第100話 猫耳追加
「ワンニェです。シーフです」
「ニャルーヤだよ。シーフだね」
さて、今わたしたちの前には二人の猫耳娘がいる。二人とも、わたしと同世代くらいだね。
ワンニェがキジ猫で、ニャルーヤがサバ猫だ。黒猫、白猫はどこだ?
協会事務所の端っこでしょぼくれてたワンニェとニャルーヤを『クリムゾンティアーズ』が拾ってきたらしい。
そりゃシーフのペアなんて、誘うパーティ無いでしょう。そう言えば柴犬ーズもシーフ願望強かったっけ。
この二人、先日の事件の被害者だ。なんでも村で居場所が無くなって、ヴィットヴェーンに出てきて冒険者になった3日後に被害にあったらしい。なんと不遇な。
「ドールアッシャさん」
ドールアッシャさんに話を手渡した。
「わたしたちは『訳あり』の集まりよ。あなたたちを受け入れる準備はあるわ。どうしたいかしら?」
「お世話になりたいです」
「助かるよ」
「二人はわたしたちの家族になれる?」
「家族! 家族になれるんですか!?」
「嬉しいよ。最高だよ」
ターンやチャート、シローネなんかは猫耳を見ながらシッポブンブンだ。あんまりイジるんじゃないよ?
こうして『訳あり令嬢たちの集い』に猫耳娘が2人追加された。犬耳3人に猫耳3人。バランスが良いね!
◇◇◇
「ふむ、シーフの次はソルジャー。それと読み書き、計算も」
「分かりました」
「分かったよー」
「ふむ」
ターン教官による新人教育だ。格好良いよ、ターン。
例の騒動はわたし的にすっごいもやもやした終わり方だったけど、気分一新、今回は新たなメンバーを迎えての特別編成だ。
わたしとターン、ワンニェとニャルーヤ、そして特別参加のドールアッシャさん。同族だけに見ておきたいらしい。
これとは別に『ルナティックグリーン』は、リッタをリーダーにして、イーサさん、ズィスラとヘリトゥラっていう編成で頑張ってくれている。
寂しいけど、リッタとイーサさんはそろそろ別パーティかもね。
「ターンは厳しいぞ」
「はい!」
じゃあ、行ってみようか。今回は余裕を見ての1泊2日だ。
そうそう。こうやって貴族だとか無しで迷宮に潜るのが、一番だよ。
「カエルです」
「カエルだー」
「そう、カエルだぞ」
「あの、このノリがずっと続くんでしょうか」
ターン教官の的確な表現が飛ぶ。カエルだねえ。
ドールアッシャさんの疑問はもっともだけど、わたしに制御できるわけないでしょう。
「サワ、よろしく」
「任せて」
パーティを分割して、カエル狩りに突入するのは、わたしとワンニェ、ニャルーヤだけだ。
ちなみに二人はレベル5らしい。
「緑色です」
「緑色だ」
「そう、サワはこうして強くなった。ターンもだ」
「はい」
「分かったー」
たった2時間で、ドールアッシャさんの目が死に始めている。自分から来たのにね。
はい、二人ともレベル8。次は9層だね。
ドールアッシャさんって、何気にウィザード持ってないんだよね。忘れられがちだけど、エンチャンター互助会、前副会長なんだ。当然エンチャンタースタートで、前衛ジョブ上げてからやっと後衛ジョブに戻ってきたところで、今はプリーストだよ。
よって、9層はターンの独擅場だ。
わたしとドールアッシャさんはパーティを外れ、3人を見届ける係だ。
「『ダ=ルマート』」
「氷魔法だ」
「凄いねー」
「むふん。『ティル=トウェリア』」
「うわあ、あれって最強魔法だよ」
「凄いねー」
「むふふん」
「あのサワさん……」
「3人とも楽しそうだから、良いんじゃないですか」
はい。レベル11。
次は21層だね。流石にここからは5人パーティだ。
「ワンニェとニャルーヤは避けることに集中して」
「……避けろ」
「分かりました」
「分かったー」
ターン教官ごめん。台詞とっちゃった。
で、2時間後、二人はマスターレベルになっていた。
「凄いです」
「マスターだー」
「ターン教官、指示を」
「ふむ。31層に行くぞ」
◇◇◇
「そう言えば、ドールアッシャさんって、何故エンチャンターに」
ここは31層だ。まだ時間も早いので、陣地で一休みの途中だよ。
「騙されたんです」
「は?」
「田舎から出てきてジョブ選びをしている時に、たまたま協会事務所に居たドルント会長に言われたんです。君には素質がある。エンチャンターは最高のジョブだって。今なら宿舎も用意できるって」
「はあ」
何やってんだ、あのじいさん。
今でこそパーティに1枚と言われるバッファーだけど、当時は最不遇ジョブじゃないか。
「そ、それで今後の予定は」
ドールアッシャさんは今、プリーストのレベル17だ。今後はウィザード取って後衛系って話だったけど。
「モンクからグラップラーになりたいんです」
殴りジョブじゃないか。何が彼女をそうしたんだ?
「サワさん」
「はい、なんでしょう」
「グラップラーの上位ジョブってあるんでしょうか」
「ヴァハグンとスクネ、フェイフォンって言うのがありますね」
「……わたしはそれを目指します」
「そりゃまたなんで」
「殴ったり関節技を使ったり、肉弾戦が好きなんです。肉を叩く感触が心地よくって」
すっさまじくシンプルだった。ネコパンチ恐るべし。
「ドールアッシャさん、凄いです」
「かっこいいー」
「ふむ、ターンも応援するぞ」
ウチの殴り担当と言えば、サーシェスタさん最強だけど、別のアプローチで殴りを極めようってか。その意気や良し。応援するしかないね。色んなジョブ編成があった方が面白いもんね。
「じゃあ、今日と明日でちゃちゃっとコンプリートして、次はモンクですね」
「ええ!」
◇◇◇
翌日の昼に、ワンニェとニャルーヤ、ついでにドールアッシャさんもコンプリートを達成した。よしよし。
さあジョブチェンジだと冒険者協会を訪ねると、何か変なのがいた。
「やあ待っていたよ。俺はジェートリアスタ・エア・サシュテューン伯爵が三男、ジュエルトリア・イル・サシュテューンだ。気軽にジュエルと呼んでくれていいよ」
「はあ」
何かこう、すっごい暑苦しいのが出てきた。キラキラの金髪を長く伸ばして、後ろで縛っているけど、前に少しだけ垂れ下がってる。青い瞳の目つきは優しいけど、なんかウザい。必要以上にキラキラしているんだ。雰囲気がだよ。
それより何より、その兄ちゃんの取り巻きが酷い。5人の女性。ケバいのから清楚なのまで、ワザと取り揃えたんじゃないかってくらい、バリエーション豊富でキャラがカブっていない。エルフもいればセリアンもいる。
おお、メガネっ娘までいるじゃないか。負けた。
つまりは完璧なるハーレムパーティだということだ。
「何か御用ですか?」
「いやね、この街で最強の冒険者は誰かって聞いたらさ、それはサワ嬢とターン嬢だと皆が口をそろえて言うんだ。それで一度会ってみたくなってね、わざわざ待っていたんだよ」
「それはご丁寧に。どうも」
ところで、サシュテューン家を名乗っていいのか? 多分だけど、勘当されてるはずだよね。あのサシュテューン伯爵が関知しないとまで言ったんだ。
「俺たちのパーティ名は『咲き誇る薔薇』。いずれヴィットヴェーン最強となるパーティだ。覚えておくと良いよ」
「はい」
忘れよう。そうしよう。
「そしてこれは宣戦布告だよ」
「何をでしょう」
「何って、今、君たちはヴィットヴェーン最強なんだろう? その座を奪うと言っているんだよ」
「そうですか。ご健闘をお祈りいたします」
本気で何言ってんだこいつ。
「ねぇジュエル、もうそんな地味な女ほっといて行きましょうよぉ」
なんかピンクブロンドのヒューマンが横から登場した。そうだよ、地味で良いからほっといて。
「そうだね、アリシャーヤ。じゃあサワ嬢、また会おう」
うっぜえ。会いたくねー。
それから、3人のジョブチェンジを終えた。ワンニェとニャルーヤがソルジャー、ドールアッシャさんはモンクだ。なんか虚しい。
考えもしてなかったエンカンウトの末、わたしたちはクランハウスに戻った。リッタに何て言おう。