第44話 新たな訳ありたち
「ソルジャーになる!」
「おれもソルジャー!!」
チャートとシローネが元気よくシッポを振り回しながら宣言した。
そう、彼女たちはついにやったのだ。レベル22、メイジをコンプリートだ。
不得意な分野だけど、文句ひとつ言わずに只ひたすらレベルを上げた。特にマーティーズゴーレム狩りでは完全な役立たずだけど、それでも戦いを見つめていたんだ。
しかもここでソルジャーを選択するということは、徹底的に下級ジョブを鍛えるって意思表明だ。凄い精神だと正直思う。シーフになりたいだろうし、なんならファイターでもウォリアーでもなれる。だけど彼女たちはそれを選ばなかった。
ヤバいね。もしかしたら将来の最強は二人かもしれない。負けてられないよ。
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JOB:SOLDIER
LV :0
CON:NORMAL
HP :17
VIT:16
STR:15
AGI:16
DEX:17
INT:14
WIS:12
MIN:16
LEA:12
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チャートがこれ。
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JOB:SOLDIER
LV :0
CON:NORMAL
HP :17
VIT:17
STR:14
AGI:17
DEX:17
INT:13
WIS:12
MIN:17
LEA:11
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そしてシローネがこんな感じだ。
普通? ふざけんな。初期ジョブならなんにでもなれる数値だよ。こんな数値をどれだけの人が持ってるのか。ターンとわたしがちょっと異常なんだよ。
「二人とも明日からまた、レベル上げるよ。覚悟はいい?」
「どんとこい!」
「やるぜ!」
ほら、この心が彼女たちを強くするんだ。
◇◇◇
「来たったあ!」
チャートとシローネのレベルアップでカエルを狩っていたら、わたしもレベルアップした。カエルでっていうのがちょっとしまらないけど、わたしらしいかもしれないね。とにもかくにも、サムライスキルコンプリートだ。
そうさ、わたしもコンプリートだ。レベルは21だね。本来だったらここでジョブチェンジしないで上を目指すんだけど、ターンとの誓いもある。ここはひとつ、遠回りも悪くない。
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JOB:SAMURAI
LV :21
CON:NORMAL
HP :32+88
VIT:25+26
STR:26+43
AGI:19+30
DEX:22+46
INT:31
WIS:19
MIN:18+25
LEA:17
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「よっしゃあ、じゃあわたしはファイターやるよ!」
「いいのか?」
「当然! わたしはすっごく強くなるよ」
「負けないぞ」
◇◇◇
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JOB:FIGHTER
LV :0
CON:NORMAL
HP :40
VIT:27
STR:30
AGI:22
DEX:26
INT:31
WIS:19
MIN:20
LEA:17
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「はい、ジョブチェンジ終了です」
「ありがとうございました」
その日の夕方、わたしはファイターになった。斬撃武器専門の前衛職だね。
ターンと比べたら、前衛系ステータスは低いけれど、後衛なら負けてないぞ。INT31は伊達じゃない。十分人外の領域だ。
この段階で、サムライの2次ジョブには行けるくらいだ。実はMINがぎりぎりだけど。ただしアイテムが足りない。世知辛いね。
さて、現在の状況はと言えば、わたしがファイターレベル0、ターンはウィザードレベル10、ベルベスタさんがソルジャーレベル12、ハーティさんはウィザードレベル14、最後にチャートとシローネがソルジャーのレベル7って感じだ。
わたしさえレベルを上げれば、実は結構まともなパーティになる。回復は薄いけど、前衛4、後衛2って感じだ。
そうして、5層で少しカエル狩りをした。この段階でわたしはファイターのレベル5だ。そしてそのまま9層へと向かう。
「『BFW・SOR』『BFW・MAG』!」
わたしが全体バフを掛けてから、戦闘開始だ。
容赦なく吹き荒れる攻撃魔法の雨あられ。実質ウィザード5人という、魔法戦隊だ。
「いやあ、サワ嬢ちゃんの思惑がよく分かるよ。前衛ができるウィザードって最高じゃないかぁ」
「これがマルチロールの面白さですよ」
ベルベスタさんが楽しそうで何よりだ。
魔法を掻い潜ってきた敵を、わたしが切り刻む。ターンがスタッフで殴り倒す。おっかなびっくりだけど、ベルベスタさん、チャート、シローネも切っていく。
そうそう、今のうちに近接戦闘にも慣れてくださいな。プレイヤースキルは大切ですよ。わたしも人のこと言えないけど。
◇◇◇
夕方には迷宮を出て、冒険者協会へと向かう。わたしのレベルは8になってホクホクだ。迷宮からの帰り道、夕日がなんとも美しい。冒険者やってるって感じが良いねえ。
そういえば迷宮の近くに素材買取所を作るって話、どうなったんだろ。
「あれ?」
「よう、そっちは戻りかい」
途中ですれ違いかけたのは、アンタンジュさんたち『クリムゾンティアーズ』のフルメンバーだった。
「ええ。みなさんは遅かったですね。いつもなら、って?」
そこで気づいた。彼女たちの後ろに4人、小柄な人影があったんだ。
「紹介するよ。こっちから、リィスタ、シュエルカ、ジャリットそしてテルサーだよ」
順にヒューマン二人とドワーフ、エルフだった。全員ターンと同年代ぐらいに見える。まあ、ドワーフとエルフはどうか分かんないけど。
それにしても、凄まじくみすぼらしい格好だ。これはアレかな? 探る眼を送ってみた。
「そうだよ。クランハウスで紹介するつもりだったんだけどね」
「じゃあまず、お風呂と食事ですね。お願いできますか?」
「ああ、そっちは協会かい?」
「そうですね。ゆっくり戻ります」
「おう」
ついに新メンバーか。遂にって言うのは、当初想定していたルートからの加入ってことだ。格好や姿かたちからして見ても、ヤバい状態だったんだろう。そういう人を優先して受け入れる覚悟で立ち上げたクランだからね。
さあ、彼女たちは令嬢になれるかな?
クランハウスに戻ったら、意外とさっぱりした4人が居た。服も買ってもらったんだろう、ターンたちのはシッポ穴があるから使い回せないもんね。
「さあ、あんたら。食事の前に挨拶だ」
「後にしましょうよ。わたしもう、お腹減っちゃって」
「ふふんっ、そうかい。じゃあそうするか」
半分嘘だけどね。あの状態で自己紹介させたら、涎で大変な事になりそうだっただけのことさ。っふ、わたしがそんな風に気を遣うなんてねえ。
「リィスタ、です。よろしくです」
茶色の髪に茶色の瞳、こっちでごく普通のヒューマンって感じだ。
「シュエルカ……。よろしく」
茶に近い金髪に青い瞳のシュエルカもまた、よくいる風貌のヒューマン。
「……ジャリット」
ドワーフは無口なのかな。だけど大工のおっちゃんは饒舌だったっけ、ジェッタさんに似てるかな。黒に近い茶髪で、黒目の小さな子。クランの中で一番背がちっちゃいね。
「テルサーです。よろしくお願いいたします」
エルフのテルサーはちょっとハキハキしていた。金髪に緑の瞳。ここはフェンサーさんとよく似ている。だけど、肌がやや茶色い。まさかこっちにもいるのか、ダークエルフ?
「さて、どう思う?」
「どうって、誘ったんですよね」
「ああ。『クリムゾンティアーズ』は全員賛成だ。サーシェスタさんも賛成してくれた。後は『ルナティックグリーン』だけだな」
「あたしゃ外様だ、皆に従うよ」
ベルベスタさんがまず言った。そう言わずにさ。今はクランメンバーなんだから。
「彼女たちの出自は?」
「裏は無いよ。どこから連れてきたかはご想像どおりだ」
なるほどと彼女たちの目を見る。リィスタとシュエルカは気が弱そうだ。ジャリットとテルサーは、逆に気の強そうな、ギラギラとした瞳をしている。
「……強くなって、お金を稼げるようになるって聞いた」
ジャリットだった。
「わたしとジャリットだけでも入れてください。リィスタとシュエルカはわたしたちが守りますから」
「だめだよそんなの。今日、知り合ったばっかりなのに」
テルサーの台詞にリィスタが被せた。
「お願い、入れて。頑張るから」
シュエルカの瞳にも力が入った。
答え? 答えなんて決まっているじゃないか。わたしもターンたちも、ハーティさんと頷きあった。




