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さあ、とことんレベルアップをしよう! ‐薬効チートから始める転生少女の迷宮譚‐  作者: えがおをみせて
第2章 クラン設立編

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第32話 わたしとターンの、割と普通な冒険者としての一日




 どごおん、ばがあんと迷宮に重たい音が響き渡る。源はわたしの繰り出す斬撃だ。スキル『斬岩』。ストーンゴーレム特効とも言えるスキルだ。今わたしの使っている剣は、例のサモナーデーモンがドロップしたもので、実際、超高級品だ。

 ゲーム的表現で言えば、ツーハンデットソード+4相当かな。


 タンクはターンがやってくれている。鈍重なゴーレムに対し、素早さが尋常じゃない彼女は、完璧な避けタンクをこなす。


「当たらなければ」


「止めろし」


 そういう定番台詞を最後まで言わせるわたしじゃあない。

 ターンもわたしもたった1日だけだけど、ウォリアー経験がある、しかもコンプリート。いざとなれば、『頑強』でも『破岩』でも、なんなら『渾身』『爆砕』も使える。強い。



 ここはヴィットヴェーン迷宮の第11層だ。

 いくらマスターレベルとはいえ、二人パーティで訪れるような場所じゃない。だけど、わたしたちは例外だ。4種のジョブスキルをマスターしたわたしとターンにかかれば、これ以上はフラグになるから止めておこう。とにかく大丈夫ったら大丈夫なのだ。


「おおっ、宝箱だね」


「まかせて」


 ターンが宝箱の開錠を失敗する確率は限りなく低い。ついでにわたしが『シーフォ』(鑑定)まで掛けているから万全だ。


「何が出るかなー。ウェポンが良いなー。もうソードは嫌だなあ」


「出る出れ出ろー」


 カチャカチャとやっていたターンが、ぱっくりと宝箱を開いた。


「石の兜」


「首が折れるわー。いや、STRあるからイケるけど。なんか嫌だ」


「ドワーフのおっちゃんにあげよう」


「いいね」



 ◇◇◇



 10層から5層までと、5層から1層までの昇降機を使って迷宮を出たわたしたちは、まず新クランの敷地に向かう。そして確保した高級石材を降ろした。

 この世界の住民はみんなインベントリを持っているから、迷宮産で高価で同じものを大量に放置するのは非常に危険な行為だ。実際、1回石材をパクられた。まあターンが匂いを辿ってとっ捕まえた上に、説教をかましたので、事なきを得た。


 それ以来、敷地の入り口に『月夜ばかりじゃない』という看板を掛けたところ、一切そういう事例は無くなった。めでたしめでたしだ。



「ふんふふふ~ん」


「ふんすふんすふ~ん」


 わたしとターンは冒険者協会を目指す。石以外で手に入った素材の売却なのだ。


 査定カウンターではいつもの素材査定担当者さんが、にこやかな笑顔を見せていた。ちなみにカウンターの上には『レッサーデーモンの皮、買い取り1日1枚まで、先着順』なんて看板が掲げられている。どういうことだろう。


「本日はどのような素材ですか?」


「えっと、主役はジャイアントビートルのツノですね。それと」


 なんてやり取りをしながら、素材を放流していく。11層のともなれば、それなりの金額になるのだ。


 レベルを上げて、お金を貰える。冒険者って最高の職業じゃないか?



「ミルクを」


「ミルク」


 素材を売ったお金で飲む牛乳は最高だね。だけど、どうして誰も絡んでこないんだろう。おかしいな。何かむしろ、すっごい自然に溶け込んでいるような感じがある。おかしいだろ。だってミルクだぜ。


「おい、嬢ちゃん」


 ん?


「聞いてんのか? おい嬢ちゃん」


 来たか? これはアレか? 来たのか? とりあえず聞こえていないフリだ。こういうのは様式美というのが大切なんだ。


 どごん!


「ターンの後ろに立つな」


 台無しだよ、ターン……。


 わたしはターンに吹き飛ばされた人を助けに向かった。



 ◇◇◇



「いやあ、すげえ一撃だったぜっ!」


「それほどでもない」


「ターン」


「ごめんなさい」


 いやあ、頑丈な人で良かった。

 なんでもレベル17のファイターらしくって、ギリギリでガードが間に合ったらしい。


 とりあえずこの人と、それからパーティの皆さんを接待して誤魔化すことにしたんだ。今日はわたしの奢りです。飲んでください。できればさっきの出来事を忘れてください。


 彼らの名は『暗闇の閃光』。中々に香ばしい感じだ。アベレージレベル15の上級者パーティだった。


「あんたら『緑の悪魔』と『悪魔の黒狼』だろ?」


「むふんっ」


 人をカップ麺みたいに言うな。あと、ターン。誇らしげにするな。


「その呼び方はどうかと思いますが、そうかもしれません」


 接待だ。接待したことないけど、これは大人への階段なんだ。


「そ、そうか」


 何か相手がビビってる。気づかないうちに圧を放っていたのかな? やるな、わたし。


「それでな、噂で聞いたんだが、最近サムライになったって」


「そうですよ。今はサムライやってます」


 いいね。サムライやってます。格好良い台詞だ。ジョブチェンジの度に使おう。


「シーフをやっている」


 ターンにも届いたかあ、この想い。


「あ、ああ、そうか」


 いかん。このままじゃ本題が訪れないぞ。ってかもう分かっているんだ。ソレだろ。その手に持っているブツだろ?



「あの、それはなんですか?」


「ああ。それが言いたかったんだ。今日、13層で宝箱を見つけてな」


「ソレが出たってことですか」


 若干食い気味になったが、仕方あるまい。だってそれは『細くて弯曲している剣』だったのだから。シャムシールでしたってオチじゃあるまいな。


「ああ、カタナだ」


「言い値で買いましょう!」


 目の前でインベントリから、レッサーデーモンの皮と肝をドサドサとばら撒いた。


「いやいやいやいや。そんなブツ出されても困る」


「じゃあ、どうすれば……。まさかっ」


 わたしはターンを抱き寄せた。ひしっとターンもわたしにへばり付いて、何故か目の端に涙を溜めた。見事としか言いようがない。

 そして『暗闇の閃光』に二人いた女性メンバーの視線が、リーダーたる男に刺さる。どうだ?


「止めてくれ! そうじゃないんだ!」


 ついにその冒険者リーダーは音を上げた。


「適正価格だ。ボータークリスに卸す値の1割増しでいい!!」


「乗った!! ただし、2割増し!」


 意地悪はここまでだ。


「いいのか!?」


「いいですよ。こんな素敵なモノ、感謝しかありません。ついでに、今後ともご贔屓に」


「はははっ、商会の旦那かよ!」



 ◇◇◇



『ナマクラブレード』


 はっきり言って最低の刀だ。だけど、わたしは手に入れたんだ。コレは、サムライがサムライであるための魂だ。


 その日の夜、宿に戻った私は上機嫌で『ナマクラブレード』を抱いて眠った。ターンは拗ねた。



「とうりゃああ!」


 翌日、わたしは絶好調だった。なんたって、サムライが刀を手にしたのだ。攻撃力自体はダウンしたけど、魂は位階を駆け上がった。なんかターンが不機嫌そうだけど、いい加減機嫌直してよ。


『一閃』『連突』『残心』『大上段』『斬岩』『気合』『攻防一体』『連閃』『4連突』『継ぎ足』『克己』『後の先』『居合』『斬鉄』『八艘』『明鏡止水』『守破離』。

 マスターしたサムライスキルを全て試していく。標的はストーンゴーレムだ。


「あはははっ。やっぱサムライは刀でしょっ!!」


 ぱきぃぃん!


 そしてたった1日で、刀は、サムライの魂は砕け散った。耐久力が足りなかったんだ。わたしはその場にがっくりと崩れ落ちた。ターンが居なかったら、そのまま死んでいただろう。ターンには感謝しかない。

 だけど、ターンが黒い笑みを浮かべていたような気がしたのは、気のせいだろうか。


 そんなことはあり得ない。ターンは清い心を持ったわたしのバディなのだ。そうに決まっているんだ。


「サワはターンが守るぞ」


 そうだよね。有難う、ターン。だけどなんで口元がひく付いているのかな?



 その日の夕方、折れた刀を一応ドワーフの親方に見せてみた。


「ダメだな。芯から折れてる」


「だよねえ」


 わたしは泣いた。サムライの魂が、まさか1日で砕け散るとは。


 そんな時だった、ターンが私に提案してきたのだ。


「ターンの村に行ってみないか? モンスターの素材とか、稼いだお金で色々買いたい。サワがいると助かる」


「行く」



 ああ、サムライの心は折れても、わたしはターンに必要とされていたのだ。こんなに嬉しいことは無い。



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― 新着の感想 ―
[良い点] >『月夜ばかりじゃない』 『緑の悪魔』と『悪魔の黒狼』の土地に書いてあったら怖すぎる [一言] なまくらブレード カタナー1ぐらいでしょうか
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