。サワの嬢ちゃんばっかりに負担は掛けられねえ」
やっばい。また付け上がっていた。わたしがなんとかしなきゃって、思ってた。違った。
ちゃんとみんなも考えて、最善を尽くそうとしてくれていたんだ。
「50層くらいのモンスターなんですよ」
「このままじゃあレベルを上げても勝てない。なら、それに工夫しないとな」
そう言って、ゴットルタァさんはニカリと笑った。
ああ、わたしは相棒に恵まれてただけじゃない。
クランのみんなにも、ヴィットヴェーンのみんなに恵まれてたんだ。
なんか泣けてくる。だけど、涙は拭かなきゃならない。元気出せ。士気を上げろ。
「皆さんお疲れ様です! まだまだ戦いは続きますけど、ここで大一番。多分ヴィットヴェーン初のジョブへのチェンジです。では、ベルベスタさん、どうぞ!!」
薄ら笑いを浮かべたベルベスタさんが進み出て、白い石碑にも似たアーティファクトに触れる。
皆が息を呑むようにして、それを見ている。
「ほうら、最高のジョブチェンジだよぉ!」
さっき手に入れたばかりの『大魔導師の杖』が砕け散り、そこに新たな存在が誕生した。
『エルダーウィザード』。これまで最高の魔法使いとされてきた、ハイウィザードを超える存在だ。
新魔法ももちろんだけど、ウィザード、ハイウィザードの魔法を内包して、スキル使用回数が倍になる。さらに一部ビショップの役割も果たす。そんなジョブだ。
「やったな、ばあさん!」
「すげえじゃねえか」
空元気もあるかもしれない。だけどそれでも、皆はベルベスタさんを祝福した。
◇◇◇
遅くなったけど、ここでスキルの仕様について。
大切なのは『同じ名称のスキル』は重複する。つまり、色んなジョブで得られる『強打』なんかは、4ジョブをコンプリートすれば、36回使えることになるんだ。
マルチジョブの継戦能力の源だね。ただし、使用武器によっては、使えなくなるスキルもあるので、要注意だ。
そしてウィザード、ハイウィザード、そしてエルダーウィザードとなったベルベスタさんは、コンプリートすれば、ウィザード最強魔法の『ティル=トウェリア』を27回ブッパできることになる。これは強い。
「魔法を覚えて、斬ることを学んで、速さを得て、そして最強の魔法に到達する、最高のウィザード。それがベルベスタさんです」
「いやあ、照れるねぇ」
とか言いつつ、ベルベスタさんは満面の笑みだ。
「さあ『訳あり令嬢』共、とっととジョブを変えな。レベルアップするよぉ!」
「おう!」
次々と『訳あり令嬢』たちがジョブチェンジをしていく。
まず、ズィスラとヘリトゥラがウォリアーからシーフになった。まずはとにかく、前衛の基礎能力を上げる方針だ。わたしの指示に素直に、いやズィスラはツンデレ気味だけど従ってくれている。
絶対に強くしてあげるからね。
「わたしはモンクです」
グラップラーを経て、エンチャンターからプリーストになっていたイーサさんは、とことん補助路線を突っ走るつもりだ。近接タンクができて、回復もバフもできるという、リッタのためになんとやら状態だ。
「わたくしは、ハイウィザードよ!」
リッタはカラテカ、ビショップ、ハイプリーストだ。魔法火力マシマシだね。
さて軽く巻いていくと、『クリムゾンティアーズ』。アンタンジュさんはシーフ、ウィスキィさんがビショップ、ジェッタさんはモンク、ナイトからヘビーナイトだ。カチカチだ。
フェンサーさんはパワーウォリアー、エルフなのに。ポロッコさんがヘビーナイトからシーフ、そしてドールアッシャさんはウォリアーだね。これも似合わない。
次に『ブラウンシュガー』。チャートがグラップラー、シーフからウィザード。ターン路線だね。
シローネはウォリアーからファイター、ソードマスター。こっちはわたしに似てる。うへへ。
リィスタはシーフ、シュエルカはハイウィザード、ジャリットがヘビーナイトで、テルサーはハイウィザードからソルジャー、ウォリアーだ。前衛路線に到達してる。
最後におまけで、ダグランさんがエンチャンターからウィザードで、何気に後衛3役。ガルヴィさんは、これまたビショップからエンチャンターって、何この二人。もう後衛の鬼じゃない。なんでもできるぞ。
◇◇◇
「サワ嬢ちゃん、ジョブチェンジが終わったんなら相談に乗ってくれ」
「どうしました?」
「迎撃地点だ。俺らは28層が良いと思う」
ゴットルタァさんの言うことには、28層は27層への階段手前に5本ほどの通路があるそうだ。あんまり気にしてなかった。いつもスルーだったんで。
で、そこでパーティを分割して迎撃することで、安全にレベルを上げる。沢山の敵に囲まれないような地形ってことか。反対する理由も無いし、賛成。
「分かりました。4パーティをそれぞれに回します。そこでさらに分割して他のクランと合体させましょう。2人くらいずつです」
「助かるぜ」
要は、襲ってくるオーバーレベルの敵をなるべく安全に迎え撃って、一気にレベルを上げる作戦だね。
「ターン、わたしはズィスラ連れてくから、そっちはヘリトゥラをお願い」
「ん」
「リッタとイーサさんは一緒で他のパーティを率いて。魔法は撃ち放題」
「分かったわ!」
同じように『ホワイトテーブル』『クリムゾンティアーズ』『ブラウンシュガー』そして『緑の二人』を振り分けて、これで5経路を塞ぐことになる。
特に『緑の二人』は硬くて魔法のエキスパート状態だ。さぞや活躍してくれるだろう。
「地上への連絡は?」
「ああ、『ラビットフット』を出した。とにかく後衛を連れてこいってな」
ゴットルタァさん、わたしより考えてるじゃん。これなら安心だ。
「補助ステータスが吹っ飛んで身体が重たくなります。慣れてください」
「簡単に言ってくれるぜえ」
「だけど後で、更に強くなって取り返せます。良い機会だと思って諦めてください」
「わあったよ!」
◇◇◇
「きたぞぉ! 31層のモンスターに兎やらゾンビやらもだ。バケモノはいねえ!!」
28層で陣取って3時間くらい。遂に来た。
「ゼ=ノゥを見たら、絶対に戦闘しないで引いてください!」
「わかってるよぉ」
「それじゃあ戦闘開始です。ゾンビとボーパルバニーは魔法で遠距離から、ロックリザードとか31層モンスターは、氷で脚を止めてから攻撃です。エンチャンターはバフ忘れずに。プリーストは状態異常に気を付けてください!」
「おう!」
「前衛はボーパルバニーにとにかく注意です。死んだら許しませんからね!」
「怖え怖え。前も後ろも怖え」
うるさいわ。
「さあ、レベルアップ祭りですよ。じゃんじゃん稼いで、どんどんジョブチェンジしてください!」




