第194話 再び王都へ、オマケ付き
「サワ、どこまで本気なの?」
「ん、なにが?」
「お父様に対する不信というあたり」
「全部本気だよ」
ターナとランデのみならず、『ライブヴァーミリオン』と『クリムゾンティアーズ』たちの顔が青ざめた。ハーティさんは平気そうだけどね。
「お父様は貴族の常識に従って行動したはず」
「というと?」
「ケルトタング伯爵に支度金を渡したと思うの」
なるほど、そういうことか。支度金を受け取ってまで、さらに抜きやがったわけね。
「ですからお父様は」
「ダメだよターナ。確かに貴族の常識を甘く見てたわたしも悪い。そこは自覚してる」
「なら」
「ハーティさんならわかる?」
ハーティさんに振ってみた。どれくらいわかってくれてるかな。
「サワさんの気質を知った上で、ケルトタング伯爵を寄越したわけですね」
彼女が淡々と語り始めた。
「中抜きを許容する程度でサワさんが怒ると考えなかったとしたら、そこが甘い。もしくはそこまではしないと伯爵をそう見ていたなら、部下のことをわかっていない。どちらにしろ人を見る目が無い」
辛辣だけど満点だよ。
ターナとランデが引きつってるけどね。
「ただひとつ、サワさんに言っておかなければならないことがあります」
なにかな。
「ヴィットヴェーンは辺境で、貴族と民が近いのです。それでも身分差は明確。それが中央ともなれば」
「つまり、王都じゃあんな行動が普通で、目くじらを立てるわたしが変だって思われてるわけだね」
「……そのとおりです」
「ありがとうございます。勉強になりました」
道中でそんな会話をしてたら、クランハウスに到着だ。
相変わらずハーティさん以外は顔が青いけど、まあ晩御飯を食べて落ち着こう。そうしよう。
◇◇◇
「殺すのか?」
「物騒だよ、チャート」
夜になったところで『訳あり』の怒りは収まってない。特に同世代の年少組は酷い。こっちが冷静になっちゃうくらいだ。
「子供たちはどうです?」
「風邪をひいた子が何人かいるくらいだねぇ。こまめにヒールしてあげれば直に治るさぁ」
ベルベスタさんが言った。怒りを隠すのは大人の仕事だね。
「じゃあそっちはマーサさんと『オーファンズ』でなんとかなりますね」
なんせ、施設の子供たちは全員がプリースト持ちだ。持ち回りにすればどうとでもなるんじゃないかな。
「いっぺんに500人ですけど、そちらは」
「箱は大丈夫だねえ。先に手掛けておいてよかったよ。食料の方だけど『オーファンズ』が張り切ってる」
「無理はしないように伝えてください」
「あいよお」
そっちはサーシェスタさんに任せておけば大丈夫か。
サワノサキ領政はハーティさん、孤児の手助けはベルベスタさんとサーシェスタさんってことで、話はまとまった。
「おれたちもやるぞ」
「やります!」
シローネとテルサーも気合を入れた。
「じゃあブラウンシュガーは73層でコカトリス狩りだね。アレ美味しいし」
「おう」
「さてそれ以外は」
そこでカランカランとドアベルが鳴った。来客も多いし、新しく作ってもらったんだよ。
◇◇◇
「貴族としてはまあ、下の上ってところかな」
「アレで、ですか」
「君には合わないだろうね」
来客はもちろんポリィさん一行だった。まず、治療に参加しなかったのを謝られたよ。顔を晒せないもんねえ。
「迷宮総督は王陛下の指示なしでは動けない」
ポリィさんは王都に行けないってことだ。
「まあ、一筆したためるくらいはするだろうね。そうでもしないと君が暴れかねない」
人をなんだと思ってるのか。貴族からしてみれば、危険人物なんだろうなあ。
「第5王子殿下は君を支えると決めた。決めたからにはこの程度の案件、まとめてみせるだろう」
「心強いお言葉です。それとレベリングは一旦中断です」
「仕方ないさ。ベースキュルト卿がうるさいんだろう」
そうなんだよねえ。
「ベースキュルト組は『クリムゾンティアーズ』と『ブルーオーシャン』が担当します。『ブラウンシュガー』は当面、食料集めですね」
「なるほど。では王都行きは『ルナティックグリーン』と『ライブヴァーミリオン』ということだね」
「はい、そうなります」
「本当に食料は大丈夫なのかい?」
「『サワノサキ・オーファンズ』がいます。メンバーは現在300名を超えますね。他領から買い付けるだけの資金もありますし」
「恐れ入るよ」
どうだまいったか。サワノサキ領の力を甘く見ないでくださいな。
「本題に戻るけど、落としどころはどのあたりだい?」
「王陛下と第1王子殿下には、わたしの人となりを知ってもらえれば、それで十分です」
「それは中々骨が折れそうだ。ケルトタング閣下は?」
「何かしらの罰を受けた後は、二度と会いたくないですね」
「その罰というのが難しいところだ。君の考えは?」
うーん、どうしよう。
「いいよ。私がそれらしいのを奏上するから」
「お任せします」
どうするんだろ。まあ、信じてみるか。
「あ、それと残り3日、みなさんはファイターやってからソードマスターです。ちゃんとレベル上げておいてくださいね。目標はわたしたちが戻ってくるまでに、レベル40です」
スケさんカクさんががっくりと肩を落とした。
◇◇◇
「私にこんなことをして、ただで済むと思っているのかあ!」
「さあ、どうでしょう」
荷車には、ケルトタング伯爵と取り巻きの男爵だかふたりを括りつけてある。繰り返す、縄で縛って乗せた。暴れたからね。仕方ないね。
護衛の騎士さんたちはターンたちの威圧と、ターナとランデの持つロイヤルオーラで動けないでいる。
「サワさん、すまねえ。貴族様に逆らえなかった」
「いいんですよ。聞いてます。こっそり食料あげてたんでしょう」
「罪滅ぼしにもならないけどな」
移動に同行した冒険者さんたちの言い訳だ。まあ、仕方ないよね。
「しばらくはヴィットヴェーンで鍛え直すよ」
「いいですねえ。ヴィットヴェーンは凄いですよ」
「ああ、昨日潜って驚いたわ。子供たちだらけだった」
それ『オーファンズ』のことだよね。アレは例外だよ。
「じゃあ出発しますか。王都まで3日で行きますよ。『ライブヴァーミリオン』、今回は助けませんからね」
「わかっているわ。わたくしたちだって強くなったから」
「おまかせだよー」
ターナとランデが一番心配なんだけどなあ。
この時点で、わたしがヤギュウのレベル68、ターンはついにエルダーウィザードの42、ズィスラはグラディエーターの46、ヘリトゥラはラドカーンの88、キューンはフェイフォンの41で、ポリンがウラプリーストで45だ。
対する『ライブヴァーミリオン』は、クリュトーマさんがウラプリーストのレベル43、コーラリアはハイニンジャの42、ユッシャータがホワイトロードの24、ケータラァさんはビショップの46。そしてターナがナイチンゲールのレベル34でランデはガーディアンの34だ。
なにげにこの12人、全員がエルダーウィザード持ってるんだよね。『訳あり』式ジョブチェンジの申し子たちだ。『ライブヴァーミリオン』はまだまだだけど、王都まで駆け抜けるくらい、できるよね? できなくてもやるけど。
「このようなモノを私に食べさせる気か」
「いえいえ、わたしたちも同じものを食べますよ。公平でいいですね」
昼食は少々の野菜とモンスター肉の入った麦粥だ。どこに不満がある?
栄養点滴よりよっぽどマシだろうに。
「食べたくなければご自由にどうぞ。ただしこれから王都まで3日間、3食ずっと同じですからね」
「おぼえていろ、おぼえていろよ。殿下と陛下に全てを伝えるからな!」
「全く同じ言葉をお返ししましょう。全てを伝えますよ」
さてここで質問だ。
「なあ、ケルトタング卿。わたしは怒ってるんだ。その上で聞け」
「なにを言うか。貴様のこの暴虐、王家が見逃すはずがない!」
まあ、たしかにアンタは第1王子の派閥だしね。だけどさ。
「アンタにポンと金塊を渡せる財力。それを簡単に狩ってくる暴力。ターナやランデ、王女たちを従わせる権力」
言い過ぎかな。まあいいや。
「どれかひとつでもケルトタング卿、アンタがわたしに勝てる要素があるか?」
「ぐ、ぐむう」
なにがぐむうだ。
「政治だぞ。これは政治問題だ。王陛下と第1王子殿下がわたしとアンタ、どっちを選ぶかの問題だ。ちょっとでも想像力があれば、答えは明白だろう」
王都までの道のり。震えて怯えて、不味い食事を食べて、自分の今後を考えるといいさ。
いや、だから『ライブヴァーミリオン』。ビビるは止めて。心にクルから。