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さあ、とことんレベルアップをしよう! ‐薬効チートから始める転生少女の迷宮譚‐  作者: えがおをみせて
第2章 クラン設立編

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第38話 ルナティックグリーン




「大丈夫ですよ。兄には話を通しておきますから」


 それが去り際に残したハーティさんの言葉だった。心からありがとうございます。



 2日後、わたしたちは引き渡されたクランハウスに引っ越した。

 これはこの世界に慣れ切っていないわたしの感想だけど、なんかこう凄かった。申し訳ないけれど、フォウライトとは比べ物にならない。


 まず目に入るのは、ストーンゴーレムの岩を基礎にして、メインはマーティーズゴーレムの木材がふんだんに使われている大扉と、そこからのエントランスホールだ。この世界の様式では珍しく、中央奥に上座はあるものの階段は設置されていない。そもそも、普段使いは表門から入ることも無いだろう。

 両脇の壁には大きな窓が取り付けられていて、そこにはグラスラビットのドロップたるガラスの欠片から作られた、ステンドグラスじみたガラスがいくつも並んでいる。


 1階の右側には厨房、左側には大浴場だ。中央から奥には客間や、応接施設が整えられている。



「2階はクラン専用なんですよね」


「ああ、とにかく1階は派手に、2階は普段使いって注文だったからな」


 案内をしてくれているドワーフの棟梁が説明してくれた。


 エントランスの両脇に小さく設置された階段を登って、2階となる。この建物を上からみたら『H』状だろう。1階の中央がエントランスと応接で両奥が、大浴場とキッチン、倉庫。手前側が客室になっている。

 2階はトイレを除けば、中央に各種執務室や会議室、それ以外はこれまたキッチンと食堂、倉庫。両脇は個室が並んでいる。ここが、わたしたちの住居になるわけだ。


 2階の窓からは、裏庭に当たる場所に芝生が敷き詰められている。体操とかランニングの基礎トレーニングに使う予定だけど、基本はドッグランだ。柴犬娘3人衆は大興奮だ。

 残念ながら、巨大家庭菜園は後回しだ。籠城時の食料自給に不安が出るね。


 そしてとっておきの地下施設だ。実はここには1階からはたどり着けない。2階の奥から直通の階段が用意されているんだ。わたしの発案だよ。



「こりゃ凄い。迷宮モドキってとこかい?」


「そういう感じですね」


 サーシェスタさんが感嘆している。書類では知ってても、現物を見るのは初めてかな。

 中央部にメインの訓練場になる大広間があって、そこから四方に通路が延びている。趣旨は勿論迷宮での戦闘だ。四方を岩に囲まれた空間と、それで出来上がる影や死角なんかは、現物で体感しておくのが一番だ。だから、そうなるようにお願いして造ってもらった。

 何体のストーンゴーレムが犠牲になったのか、あまり考えたくないね。



 ◇◇◇



「いやあバッチリですよ!」


「そうかい、嬢ちゃんの要望は中々のもんだったからなあ、応えられて良かったぜ」


 最後に個室の一つ、モデルルームみたいなものかな、それを見せてもらったわたしは大満足だった。マーティーズゴーレムの木材で造られたベッドとクローゼット、小さなテーブルと椅子が2つ。そして布団は、バーサークシープのドロップから作られた、羊毛布団だ。

 言っちゃなんだけど、これだけで冒険者の宿の個室を超えている。自分たちの住環境と見栄のためとは言え、頑張ったなあ。



「んじゃ、パーティを楽しみにしてるぜ」


 そう言ってドワーフの皆さんは立ち去っていった。クラン設立パーティには彼らも呼ぶ予定なんだ。それどころかもう、ちょっとでも接点のあった連中は全員呼ぶことにした。平民率を上げることで、相対的に貴族率を下げるという考え方だ。

 その陣頭指揮は、この度晴れて『筆頭事務員』となったハーティさんが仕切っている。


「ハーティさん、クランハウスですけど、どうでしょう?」


「ええ、丁度良い感じだと思いますよ」


「丁度いい?」


「ええ、クランハウスとしては豪華ですけど、貴族にしてみればちょっと劣る程度の、絶妙の仕上がりだと思います」


 げげっ! そっか、貴族様からしてみれば、平民のわたしたちが入るクランハウスが、自分のとこより良いっていうのはマズいかあ。危なかった。考えてなかったよ。あれ?


「ってことは、サーシェスタさん?」


「ああ、設計段階で分かってたからねぇ。別に口出しはしなかったよ」


「予め言っておいてくださいよ。心臓に悪い」


「貴族は20層より下の素材を好むからねえ。別に言う必要なんか無かったよ」


 まったくもう。



 ◇◇◇



 各人の個室も決まった。ただし、ターンとチャート、シローネは3人で一部屋を選んだようだ。それはそれで楽しそうだけど、たまにはわたしの部屋に泊まりに来ても良いからね。


「そういや、料理はどうすんだい?」


 アンタンジュさんの発言は看過できないものだった。


「大丈夫ですよ。当面は私とウィスキィさん、ポロッコさん、ドールアッシャさんで担当しますから」


「ありがとうございます!」


 流石はハーティさん、そこまでちゃんと考えてくれていた上に、根回しまでしてくれてた。やっぱりこういうところはしっかりしてるなあ。良い買い物、もとい、良い仲間に恵まれた。



 そんな感じの夕食の後、テーブルはそのままに今後の方針について、打ち合わせになった。


 まずは部隊編成だ。


 1番隊は『クリムゾンティアーズ』。メンバーは言わずと知れた、リーダーはアンタンジュさん、副リーダーはウィスキィさんで、ジェッタさん、フェンサーさん、ポロッコさん、そしてドールアッシャさん。

 これまで通り通常の迷宮探索は彼女たちにお任せだ。


「マスターレベルまでは上げやすくなったし、ちょっとジョブチェンジも考えたいねえ。お勧めはあるかい?」


「うーん、ウィスキィさんはどうしたいですか?」


「え? わたし? あんまり考えていなかったわ」


「わたしが想定するとなると、回復をあと1枚か2枚。後衛火力を1枚、そんなところですね」


 この世界での戦闘はゲームと違って、前衛後衛の実質的な違いは役割程度の差でしかない。だから後衛ができる前衛がいても良いし、逆もそうだ。



「そうかぁ、あたしはこのままファイター路線だけど、ウィスキィをロードにするってことかい?」


「そうですね。後、後衛の皆さん方で、フェンサーさんかドールアッシャさんがプリーストかビショップに、ってところでしょうか。ポロッコさんはウィザード、モンク、ビショップ、エンチャンター、なんでもアリですね」


「直ぐに出す結論でもないさ」


 ご意見番、サーシェスタさんの出番だ。


「いっそコンプリートレベルまで粘るのも手じゃないかい?」


「何年かかるんだか」


「そこはほれ、サワがなんとかするさぁね」


 わたしはレベルアップアイテムじゃないよ?



 そして2番隊、教導隊兼任の『ルナティックグリーン』。メンバーはわたしとターン、チャートとシローネ、そしてハーティさんだ。彼女も冒険者として経験を積みたいと申し込んできたんだ。そんなハーティさんの望みを叶えつつ、こっちはチャレンジングにジョブチェンジを繰り返す予定だ。


 名前? 周りの皆が『グリーンデーモン』だとか『グリーンモンスター』だとかを薦めてきたから、捻くれて中二的にした結果だよ。格好良いじゃん。

 いつかチャートとシローネが独立したら、ブラウンなんとかってパーティ名になるかもね。



 それ以降も年長組はお酒で歌い出すし、それっぽいクランルールが必要だって話になったり、いやその前に理念だって議題も出たりした。

 クランハウス入居1日目は、楽しい夜になった。結局その日、わたしの部屋にやってきた柴犬耳3人娘と4人でベッドに入ることになったわたしだった。



 ◇◇◇



『訳あり令嬢たちの集い』誓い。


 ひとつ、令嬢たらんとする心が令嬢を生み出す。努力を忘れるな。

 ひとつ、そのための変化を恐れるな。改革を躊躇うな。

 ひとつ、訳あり令嬢たちは仲間であり、家族である。

 ひとつ、それ故、不義理を働くな。相手を許せ。離れても、別れても絆を忘れるな。

 ひとつ、だからこそ、楽しく、笑いながら生きようじゃないか。それが冒険者だ。



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[良い点] ルナティックグリーン 緑色の狂気 ぴったりだこと
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